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エピローグ & 感謝イラスト

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十年後───




「これで全部サインしたわ」

「ありがとう。あとはこれを貴族院に提出して陛下の承認が下りれば手続き終了よ」

「これまでよく訓練に耐えたな。エゼルバートも」

「ブリジットを支えるのは俺の役目なんで」





もうすぐ私は、母から爵位を譲り受ける。

来月のマライア様の即位式と共に、私が王家の影の当主となる。


両親も一応引退という形は取るけれど、まだまだ私は当主として未熟なので、これからも補佐として仕事を請け負ってくれることになっている。

引き続き暗部については父が請け負い、エゼルは影の仕事で使う魔道具の技術者を育てるべく、新しい部門を立ち上げ、人材育成に勤しんでいる。

カーライル商会もブライダル事業が成功してかなり大きくなったのもあり、抱える人員が多くて私たち夫婦だけでは手が回らないことも理由の一つだ。



あの事件から十年──

本来ならもっと早い時期にマライア様の即位式を行う予定だったけど、貴族のパワーバランスが崩壊していろいろと落ち着くのにかなりの時間を要した。

議会で討論しながら組織体制を一から組み直し、新しい法律を作り、マライア様の治世に憂いが残らないよう両陛下が力を尽くした。


息子を死に追いやり、多くの処刑者を出してしまったことは、王家にとっても多くの臣下を失望させる醜聞となった。

それは自分たちの責任であり、マライア様が追うべき咎ではないとして、国が安定するまで両陛下が矢面に立って信頼回復に努めた。

王弟であるマクガイア公爵を含め、元婚約者スレで繋がっていた彼女達の家が王族派として尽力してくれたおかげで、今年やっとマライア様の即位が決まったのだ。




その後のネブロス帝国は、衰退の一途を辿っている。

あの一連の事件については諸外国にも情報が漏れ、帝国は今、外交に影響が出て孤立気味になっているとか——


ホルストと皇帝のやったことは、国家簒奪といっても過言ではない。それ以前にも、彼の国は近隣国を武力で侵略して栄えてきた国だ。

そんな野蛮な思想を持った国と、誰が末永く付き合いたいと思うだろう。


だがどういうわけか皇帝は和解書を交わした後、ブランケンハイム王国を恐れるようになり、この十年他国に戦争をしかけることはなかった。


両親が言うには、我が国を恐れているというより、ドレイク公爵家を恐れているらしい。

和解書を書かせるために転移魔法で皇帝の寝所に乗り込んだのは、実は公爵だけではなかった。

同じく王宮魔術師であるエゼルの兄二人を伴って、ネブロス帝国に乗り込んだのだ。我が国トップ3の魔術師が突然寝所に現れ、叩き起こされたのである。



「あの強大な魔力持ちの三人に皇帝を人質に取られれば、ネブロスの脳筋騎士たちも、傲慢なだけの身の程知らずな魔術師たちも、指一本動かせなかっただろうな。物理的に──」

「そうね。こちらを格下と侮っていた皇帝に、絶対的な力を見せつけて高い鼻をへし折ってやったと言っていたわ。今まではホルストがマライア様に粉かけるだけだったからこちらは下手に動けなかったけど、あの事件で開戦理由になる大義名分を得たから遠慮なく乗り込んで行ったわね」


