【完結】惚れ薬の調合に失敗したので、何故か花嫁のフリして白銀王子に溺愛された魔女の話。

嘘つきは服を脱ぐ④

「さあ、理解したのなら早く交換しましょう！　時間はなくってよ」
「……二人で逃げると言う選択肢は？」
「無理ね。まずメイド服が一着しか用意出来なかったわ。それに誰が殿下やクルトを引き止めないと。ただのネズミならともかく〝スカーレット”が逃げたとなれば、彼らはすぐに動きますわよ」

　私が、彼女にしてあげられることはなんだろう……。

「じゃあ、私がこのまま残って、スカーレット様がお一人で逃げるというのは？」

　そう口にしても、彼女は「論外ね」と笑った。

「無駄な計画……と論破するより、敢えてこう言いましょうーーわたくしが嫌よ！　スカーレット・フィル・アルザードの名が泣きますわ。下々に尻拭いさせるなんて、貴族として恥よ。恥を晒して生き延びるくらいなら、最期まで貴族として高笑いしながら死んでやりますわ！」

　たとえ服を脱ぎ捨てても、彼女は気高い。思考が。志が。私なんかとは比べ物にならないほど、その誇りが美しい。

　どんなに見た目が同じでも、その気高さがない私は……姿見を見なくても一目瞭然。私はスカーレット様になれなかった。きっと。他の誰でも。彼女には、彼女しかなれないのだろう。
　
　私は黙ってドレスを脱ぐ。このドレスが相応しいのは、私じゃないから。

　服を取り替え、スカーレット様が髪を解こうとする。だけど妙にそわそわしていた。どうも髪が絡まってしまったようだ。ゆるく束ねられているかと思いきや、単にぐちゃぐちゃだったらしい。

　思わず手を貸すと、スカーレット様が気恥ずかしそうに口を尖らせる。

「自分で髪を整えるなんて初めてだったのよ！」

　そう言い訳しながら「ありがとう」と呟いて。だから私も「こちらこそ」と返した。鏡越しにスカーレット様がキョトンと目を見開いてくる。それに、私は彼女の煌めく髪を手櫛で整えながら告げた。

「あなたに出逢えて良かったです」

　たとえ、この先どんな未来が待っていようとも。私がこの出会いを悔いる日は来ないだろう。だって、彼女はこんなにも可愛いのだ。

「また……必ずどこかで会うわよ。二人で旅をするんだから」
「……はい！」

　その約束が叶うかどうかは、女神様しかわからないけれど。女神の名を冠した私は心に決める。
　彼女の誇りを、願いを、無碍にするような女神なら、私が全力で否定しよう。喧嘩だって売ってやる。それは――私の魔女としての誇りだ。