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その指先に逆らえない⑥
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鼻で笑い飛ばしたくなるほどの冗談みたい。それなのに……「無論」と眉間に力を入れた殿下は、とても真剣だ。
「きみから買い取った薬は、全て王室の薬師に鑑定させた。その上で、兵士や騎士たち、または有能な商団などに渡し、きみの薬の効果は実証させている。魔女アリスは国が抱えるべき有能な魔女であると……父上である陛下も認めてくださった。そして俺がどんなに他の女に興味がないか、きみ以外を娶らないと頑なか、学生時代から他国にも知れ渡らせている。そこに湧いたスカーレット嬢の企みだ。きみに繋がれるならと、喜んで利用させてもらったさ。確かに、俺はずるい男だ。だけど利用できるものは何でも利用する。子供の頃の思い出だけじゃない。客や患者に対する誠実さ、ひたむきさにも、俺は心を打たれたんだ。俺はきみ以外を伴侶することなんて、考えられない」
早口で捲し立てたせいか、私が重いせいか……ずんずんと浴場を進んだ殿下が呼吸を整える。下ろされたのは、湯殿の中。これまた、この数日使わせて貰っていたお風呂とは大きさも煌びやかさも比べ物にならない。もちろん、森の小屋の釜風呂とは大違い。
立っても胸が十分浸かるくらいに深いお風呂の中で一瞬よろめくと、殿下の逞しい腕がそっと支えてくれる。
「魔女アリーシャの仮説にひとつ異論を唱えさせてもらおう」
「……え?」
「俺の恋心は、とても十夜なんかじゃ冷めてくれなかったさ」
そして、ゆっくりと私の腹部に手を忍ばせ、薄い腹を撫でる。お風呂に浮かべられた花びらがゆっくりと揺れる。
「本当は、この間に身ごもって貰えたら文句なしだったんだけどね」
「……そこは、しっかりと避妊薬を飲ませていただいておりましたので」
「やはり抜け目ないか……それでも、この国を挙げた大騒動で、俺は知らしめてやったよ」
優しい、優しい指先は、まるで本当に身ごもった子供を慈しむよう。
だけど、その愛情は私なんかに向けるべきではない。もっと将来の、きちんとした淑女へと向けるべきもののはずなのに。
そのあたたかな手は、たしかに私の頬をしっかりと包むから。
「ルーファス・イル・ローランドは、『はぐれ森の魔女アリス』が欲しい――どうか、俺のものになってもらえないだろうか?」
「きみから買い取った薬は、全て王室の薬師に鑑定させた。その上で、兵士や騎士たち、または有能な商団などに渡し、きみの薬の効果は実証させている。魔女アリスは国が抱えるべき有能な魔女であると……父上である陛下も認めてくださった。そして俺がどんなに他の女に興味がないか、きみ以外を娶らないと頑なか、学生時代から他国にも知れ渡らせている。そこに湧いたスカーレット嬢の企みだ。きみに繋がれるならと、喜んで利用させてもらったさ。確かに、俺はずるい男だ。だけど利用できるものは何でも利用する。子供の頃の思い出だけじゃない。客や患者に対する誠実さ、ひたむきさにも、俺は心を打たれたんだ。俺はきみ以外を伴侶することなんて、考えられない」
早口で捲し立てたせいか、私が重いせいか……ずんずんと浴場を進んだ殿下が呼吸を整える。下ろされたのは、湯殿の中。これまた、この数日使わせて貰っていたお風呂とは大きさも煌びやかさも比べ物にならない。もちろん、森の小屋の釜風呂とは大違い。
立っても胸が十分浸かるくらいに深いお風呂の中で一瞬よろめくと、殿下の逞しい腕がそっと支えてくれる。
「魔女アリーシャの仮説にひとつ異論を唱えさせてもらおう」
「……え?」
「俺の恋心は、とても十夜なんかじゃ冷めてくれなかったさ」
そして、ゆっくりと私の腹部に手を忍ばせ、薄い腹を撫でる。お風呂に浮かべられた花びらがゆっくりと揺れる。
「本当は、この間に身ごもって貰えたら文句なしだったんだけどね」
「……そこは、しっかりと避妊薬を飲ませていただいておりましたので」
「やはり抜け目ないか……それでも、この国を挙げた大騒動で、俺は知らしめてやったよ」
優しい、優しい指先は、まるで本当に身ごもった子供を慈しむよう。
だけど、その愛情は私なんかに向けるべきではない。もっと将来の、きちんとした淑女へと向けるべきもののはずなのに。
そのあたたかな手は、たしかに私の頬をしっかりと包むから。
「ルーファス・イル・ローランドは、『はぐれ森の魔女アリス』が欲しい――どうか、俺のものになってもらえないだろうか?」
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