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Side:氷上ゆいな 密かな想い
しおりを挟む※氷川ゆいな視点
三郎様の配信を流しているPC画面から、ずっと目が離せずにいた。
多くの研究者たちが、探索者たちの使う魔法についての研究を重ねていたが、ブラックボックスだった部分を三郎様がさらりと解き明かしたのだ。
たしかに、三郎様が魔法モドキと言われた、特性を使用した魔法を行使する際、何かの声らしきものが聞こえた。
自分の特性である凍らせる力を発動させる時、雑音に近い、ボソボソとした人の声のようなものが聞こえている。
研究者たちは、その音をストレス環境下での自律神経の変調からくる幻聴だと結論付けていたが、それが間違いだったことは三郎様が配信で明らかにした。
特性を発動させてみると、ノイズのような音が聞こえる。
これが精霊たちの声だったとは……。
そう言えば、この雑音みたいな音の聞こえる強さが、魔法系特性の強さだって研究発表もあったはず。
特性検査の際も、魔法系の特性らしきものを持った人には、音の聞き取る能力を検査を実施しているはずよね。
葵さんは、たしか探索者としてギリギリ認められるくらいの数値しかなかったはずなんだけど。
「葵さんの特性検査のランクはFでしたよね?」
隣に立つ女性秘書が手にしたタブレットに視線を落とす。
「はい、火属性特性を持っておりますが、数値のランク査定はFとなっています。だからこそ、佐藤三郎氏の同行を条件に免許を交付しているはずです」
「ですが、三郎様の指導のもと、葵さんの放った魔法の威力は、明らかにSランク以上」
「はい、Sランク探索者の方でも、火村氏の放った魔法の威力は出せないかと」
「わたくしたちは、魔法系特性について根本的に間違った認識をしているようですね。それが、三郎様の配信で明らかになりました」
「私もそう思います。この配信を契機に、今までの魔法系特性の研究は一気に古い物になったかと。すでにSNSを通じて世界各国が精霊の存在についてざわついております。いい意味でも、悪い意味でも」
女性秘書の言葉から、今後の混乱が重大なものになると感じさせられた。
いい意味は、精霊の存在を可視化し、対話によって彼らと協力関係を築ければ、探索者はより強力な魔法を使いこなせるようになること。
悪い意味は、精霊の力を扱えるようになった魔法系探索者の戦闘能力は、飛躍的に上がり、軍隊に匹敵するとオールドジェネレーションたちが感じるようになることだ。
「大変なことになりましたね……」
「精霊の件は、日本政府と早急に話し合い、世界各国の共同研究にしなければ戦争になりかねません。あと、佐藤三郎氏の処遇ですが……」
女性秘書は、配信を続けているPCモニター上の三郎様に視線を向ける。
「彼は誰にも抑えられません。下手に何かを強要すれば、強要した者が消されてしまいます。葵さんを通してなるべく気分よく探索配信をしてもらい、その知識や力を各国で共有するという形で納得してもらうしかありませんね」
「それで、納得するでしょうか?」
「させるしかありません。暴れ出した三郎様を誰か止められるとでも?」
こちらの問いに、女性秘書が声を詰まらせた。
誰も彼を止められる人はいない。
現代兵器を使ったとしても、彼の施す防護魔法を突破するのは不可能だ。
人ではあるけれど、明らかに与えられている能力は人を超えている。
もしかしたら、神と称される存在なのかもしれない。
そう思えば、彼の力に心酔することに抵抗は感じられなくなる。
神の力を持つ男性。
不意にエンシェントドラゴンの攻撃によって、弾き飛ばされ、彼に抱きしめられた時のことが思い出される。
思えば、男性に抱きしめられたのは、あれが初めてだったかもしれない。
いつも守る側だったわたくしが、あの時、初めて守られる側になった。
彼にすべてを任せ、自分は赤子のようにただその場所で見ているだけだったが、不安を欠片も感じなかったのは初めての経験だった。
あれは本当に心地よい体験だったのかも。
三郎様に抱きしめられたことを思い出すと、心臓の鼓動が早くなり、体温が上がった。
「ゆいな社長? どうかされましたか?」
「い、いえ。問題ありません。とりあえず、すぐに関連部署の人たちを呼んでください。あの配信を見た人からの対応も強化をお願いします!」
「承知しました」
女性秘書が社長室から飛び出していくのを見送ると、もう一度配信を続けているPCモニター上の三郎様の顔をジッと見つめる。
三郎様のサポートは、わたくしがしっかり行いますので、ご安心ください。
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