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十八話 幕間 クロカミ共和国2

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 およそ100年前、大陸随一の国家であったセレスティア王国はアレクたち4人を魔王領に向かわせた。

 激戦の末に魔王討伐に成功すると、セレスティア王国は勇者アレクに領地を与えて魔王残党軍の討伐を一任し、王国は復興に専念してしていく。一方、現在のクロカミ共和国は当時弱小国であったが、周辺国家との併合を繰り返して規模を大きくしていった。

 やがてセレスティア王国で内乱が起こると諸貴族たちが独立し、最終的には大陸北部にアレクディア聖王国、南東部にセレスティア王国、南西部にクロカミ共和国と国境が引かれた。だが国の成り立ちの経緯からアレクディアとセレスティアは貿易が活発で同盟も結んでおり、取り残されていたクロカミ共和国は警戒を強めて近年軍事力を増していくのであった。




 クロカミ共和国の実家に呼び戻されたフローネは紛糾ふんきょうしていた。

「どういうことですか、父上!」

 フローネは実家の道場でグレイク流剣術を修めると、武者修行のためにアレクディアにおもむいた。アレクディアは元々魔王領であったため強い魔物が多く生息しており、また強い魔物由来の素材は高く取引されているので多くの強者つわものが集っていたからである。彼女はまだ己の未熟さを理解しており戻るつもりはなかったのだ。

 フローネ自身も国家間に不穏な空気ができつつあるとは感じていた。
 だからこそもっと高みを目指さなければならないはず。
 今グレンと戦ったならどうなるだろうか。
 フローネの頭に浮かんできたのは、雑兵のように吹き飛ばされる自分の姿だった。

「父上っ!!」

 だがフローネの父、ネイガスは娘の成長を感じ取っていた。
 いまここで見せている胆力だけでなく、肉体的にも成長しているように見えたのだ。
 ネイガスは重い口を開いた。

「……フローネ、答えなさい」
「はい……」

「……胸は大きくなったか?」
「…………はい?」

「おっぱいの大きさのことだ……。それと尻と腰回りもだ。さあいくつになったか教えなさい」
「ち、父上!? いったい何を……」

 あの厳格な父がいったいどうしたというのか。フローネは困惑していた。

「これは家の存続に関わる重要事項なのだ。分からないのなら私自ら調べ――」

 ネイガスが膝を立ち上がろうとすると、後ろから叩かれて前のめりに倒れた。

「母上っ!?」
「この人ったら舌足らずなんだから……」

 それはフローネの母マルティナであった。
 フローネは思わずマルティナの胸に飛び込んだ。
 だがマルティナは半身になって躱すと後ろに回り込む。
 フローネが動揺している隙をついて体をまさぐり始めた。

「まだまだ甘いわね。フローネちゃん……なるほど確かに大きくなっているわね」

 解放されたフローネはへたり込んで母を見た。

「は、母上……どうしたというのですか?」

 顔を赤くしたフローネに向けてマルティナは宣言した。

「単刀直入に言うわ。フローネ……あなたはアイドルになるのよっ!!」
「アイド……ル?」

 サイズを知りたかったのは衣装のためであった。
 だがまさぐる必要はない。

「私たちも先日初めて聞いたわ。知っていますか?」

「アレクサンドの路地裏で何度かちらっと見たことがあります。男性たちの異様な熱気の中心で歌いながら踊っていて、それが終わったらハイタッチしたり握手したり、手作りのグッズを販売してたことくらいしか知りません」

 ……意外に詳しいじゃない。

 自分もあと3年若ければ。
 マルティナは悔しさを隠しながら通達した。

「これは上層部からの指令です。明日正午クロノ議員の道場に集合せよ、とのことです。よいですね?」

 クロノ議員とはアイドルプロジェクトの総責任者であり若手の中では頭一つ抜けた政治家である。端正な顔立ちで、幼いころから苦労を重ねてのし上がってきたことから気配り上手な男と評判であるが、一方で非常に冷酷な一面を持っているとも噂されていた。そのためフローネは父が家の存続に関わると言った言葉を理解した。

「……分かりました。私、アイドルになりますっ!」
「よく言ったわ、フローネ。……ではこの扇子を授けます」

「母上! これは……」
「昨日競り落としたものよ」

 特に由来があるものではなかった。
 がっかりするフローネを慰めるようにマルティナは呟いた。

「これは何の変哲もない扇子……これをあなた色に染めてみなさい」

 フローネは自室に戻ると扇子を眺めた。
 だが扇子は既に黄ばんでおり、ババ臭い香水の匂いが漂っていた。
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