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巡り合わせ

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「エゼルは廊下で待ってて」

「は?何でだよ、俺も中に入るよ」

「お願い。扉は少し空けておくからイアンと2人で話をさせて。蟠りを持ったままでいたくないの。全部吐き出して、今日でちゃんと終わりにしたいのよ」

「────わかったよ」



あからさまに不貞腐れたエゼルに苦笑しながら、病室の扉に手をかけた。




私は今日、イアンに会いに来ている。

イアンが退院して国を出て行く前に、薬が抜けた本当の彼と最後に話がしたかった。

もう過去ばかり振り返らない為に、今世のブリジットとして前に進む為に、ケジメをつけにきた。





コンコン。とノックをする。


「……どうぞ」


イアンの声だ。まだ体調が悪いのか、覇気のない返事だった。

病室の中に入ると、こちらを気にする事もなくぼーっと窓の外を眺めている。

まだ離脱症状が抜けていないのだろうか?


「イアン?」


彼の名を呼ぶと、窓の外に向けていた顔がこちらを向く。私の顔を見るなり、驚愕で目を見張った。

そして次の瞬間くしゃっと悲痛な表情に変わり、ハラハラと涙を流し出す。


「え?イアン?どうしたの?どこか痛いの?」

「……り、……ぱり、そうだ……っ」

「え?」


声が小さすぎて何を言っているのかわからず、ベッドの方に近づくと、イアンに手を取られてそのまま腰に抱きつかれた。


「ちょ……っ、イアン!何をして──」

「……すみ、……香澄!!」


「…………え?」









耳を疑う。

 
────なんで、


────なんで貴方がその名前を知っているの?



驚きで固まっていると、グイッと後ろに勢いよく引っ張られ、逞しい腕の中に閉じ込められる。


「俺のブリジットに触るな」

「エゼル……」


見上げると、怒りを露わにしたエゼルの険しい顔が見える。


「廊下で待っててって言ったのに」

「この状況じゃ無理だろ」

「…………俺のブリジット?」


小さな呟きが聞こえてイアンを見ると、酷く傷ついた表情をしていた。


──聞き間違いじゃないわよね?

さっき、私のことを香澄って呼んだわよね?



「貴方は誰?」

「香澄……」

「何故その名を知ってるの?」

「見てわからない……?」



そう言ってイアンは首を少し傾け、眉尻を下げて困ったように微笑む。

その仕草が、記憶の中の人物と重なった。

まさか────。


嘘でしょ?




「──亮介?」

「そうだよ、香澄。また会えて嬉しいよ」


そう言ってイアンは、切なげに笑った。

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