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何事もほどほどに⑤
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だけど「スカーレット様」と三回ほど呼ぶと、
「そんな何回も呼ばなくても、聞こえていますわ」
と、ベッドの下から出てくるスカーレット様。私と視線を合わせない。
どうなさいました? と聞くよりも早く、先に口を開いたのはスカーレット様だった。
「わたくしに惚れ薬のことを教えてくれたのはクルトです。本当にわたくしが殿下の婚約者でいいのかと悩んでいた時に、はぐれ森の魔女のことを教えてくれて……彼は冗談のつもりでしたし、実際にあなたの元へ赴いたことは誰にも話しておりません。クルトもその日は休日で実家に足を運んでいたと言質をとっておりますから、余計な心配は不要ですわ」
……あ、そっか。スカーレット様は先の私たちの会話から、クルトさんに入れ替わりの件がバレていると私が勘違いしたのかと心配してくれたのね。なるほどなるほど。私が「了解です!」と答えれば、スカーレット様はその小さななで肩を大きく上下させる。
「なので、彼のことは気にしないでくださいまし。元より幼馴染なので……色々と手厳しいのですよ」
「幼馴染?」
「わたくし……そう、クルトのサフィール家とわたくしのアルザード家は祖母の代が姉妹だったこともあり、昔から懇意にしておりますの。それでよく面倒をみてくれたのが年に近いクルトで……お風呂は、その……水嫌いのわたくしが駄々をこねた一貫でクルトが入れてくれたのですわ!」
あ、嘘だ。
視線が泳いでいて、あからさまに考えながら話している。普段の凛としたお姿とてんで違う様に、見破るのは簡単だけど……。
でも、私はそれを指摘しない。一蓮托生とはいえ、私はしょせん『はぐれ森の魔女』。対してスカーレット様は正統なる次期王妃さまだ。私如きがおいそれと踏み込める相手じゃない。それに……そんな立場なんか関係なくても、私は踏み込まないよ。スカーレット様が嫌がるなら。だから、大丈夫。
でも、それを直接伝えるのはお互い好ましくないだろうから、代わりに私は口角を上げた。
「お風呂が怖いのですか?」
「む、昔ですわよ⁉ それこそ五歳やそこらのお話です……あ、当たり前ですが、今は普通に入れますからね! 彼はわたくしより少しだけ年上だからといつもお兄ちゃん顔で……水嫌いを克服させようと、頑張ってくれて、それで……」
モゴモゴとするネズミ姿のスカーレット様はすごく可愛い。きっと本当のお姿でも可愛いんだろうな。
そうクスクス笑っていると、スカーレット様は「とにかく!」と声を強めた。
「クルトはそのお兄ちゃん癖が未だ抜けていないのですの! いつも余計なお世話しか言わないお人ですから、どうか気になさらず!」
「はいはい」
「『はい』は一回で宜しいっ!」
そんなことを話していると、扉が再びノックされた。マリアさんだ。
「スカーレット様。お薬を貼るお手伝いに参りました。入っても宜しいですか?」
「え、あ、はい……」
再びスカーレット様が枕の下に隠れるのを確認してから返事すると、簡易ドレスを身に着けた三十代の女性が一礼して入ってくる。赤茶の髪をスッキリ纏めた上品ながらもテキパキした印象がする長身の方だ。目の下のほくろがとても色っぽいの。しかも声も低めでかっこいい。将来こんな淑女になりたいけど……絶対なれないだろうなぁ。
でも、どうして今マリアさんが?
