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裏取引

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地下牢に女の啜り泣く声が響いている。


石壁に映し出された映像は、義兄の毒殺、そしてその婚約者を後追い自殺に見せかけて転落死させている。

そしてその後──イアンへの性的虐待。そこまでがしっかり収まっている。
 
よくここまで道を踏み外せたものだ。



「聞いていいかい?何故兄の婚約者まで殺す必要があった?既に兄は死んでいて、二人が結ばれる事はなかっただろう」

「────彼の子供は、この世でイアンただ一人よ。それ以外はいらない……っ、彼の子供を産んだ女は私だけでいいの‼︎」



恐ろしい執着と身勝手さに悪寒が走る。

死んでもなお、義兄の虚像を追いかけて、イアンにその姿を重ね、愛される妄想に浸る。彼女が現実逃避をしたせいで、ここまで不幸が連鎖してしまった。


全く共感できないのは、私がそこまで誰かを愛した事がないから?こんな身の破滅を起こすほどの恋を、私は前世でも今世でもした事がない。



「ブリジット、飲まれるな。この女が異常なだけだ。取り調べを続けるぞ」

「はい」

「さて、ハネス伯爵夫人。まだ貴女には聞きたい事があるんだ。そろそろ泣き止んでもらえないかな?」

「…………」

「貴女が犯罪に使った媚薬や毒薬だけど、どのルートで手に入れたんだい?貴女の実家であるクルド伯爵家は薬草栽培の事業をしているが、媚薬や毒性のある原材料には法規制がかかっていて商品の出荷の際には必ず王立騎士団の検問があるはずだ。品数や種類、配送先もしっかり記録されるはずだから、貴女が簡単に持ち出せるものじゃないんだよ。なのに、貴女は入手できた。どういう事か説明してもらってもいいかな?」

「…………っ」


  だとしたら死者に鞭打つのは忍びないけど、罪人として名前を公にしなければならないね」

「お兄様は関係ありません!」

「じゃあ誰が関わっているの?」

「それは…………」



「言わなければ自白魔法をかける事になるよ。拷問用のキツイものだけどお望みなら──」

「薬草園の園長です‼︎」


「園長──、園長はたしか前クルド伯爵の妹だったかな?貴女の叔母が裏取引をしているのかい?」

「…………学生の頃、薬草園で媚薬効果のある薬草を秘密裏に持ち出した時、帰りに誰かに見つかりそうになって隠れました。その時の人物の会話で、叔母が媚薬の原材料を検問担当の騎士に裏取引で流していた事を知ったんです。私は後日、父が仕事で使う録音の魔道具を使って証拠を得て、その後は定期的に媚薬の薬草を叔母から受け取っていました」


「つまり──義兄との情事に使う為に叔母を脅して媚薬を定期的に手に入れていたと?では貴女も違法に媚薬を誰かに流していたのか?」

「違います!お兄様にしか使っていません‼︎  その……アレがないと……お兄様と出来なくて……どうしても彼の子供を産みたかったから仕方なかったんです……っ」



何が仕方ないのか全然わからない。

妹が兄の子供を孕もうとしている事が異常だし、何よりこの女は結婚していたのだ。彼女の倫理観は一体どうなっているのか?


「なるほどね、まあ、とりあえずその証言が本当かどうか裏を取らせてもらうよ。情報提供ありがとう」

「私は……私はどうなるんですか⁉︎  」

「ん? 刑執行までずっとこの中だよ」

「刑執行……?」

「そりゃそうでしょう!貴女は重犯罪者だよ? 軽く見積もっても死刑が終身刑どちらかだね」

「いや……そんな……いやああ‼︎  死にたくない‼︎  イアン‼︎  イアンに会わせて‼︎  私のイアンに会わせてよぉぉ‼︎」


「ああ、言い忘れてたね。イアンは今病院に入院している。母親の異常性をしっかり説いて洗脳を解いたら、今までの記憶に拒絶反応が出て倒れてしまったんだ。貴女には二度と会いたくないそうだよ」


この女はイアンにも媚薬を盛っていた。しかも他国の性奴隷等に使われる調教用の精神作用を起こす媚薬だ。

多分、母親との関係に嫌悪感を持たせないようにイアンの精神を汚染させていたのだろう。イアンが母親のする事を何でも受け入れていたのはその薬の名残だ。


私がこの女を狂っていると思った一番の原因はそれ。


愛する息子に薬を盛るなんて、あり得ない。イアンはそれで歪んでしまったのだろう事は容易に想像できた。

だからマライア様はハネス伯爵に釘を刺し、イアンに再起の機会を与えたのだと思う。



「嘘……嘘でしょう……? イアン……もう会えないの? 私のイアン……うっ……、うあああああああ!」


マライア様からイアンの近況を知らされた後は、夫人は狂ったように泣き叫び、驚いた看守が中に入ってくるほど暴れ出した。


看守に自死させるなと命令を出し、後を任せた私達は牢屋を後にした。

背後から耳を塞ぎたくなるような金切り声が聞こえる。そこにいるのはもう伯爵夫人ではなく、ただの狂人──。




「これで

「そうですね」


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