一体何をしたのか気になるけど、皇帝が恐れるくらいだからきっと聞くに耐えないことなのだろうと思い、詳しくはきかなかった。


「それでもやっぱり、一番の貢献者は転移魔法陣を開発したエゼルよね。あれがなければ血を流さずに和解など無理だったと思う」

「そうだな。あの魔法があるから皇帝に恐怖を与えられたしな。お前はよくやったよ」

「ありがとうございます。でも俺は王家の影としてはまだまだです。レンス様には到底及ばない。ブリジットの為にも、早くお二人を隠居させられるよう精進しますよ」


転移魔法陣の開発を評価されたエゼルは、その貢献を讃えて魔術師団にある魔法研究所の名誉顧問という役職を授かった。

まあ、影と商会の仕事が忙しいのであまり顔は出せていないけれど、好きに研究できて研究費も国持ちという高待遇に本人もとても喜んでいる。



「ありがとうエゼル!私、隠居したらレンスと世界旅行に行きたいのよ~! だからその日を楽しみにしてるわね!」

「そうだな。仕事が忙しくて新婚旅行に行けなかったから、お前とゆっくり世界を見て回りたいな」

「きっと素敵な旅になるわ。楽しみね、レンス」


まだまだ来る予定がない隠居生活を夢見て両親がイチャイチャしだしたので、私とエゼルは退出させてもらった。

両親も若者に負けず劣らず、仲が良くて幸せそうだ。




そして、彼女たちが今どうしているかというと──、   











「アリア、久しぶりね!」

「ええ、久しぶりね、ブリジット。皆さんもお元気そうで」

「「「お久しぶりです。アリア様」」」


来月のマライア様の即位式に出席するために、外交官として長らく諸外国を回っていたアリアが帰国したので、サージェス侯爵家で久しぶりに皆で集まった。

ちなみにもう全員が奥様という立場に変わった。


あの卒業パーティーでの婚約破棄後、皆は最愛の伴侶を得て幸せに暮らしている。


まず王弟の娘であるキャサリン様は、なんとエゼルの次兄を婿に迎え、夫婦で王宮勤めをしている。夫は魔術師、妻のキャサリン様はマライア様の側近として働いている。

三歳差の夫婦で、あのしっかり者のキャサリン様が夫の前では甘えたな可愛い奥さんになるのだから驚きだ。

今まで甘えが許されない立場だっただけに、年上の魅力にハマってしまったようで、ラブラブな理想の美形夫婦として令嬢たちの憧れとなっている。

マクガイア公爵家は二人の間に生まれた長男が継ぐ予定らしい。



そしてサージェス侯爵家のアリアは、親の跡を継いで外交官となった。彼女の夫は隣国公爵家の次男だ。

学園を卒業後、アリアは予定通り隣国の大学に留学し、そこで公爵家次男に見初められ、彼を婿に迎えて夫婦で外交官として活躍している。

仕事で海外にいる事が多いせいで子作りを控えていたけれど、今年マライア様が即位するのに合わせて王宮勤めが決まったので、それを機に解禁したらしく、現在第一子を妊娠中だ。


そして無事女性騎士になったアデライド様は、キャサリン様が王子妃にならなかったため、今はマライア様の専属護衛騎士として働いている。

彼女の夫は実父の部下である近衞騎士副団長。

なんと十二歳差の年の差婚だ。しかも副団長はアデライド様の初恋の人らしく、妻の浮気で離婚した彼に猛アタックして見事に後妻の座をゲットした。

そして結婚してすぐに妊娠し、今は息子二人のママだ。


最後にソワイエ伯爵家のモニカ様は、現在カーライル商会の輸入部門で働いてもらっている。

ソワイエ伯爵が経営する貿易会社と提携を結び、カーライル商会のオリジナル商品の輸出をさせてもらっているのだ。

彼女の夫は商会で働く魔道具師。エゼルの弟子で商会で販売する魔道具を製作する職人だ。ちなみに彼女の二歳年下。

彼女も娘が一人いて、商会内にある保育園に預けながら年下夫と仲睦まじく働いてくれている。


そしてマライア様も、想いを交わしていた近衞騎士の方と婚姻した。

女王と王配教育を受けながら共に支え合い、双子の王子と王女にも恵まれて幸せそうに公務に励んでいる。





「皆さん、お幸せそうで何よりです」


皆の柔らかい笑顔に、彼女たちが幸せで満たされているのがよくわかる。

もう不誠実な男に傷つけられて苦しんでいた人たちはいない。

皆それぞれ心から愛する人と結ばれ、子宝にも恵まれ、素敵な家庭を育んでいる。



そして私も──













「お母さま!」

「おかーしゃま!」

「ただいま、ミシェル、ランバート」


玄関で迎えてくれた長女と長男を抱きしめ、頬にキスをする。私の愛しい子供たち。


「おかえり、ブリジット」

「ただいま、エゼル」


腰を引き寄せ、エゼルが私に軽く口付けを落とす。結婚当初から変わらない、彼の愛情表現の一つ。


「楽しかったか?」

「ええ。皆幸せそうだった」

「それは良かった」

「ねえ、エゼル」

「なんだ?」

「エゼルは今、幸せ?」

「当たり前だろ。お前が側にいてくれるんだから」


そう言って、エゼルが私をギュッと抱きしめる。十年経っても変わらないその愛情に、心が幸せで満たされていく。


「お母さまとお父さま、仲良し! ミシェルも~!」

「ボクも、抱っこしゅる」


抱きしめ合う私たちに手を伸ばす二人を見て、エゼルと視線を合わせ、クスリと笑みが溢れた。

そしてエゼルがミシェルを、私がランバートを抱き上げて、それぞれの額にキスを送る。


「お父さまのことも、ミシェルもランバートも、みんなのことが大好きよ」
 
「ふふっ、ミシェルも大好き!」

「ボクも、だいしゅき!」

「俺も、みんな愛してるよ」



キャッキャと喜ぶ二人の様子に、私たちはまた顔を見合わせて笑った。


今日も我が家は笑顔と愛情に溢れている。






『ブリジットも、その表情を見ればわかるわ。貴女も今、とても幸せなのね』


今日のお茶会でのアリアの言葉を思い出す。

皆の穏やかな笑顔に私も笑顔で頷いた。



『ええ、とても幸せよ』











最後まで読んでいただきありがとうございました!
また別の作品も読んでいただけたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします!


ハナミズキ

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