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しおりを挟む「グスタフ様、王太子府にお戻りになられませんか? 次代の王たる者が酒色に溺れると噂されてはお名前に傷が……」
「これは、これは我が婚約者殿。このような夜分に私を迎えに来てくれたのか? その心遣い嬉しくもあるが、今日はいらぬ世話だっ!!! 酒が不味くなるであろう!!」
レンフォード公爵家の邸宅で開かれていたのは、グスタフ王太子の取り巻き貴族を集めた酒宴であった。
皆、昼間からお気に入りの女性を連れ込み飲んでいた酒で目が濁り、泥酔した様子の者が多数見受けられる。
その様子を見たコーデリアからはため息が漏れだしていた。
なぜなら、ここに居並ぶ貴族たちは今の王政の後世代を担う者たちであるからだ。
未来の宰相たる異母兄フェルディナンドを始め、財務大臣、内務大臣、防衛大臣、外務大臣、近衛総監など重役を担うべき大貴族の嫡子たちが、昼間から女性を侍らせ酒を浴びるように飲み続けているのである。
「コーデリア、出過ぎた真似をするなっ! グスタフ様の機嫌を損ねるとは何事だ! 今すぐこの場より立ち去れ!」
同じように女性を侍らせ飲んだくれていたフェルディナンドも、グスタフ王太子と同じような反応を見せ、無粋な闖入者としてコーデリアに立ち去るようにと激高していた。
異母兄フェルディナンドとしては、異母妹の幸せよりも、自分の栄達の方が大事なのだ。
不調法なコーデリアが放った賢しげな言葉で、歓心を買うために苦労しているグスタフ王太子の心が離れていくのが何より怖かったようだ。
「兄上、王と王妃がグスタフ様の行状に心を痛めております。せめて、しばらくは酒宴をお控えくださいませ」
異母兄と婚約者からの冷たい視線に怖じることなく、コーデリアは酒色に溺れる二人に諫言を募る。
王と王妃より息子であるグスタフ王太子を頼むと言われていたことが、コーデリアの心を勇気づけていたのだ。
「あのクソジジイとクソババアが余計なこと言いやがって……。老い先短い癖に……グダグダとうるせえこと言いやがって」
「グスタフ様、父上と母上ですよ。そのような物言いはいかがなものかと存じますが」
「うるさい。私に指図するなっ! お前を婚約者にしたのは間違いだった! フェルディナンドがどうしても申すから興味本位で婚約してやったが、女のとしての魅力はこのバーバラとは比べ物にならぬほど劣るではないか。それに私に対し愚弄するような物言いまでも行うとは……許せぬ!」
口から泡を飛ばす勢いで激高している婚約者のグスタフ王太子の隣では、商売女のように肌も露わな服を着た、コーデリアと同じくらいの歳の金髪碧眼の女性が挑戦的な視線を向けてきていた。
その眼は公爵令嬢というコーデリアの出自に対抗心を抱いているようで、女の色気を武器にのし上がってやろうという野心も見え隠れしているように感じられる女性であった。
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