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十二話 それぞれの過去

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「はあぁぁぁ!!」

 グレンは3体の巨人と戦っていた。
 3階建ての建物ほどの背丈の巨人に対してグレン1人。

 それはギルド長に要請された最後の依頼で、1級冒険者が複数人で挑むレベルの難易度であった。
 そのためスタロの出番はなかったが、ラウラは普段通りにグレン3号で戦況を見守っていた。

「乗ってきてるわね、グレン」
「そうなんスか?」

「最近は弱い魔物ばかりと戦っていたから消化不良だったし、ようやく強い魔物と戦えてキレが出てきているのね」

 スタロは耳を疑った。

 今まで倒してきた魔物が弱いと言われた事が信じられなかった。
 だが同時に強いグレンの弟子となったことに誇りを感じて、グレンの事をもっと知りたくなっていった。
 そして戦いを目に焼き付けようとした。

 グレンは3体の攻撃を防ぎながらも、1体の巨人の片足を切断すると空中に飛び出した。

「さあ、何が出るかしら?」

 ラウラのつぶやきとほぼ同時に大剣は振り下ろされた。

うなれ! ガイアクラッシャー!!」

 巨人を脳天から真っ二つに切断すると、グレンは残りの2体に向かっていった。

「唸れか、やっぱり相当乗ってるわね」
「どういうことっスか、ラウラさん」
「グレンは気分によって叫び方が変わるのよ」

「へぇ~、そうなんスか」
「あれはグレンと出会ったばかりの頃だったわ……」

 ラウラは聞かれてもないのに饒舌じょうぜつにグレンのことを語りだした。
 スタロはめんどくさく思いながらも付き合う事にした。

「あの頃のグレンはいつも自信なさげで、両想いだった幼馴染に告白しないで同僚に盗られるような男だったの……」

 憧れのグレンのそんな話をしないでくれ。
 スタロは顔を歪めた。
 ラウラはそれに気づかず遠くを見つめて話し続けた。

「私がグレンの才能に気づいて連れ出した後も、しばらくはからを破れないでいたの。それでみんなで話し合って技名を叫ばせるようにさせたのよ。それからグレンはグングン伸びていったわ。最初は恥ずかしがったけど、すぐにノリノリで叫び始めたし、いつの間にかバリエーションも増えていったの」

「へぇ~、そうなんすか」
「だからあんたも強くなりたかったら自分の殻を破ってみなさい」

 スタロはしばし考え込むと忘れかけていた事を思い出した。

「おいら、思い出したっス。昔、母ちゃんにも同じようなことを言われた事があったっス」

 ラウラは特に興味がなかったが仕方なく聞くことにした。

「おいらの家は貧乏だったけど仲良く暮らしていたっス。でも突然父ちゃんが死んじゃったんス。だけど母ちゃんが沢山働いて稼いでくれたっス」

「お母さんは頑張ったのね……」
「でも父ちゃんの忘れ形見ができて、どんどん苦しくなっていったっス。五つ子だったっス」

「ホントに頑張ったわね!! あんたの母ちゃん!!」
「おいらも魚を釣ったり、山で狩りをしたりして母ちゃんを助けていたっス」

 思わぬ展開にラウラはグレンの戦いを忘れて聞き入っていた。

「そのうち弟たちも大きくなって、釣りも狩りもうまくなって沢山食べれる様になったんス」
「そう、良かったわね」

「生活にも余裕ができて、母ちゃんはおいらに言ったっス。今まで我慢させてごめんね。これからは我慢しないで思ってる事を素直に言っていいのよって。だからおいら言ったっス……」
「そう……、なんて言ったの?」

「母ちゃん、太ったねって」

 ……こいつは本物のアホだ。ラウラは確信した。

「そしたら母ちゃんは急に荷造りしだして、おいらは家を出ることになったっス」
「そりゃ怒るに決まってるわ!」

「違うっス! 母ちゃん言ったっス。あんたは可愛いから旅に出すんだよって。だからおいら冒険者になったんス」

 本人がそう思っているなら否定する必要はあるまい。
 ラウラは疲れ果てた表情でグレンを迎えると近くの町で休む事にした。

 その町にはアレクサンドからの号外が届いていた。

『天才美少女魔導士誕生!! 大魔導士ラウラを越える逸材か!?』
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