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第8話 師匠と弟子とは?
しおりを挟む葵がめんどくさい交渉をまとめてきてくれて1週間が経った。
ダンジョンスターズ社から謝罪の品だとしてもらってきたチョコバーをしまってある棚から取り出そうとすると声が掛かった。
「サブローさん、チョコバー食いすぎっスよ。1日1本って言ったじゃないっすか」
「問題ない。これが今日の1本目だ」
「はーい、嘘っス。ちゃんと数えてるんで、それ3本目っす」
葵が、俺の手から最強の携帯食料であるチョコバーを取り上げた。
俺がもらったものだから、俺がどうしようと、俺の自由のはずだが――
抗議をしようとすると、代わりに朝食の乗ったお盆を差し出された。
「朝ごはんっす。あたしのご飯食べられなくなるから、チョコバーは没収!」
「そういうことなら、我慢しよう」
自分と葵の分の朝食の乗ったお盆を受け取ると、テーブルに運ぶ。
カリカリに焼いたベーコンと、溶けたチーズがタップリと、野菜のたっぷり入ったコンソメスープが鼻を刺激する匂いを発していた。
調理を終えた葵がテーブルに着くと、朝食を取り始める。
「サブローさん、食べながらでいいっすから、あたしの話を聞いてください」
「ん? なんだ、唐突に? ああ、分かった。スーパータカミで臨時バイトして欲しいって話か。別に暇してるからやってもいいぞ」
「違うっす! あたし、探索者になったっす!」
葵がテーブルの上に探索者免許を置いた。
わりと『しゃしん』の映りはいい感じだな。
葵の口の悪さを知らないやつが見たら、絶対に騙されて惚れるやつが出るだろう。
「そうか、それはよかったな」
最近、『がっこう』やバイト以外で外に出てることが多かったのは、探索者免許を取りに行ってたのか。
それにしても、葵が戦士の道を目指すだって? 無理だろ……。
飯を作るのは上手いが、戦いの技術は素人以下。
よく、免許交付を認めたな。
「で?」
「ここ見て下さいっす! ここ! ほら、ここっス!」
騒ぐ葵が指差した免許に書かれた場所に視線を落とす。
『ただし、この免許が有効となるには佐藤三郎のもとでのみ』
ん? 俺のもとでのみってどういう意味だ?
探索者免許って普通各個人に付与される免許だと、半分意識が飛んでた講義で喋ってた記憶があるが。
「なんで、俺のもとなんだ?」
「弟子っス、弟子! サブローさんの弟子としてなら、ギリ免許交付してもらえたっす!」
「待て待て! 俺はお前を弟子にとった覚えはないぞ」
育ての父母たちからは、口が酸っぱくなるほど、『お前は、教えるのが苦手だから弟子を取るな』と言われたし、実際俺も弟子なんて面倒くさいものは欲しくない。
特に葵みたいな口の立つ、騒がしい弟子なんてこっちから願い下げだった。
「弟子を取るというのは、師匠になる者が弟子の素質を認めて――」
「あと、サブローチャンネルのサポート探索者登録しといたっす。チャンネルアシスタントみたいな立ち位置でオッケーっす。とりあえず、契約書類作ったんで、サブローさんはここに拇印を押してくださいっすね。ほら、ここです。ここ」
こちらの話に聞く耳を持たず、葵は1枚の書類をテーブルの上に出すと、俺の手を取る。
「おい、俺の話を聞いてるのか?」
「大丈夫っす。あたしは、優秀な弟子でアシスタントっすからサブローさんに迷惑はかけないっす。それと、この契約が成立すれば、あたしの収入も上がって、サブローさんの食事のアップグレードは確実っすよ」
ニンマリと笑う葵がテーブルの上の食事を指差した。
食事の質が上がる……だと……。
葵を弟子にしたら、肉料理が増えるということか……。
もやし料理を始めとした節約料理は、それはそれでうまいが、肉の美味さには勝てない。
一度だけ食べさせてもらった牛肉は、今思い出すだけでもよだれが止まらなくなる。
思い出したらゴクリと喉が鳴った。
いや、待て! これは何かの罠だ! 契約を急かす葵は、何かを企んでいるに違いない!