「あれ、マリアさんお仕事は……?」
「殿下の計らいで、少し抜けさせてもらいました。でもあまりお時間もないので、手早く終わらせますね」
そしてゴロンとうつ伏せにされ、マリアさんはテキパキと私の服のリボンを解いていく。薬を貼るついでに簡単なマッサージもしてくれるマリアさんの有能さよ……。しかも「綺麗なお背中ですね」と褒めてもらえて、もう……私の気分はうっとりです。
自分で出来るのに、この至れり尽せり。癖にならないようにしないとなぁ……。
「そんな何回も呼ばなくても、聞こえていますわ」
と、ベッドの下から出てくるスカーレット様。私と視線を合わせない。
どうなさいました? と聞くよりも早く、先に口を開いたのはスカーレット様だった。
「わたくしに惚れ薬のことを教えてくれたのはクルトです。本当にわたくしが殿下の婚約者でいいのかと悩んでいた時に、はぐれ森の魔女のことを教えてくれて……彼は冗談のつもりでしたし、実際にあなたの元へ赴いたことは誰にも話しておりません。クルトもその日は休日で実家に足を運んでいたと言質をとっておりますから、余計な心配は不要ですわ」
……あ、そっか。スカーレット様は先の私たちの会話から、クルトさんに入れ替わりの件がバレていると私が勘違いしたのかと心配してくれたのね。なるほどなるほど。私が「了解です!」と答えれば、スカーレット様はその小さななで肩を大きく上下させる。
「なので、彼のことは気にしないでくださいまし。元より幼馴染なので……色々と手厳しいのですよ」
「幼馴染?」
「わたくし……そう、クルトのサフィール家とわたくしのアルザード家は祖母の代が姉妹だったこともあり、昔から懇意にしておりますの。それでよく面倒をみてくれたのが年に近いクルトで……お風呂は、その……水嫌いのわたくしが駄々をこねた一貫でクルトが入れてくれたのですわ!」
あ、嘘だ。
視線が泳いでいて、あからさまに考えながら話している。普段の凛としたお姿とてんで違う様に、見破るのは簡単だけど……。
でも、私はそれを指摘しない。一蓮托生とはいえ、私はしょせん『はぐれ森の魔女』。対してスカーレット様は正統なる次期王妃さまだ。私如きがおいそれと踏み込める相手じゃない。それに……そんな立場なんか関係なくても、私は踏み込まないよ。スカーレット様が嫌がるなら。だから、大丈夫。
でも、それを直接伝えるのはお互い好ましくないだろうから、代わりに私は口角を上げた。
「お風呂が怖いのですか?」
「む、昔ですわよ⁉ それこそ五歳やそこらのお話です……あ、当たり前ですが、今は普通に入れますからね! 彼はわたくしより少しだけ年上だからといつもお兄ちゃん顔で……水嫌いを克服させようと、頑張ってくれて、それで……」
モゴモゴとするネズミ姿のスカーレット様はすごく可愛い。きっと本当のお姿でも可愛いんだろうな。
そうクスクス笑っていると、スカーレット様は「とにかく!」と声を強めた。
「クルトはそのお兄ちゃん癖が未だ抜けていないのですの! いつも余計なお世話しか言わないお人ですから、どうか気になさらず!」
「はいはい」
「『はい』は一回で宜しいっ!」
そんなことを話していると、扉が再びノックされた。マリアさんだ。
「スカーレット様。お薬を貼るお手伝いに参りました。入っても宜しいですか?」
「え、あ、はい……」
再びスカーレット様が枕の下に隠れるのを確認してから返事すると、簡易ドレスを身に着けた三十代の女性が一礼して入ってくる。赤茶の髪をスッキリ纏めた上品ながらもテキパキした印象がする長身の方だ。目の下のほくろがとても色っぽいの。しかも声も低めでかっこいい。将来こんな淑女になりたいけど……絶対なれないだろうなぁ。
でも、どうして今マリアさんが?
「あれ、マリアさんお仕事は……?」
「殿下の計らいで、少し抜けさせてもらいました。でもあまりお時間もないので、手早く終わらせますね」
そしてゴロンとうつ伏せにされ、マリアさんはテキパキと私の服のリボンを解いていく。薬を貼るついでに簡単なマッサージもしてくれるマリアさんの有能さよ……。しかも「綺麗なお背中ですね」と褒めてもらえて、もう……私の気分はうっとりです。
自分で出来るのに、この至れり尽せり。癖にならないようにしないとなぁ……。
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