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その指先に逆らえない④
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私は全力で拒絶する。
「いやですっ! いくら殿下の命令でも、出来ることと出来ないことがありますっ!」
「でも、先にきみを綺麗にすると約束しただろう? それとも、その粉まみれのまま王太子と対話するつもりか? その方がよほど不敬に値すると思うが」
「でしたら、一人でお風呂に入りますから! 少しだけお時間をください!」
「そんな……また逃げられたらと思うと、とても承諾できそうにないな」
王城内の浴室。その手前の洗面所に値するだろう場所で、全てを脱いだ殿下と二人きり。洗面所だというのになんて豪華な客間……とか、明るい場所で見る殿下の裸が……なんて感傷に浸る暇もない。
しきりに私の服……粉まみれのメイド服を脱がそうと、殿下の手が伸びてくる。そして、その手が胸の横を掠って……私は「ひゃんっ」とおかしな声をあげて、一瞬力が抜けてしまう。
「ふふ、少しずつ成果が出ているようで何よりだ」
その隙をついて、ついに私は壁に追い込まれてしまった。
両手を壁に付かれて、私はその中に閉じ込められる。逃げ場がなくて……何かの遠吠えの如く、私は叫んだ。
「ずるいですっ‼」
「ははっ、いまさら。こんな大掛かりなズルを重ねて、ようやくここまで来たのに?」
「ようやくって……」
「あぁ、長かったよ。何年だろう……きみと出会ったのは俺が六つの時だったから、もう二十年くらいになるのか」
どこか夢見がちな目をしながらも、その手はしっかりと服を脱がそうと企んでいる。
私は狭い中でなんとか身を捻りながらも、「どういうことですか?」と疑問符を返した。
殿下は私の背中を抱きしめる。
「こないだ湖畔に行った時に少し話したと思うけど……俺は小さい頃に病気を患っていてね。あの別荘で療養していたんだ。その時に治療に来てくれていた魔女アリーシャ・シャペルベルクと一緒にアリスも来てくれていたんだけど……覚えてる?」
二十年前なら、私はまだ四、五歳だろう。湖畔に行った時に色々既視感を覚えたのは、そのせいだったんだ……。
些細な違和感が繋がったことで、私の殿下を引き剥がそうとする手の力が抜ける。その隙に、殿下がますます私を抱きしめた。首元がくすぐったい。殿下が私の肩に顔を埋めたのだろう。
「きみは、いつも僕に花や草を持ってきてくれたね。魔女アリーシャとは別に、これは解熱に効くとか、これは鎮静作用があるだとか……おばあさんから習ったと自慢げに話しながら、いつも僕にお土産を持ってきてくれたんだよ」
「なっ……! も、もしかして……あの別荘にたくさん飾られていた野草は――」
「あぁ、きみが持ってきてくれた物の一部だ」
俺の私室にもいくつか飾ってあるよ、なんて平然と仰るけど……。
や、やめてください‼ 本当に、ただそこらの薬……それも特別珍しいものでも何でもないじゃないですか⁉ しかも小さい頃に摘んだものだから、摘み方も雑で……て、そんなことは素人にはわからないことだけど……あ、殿下に素人とか失礼? とくにもかくにも、そんな小っ恥ずかしいものを……!
私がどこかの穴に埋もれたい心地でいるというのに、殿下の笑い声が私の耳をくずぐる。
「あの頃は、役に立たない王子として、すごく居心地が悪くてね……友達なんかも当然いなくて。きみが一生懸命にこれはあれはと説明してくれるのが、ものすごく嬉しかったんだ。魔女の治療の甲斐があって、俺が快気してからは、表立って会いに行けなくなったけれど……魔女アリーシャが亡くなったと聞いて、一人になったであろう気が気じゃなくて。木こりなんかに扮して定期的に会いに行ってたんだけど、まったく気がついてくれないものだから」
え……木こり……?
「いやですっ! いくら殿下の命令でも、出来ることと出来ないことがありますっ!」
「でも、先にきみを綺麗にすると約束しただろう? それとも、その粉まみれのまま王太子と対話するつもりか? その方がよほど不敬に値すると思うが」
「でしたら、一人でお風呂に入りますから! 少しだけお時間をください!」
「そんな……また逃げられたらと思うと、とても承諾できそうにないな」
王城内の浴室。その手前の洗面所に値するだろう場所で、全てを脱いだ殿下と二人きり。洗面所だというのになんて豪華な客間……とか、明るい場所で見る殿下の裸が……なんて感傷に浸る暇もない。
しきりに私の服……粉まみれのメイド服を脱がそうと、殿下の手が伸びてくる。そして、その手が胸の横を掠って……私は「ひゃんっ」とおかしな声をあげて、一瞬力が抜けてしまう。
「ふふ、少しずつ成果が出ているようで何よりだ」
その隙をついて、ついに私は壁に追い込まれてしまった。
両手を壁に付かれて、私はその中に閉じ込められる。逃げ場がなくて……何かの遠吠えの如く、私は叫んだ。
「ずるいですっ‼」
「ははっ、いまさら。こんな大掛かりなズルを重ねて、ようやくここまで来たのに?」
「ようやくって……」
「あぁ、長かったよ。何年だろう……きみと出会ったのは俺が六つの時だったから、もう二十年くらいになるのか」
どこか夢見がちな目をしながらも、その手はしっかりと服を脱がそうと企んでいる。
私は狭い中でなんとか身を捻りながらも、「どういうことですか?」と疑問符を返した。
殿下は私の背中を抱きしめる。
「こないだ湖畔に行った時に少し話したと思うけど……俺は小さい頃に病気を患っていてね。あの別荘で療養していたんだ。その時に治療に来てくれていた魔女アリーシャ・シャペルベルクと一緒にアリスも来てくれていたんだけど……覚えてる?」
二十年前なら、私はまだ四、五歳だろう。湖畔に行った時に色々既視感を覚えたのは、そのせいだったんだ……。
些細な違和感が繋がったことで、私の殿下を引き剥がそうとする手の力が抜ける。その隙に、殿下がますます私を抱きしめた。首元がくすぐったい。殿下が私の肩に顔を埋めたのだろう。
「きみは、いつも僕に花や草を持ってきてくれたね。魔女アリーシャとは別に、これは解熱に効くとか、これは鎮静作用があるだとか……おばあさんから習ったと自慢げに話しながら、いつも僕にお土産を持ってきてくれたんだよ」
「なっ……! も、もしかして……あの別荘にたくさん飾られていた野草は――」
「あぁ、きみが持ってきてくれた物の一部だ」
俺の私室にもいくつか飾ってあるよ、なんて平然と仰るけど……。
や、やめてください‼ 本当に、ただそこらの薬……それも特別珍しいものでも何でもないじゃないですか⁉ しかも小さい頃に摘んだものだから、摘み方も雑で……て、そんなことは素人にはわからないことだけど……あ、殿下に素人とか失礼? とくにもかくにも、そんな小っ恥ずかしいものを……!
私がどこかの穴に埋もれたい心地でいるというのに、殿下の笑い声が私の耳をくずぐる。
「あの頃は、役に立たない王子として、すごく居心地が悪くてね……友達なんかも当然いなくて。きみが一生懸命にこれはあれはと説明してくれるのが、ものすごく嬉しかったんだ。魔女の治療の甲斐があって、俺が快気してからは、表立って会いに行けなくなったけれど……魔女アリーシャが亡くなったと聞いて、一人になったであろう気が気じゃなくて。木こりなんかに扮して定期的に会いに行ってたんだけど、まったく気がついてくれないものだから」
え……木こり……?
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