「待て、待て! 何を企んでいる!」
「何も企んでないっすよ。あたしが探索者やるには、サブローさんが保護者みたいな立場の師匠をやらないといけない免許しかもらえなくて、どうせならチャンネルのアシスタントみたいなことやろうって思っただけっす。なにせ、サブローチャンネルは登録者5万人超えてきた中堅チャンネルっすからね! それと学校の許可も取ってきたし、皐月叔母さんもサブローさんがししょーならオッケーって言ってくれてるっす」
ニッコリ笑う葵が自分の『すまほ』を取り出し、画面を見せてきた。
葵から例の社長との騒動のことで、ダンジョンスターズ社は、いろいろとゴタゴタしてると聞いたが、ひよっこが父の代わりに社長に就いて、停止中の配信興行の再開に動いているらしい。
葵から聞いたが、俺がエンシェントドラゴンを屠った動画や、荒れ地に魔法を撃った動画が『ばずった』らしく、『ハイシン』を求める声が大きいらしい。
「エンシェントドラゴンみたいな雑魚を倒す見世物みたいなやつは、もうやらんって言ってるだろう。強い魔物を倒すのが戦士たる者の務めだ。だから、俺が倒すのは最強の魔物であるスライムだけだ」
「あー、はいはい。そうっすね。それで、いいっす。じゃあ、拇印もらいますねー」
俺の親指に赤い液体を付けたかと思うと、書類を押し付けてきた。
「はい、契約完了っす。これで、サブローさんの食事のグレードアップ間違いなしっす。あ、これ、契約祝いに食べていいっすよ」
ティッシュとともに、さっき没収されたチョコバーを1本差し出してきた。
また、葵がこっちの話を聞かずに勝手に進める。
でもまぁ、俺の不利になることは、不思議としないやつだから、何かを企んでいてもこっちに害はないわけで。
飯の質がよくなるのと、チョコバーが付くのなら、世話になってる葵を弟子に取るくらいは許してやってもいいとは思う。
ダンジョンに入る前に、しっかりと戦士としての訓練を積ませてやれば、スライムに無謀な戦いを挑む愚かなことはしなくなるだろうしな。
まずは基礎的な訓練からってところか――。
俺は差し出されたティッシュで親指を綺麗に拭くと、チョコバーを受け取って袋を破り、口に咥えた。
「はぁー、しょうがねえな。弟子にしてやる」
「じゃあ、今日からはサブローししょーって呼ぶっすね」
「勝手にしろ」
「サブローししょー。早速っすけど、朝食終わったら今日から配信活動再開っス。Tチューブも正常化したみたいですし、ダンジョンスターズ社から配信興行再開のお知らせが来てるっすから。準備よろっす!」
葵はそれだけ言うと、自分の朝食を取り始めた。
今日からだと……。
素人同然の葵を連れて、あの最強生物スライムがうろつく、超難関ダンジョンを探索しろと!?
「無理だ! 無理! お前はあのダンジョンの怖さを分かってない! 今のまま行ったら死ぬぞ!」
「サブローししょーがいるから大丈夫っすよ。あたしは、サポート探索者に徹する感じだし」
「そもそも、基礎訓練もしてないのにダンジョンに潜るなど――」
「はいはい、早く朝食食べないと下げちゃいますよー」
「待て! 飯は食う! だが、俺の話を聞け――」
『すまほ』が振動すると、画面を見た葵が朝食を食べる手を止めて、自室に移動した。
「お疲れさまっす。あー、はいはい。サブローさんの許可は取ったっすよ。ええ、はい、今日からイケるっす。準備を進めておいてください。よろしくっす!」
「おーい! 葵、俺の話を聞け――!」
「今日の探索配信を成功させたら、報酬はチョコバー3本っすよ。ほらほら」
自室から顔を出した葵の手には、新たなチョコバーが3本あった。
ぐぬぬ! それは欲しい!
だが、危険の伴う探索に、基礎訓練すら終わっていない素人以下の葵を連れて行くのは――
「夕食は牛肉のステーキとかでお祝いかもしれないっすねー」
チラチラとこちらの様子を窺うのはやめろ。
俺が飯で釣れると思ってるだろ!
俺がそんな罠に――
「スーパータカミの唐揚げも付いちゃうかもしれないっす」
「おし! やるぞ! 早く飯を食え! すぐに出発する!」
唐揚げは卑怯だ! そんな報酬が提示されたら、どれだけ困難な仕事であろうが、やり遂げるしかないだろう!
ハイシンとやらはどうなろうと知らんが、要は葵を無事に連れ帰ればいいわけだし。
防護魔法をかけまくって、魔物が近寄れないようにしておけば、ド素人の葵が超難関ダンジョンに入っても生きて帰ることはできるはず。
俺は急いで朝食を食べると、葵を連れ、東京ダンジョンに向かうことにした。
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