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しおりを挟む「わたくしの縁談でございますか?」
「ああ、縁談だ。それも相手はグスタフ王太子だぞ。彼の正室として王家とレンフォード公爵家の結束を更に強固とするための礎となって欲しいのだ。すでに先方には『まずは婚約から』と話を通してある。向こうも王立貴族学院の同窓生としてお前のことは知っておるそうだ」
伴侶として生涯を共にする相手としては最悪の人物の名が、異母兄より告げられた。
王立貴族学院の女性貴族たちの間で結婚したい男として五年連続の一位を獲得した男。
王家の嫡男として常に同窓生たちからの注目を浴び、女性に関しては醜聞が色々と取り沙汰された男。
コーデリアも貴族の一員である以上、庶民のようなお互いに好き合っての結婚は望んではいなかったが、婚約する相手がどう考えても女性問題で自分が苦しめられる相手だと知ると、婚約に二の足を踏んでしまう。
そんな婚約相手の名を聞きコーデリアは愕然として、押し留めていた自らの感情をおもわず表に出してしまう。
「その顔、よもや不服か? 王家はこの国一番の大貴族。その嫡男であり次期国王であるグスタフ王太子との婚約は両家の繁栄を約束するはずだ。それをお前は不服と申すか? レンフォード公爵令嬢のお前が」
コーデリアが僅かに出した不服そうな表情を逃さずに捉えたフェルディナンドは、ネチネチといたぶるように問い返してくる。
その言葉の端々に当主という権勢を手にした愉悦が混ぜ込まれ、コーデリアに対し自分が優位に立っていることを思い知らせようとさせてきていた。
「いえ、不服などでは……。ですが、グスタフ王太子はわたくしの器量程度ではご満足されぬはずです。それをいきなり婚約とは……」
困惑を押し殺し、表情を引き締め直したコーデリアが、遠回しに縁談を断る方向へ話を向けていく。
けれど、フェルディナンドは間髪入れずに話を続けてきた。
「向こうはお前を気に入っておる。私が話を持っていったら、即座に返事を寄越してきたのだ。ここに熱烈な手紙も預かってきておる」
フェルディナンドが胸元から差し出した手紙を受け取ったコーデリアは、手紙の中身に目を落としていった。
そこには、王立貴族学院時代から自分のことを好いていたというグスタフ王太子の熱烈な文言がしたためられており、婚約に対する相手の意気込みが窺い知れるものとなっている。
ただ、グスタフ王太子が関係したほぼすべての女性に対し、こういった熱い想いを綴った手紙を送る筆まめな人物だとコーデリアは知っていた。
きっと、彼にとってはお気に入りの側近の機嫌取りがてら、いつもとは変わった女性貴族を味見してみたくなったのだとコーデリアは思っている。
けれど、グスタフ王太子との婚約に乗り気な異母兄の様子を見て、コーデリアは逃れられない運命だと悟ってしまった。
「そういうことでしたら、わたくしに不服はありませぬ。レンフォード公爵令嬢としてグスタフ王太子と婚約することに致しましょう。兄上にはご足労をおかけしますが、縁談の件をなにとぞよしなにお頼み申します」
当主であるフェルディナンドの言葉に逆らえば、実家の屋敷に幽閉され、死ぬまで外の世界を拝めないことになる。
そうなるくらいなら、女好きの婚約者でも自分の言うことを多少なりとも聞いてくれる男に嫁いだ方がマシだとコーデリアは計算していたのだ。
そして、二週間が経った頃、レンフォード公爵令嬢コーデリアとグスタフ王太子との婚約が正式に発表された。
この発表に王も喜び、異母兄フェルディナンドの計らいでグスタフ王太子との婚約パレードが王都の目抜き通りで盛大に挙行され、国民すべてに祝福される形で二人の婚約は行われた。
それからはコーデリアに対し、結婚に向け王太子妃にふさわしい挙措や知識を学ぶための王太子妃教育の準備が進められることとなった。
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