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マライア・ブランケンハイム②

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「───ハネス伯爵夫人の件は、女王から影を動かして至急捕らえてもらう事になるな。調査書を見る限りハネス伯爵と嫡男は関わっていないようだね」

「そうですね」



ハネス伯爵は既にイアンが実子じゃない事に気づいている。だから嫡男の方だけに愛情を注いでいる。

夫人とは政略結婚で、自分の仕事に口を出してこない妻はお飾りとしては都合が良かったから離縁しなかっただけなのだろう。回数の多い里帰りも黙認していた可能性が高い。

彼はワーカーホリックだ。犯罪に関与していなかったのは単に妻に興味が無かった為に気づかなかっただけの話で、犯罪者とわかれば会社の経営に影響するため、すぐに切り捨てるはず。


そして私と婚約破棄になれば、イアンも切り捨てるだろう。


「無害そうな女性に見えるのにやることがえげつないな・・・。それほどまでに兄を愛していたという事か?女である前に息子の母だというのに・・・。まあ、その息子もやらかしてるわけだが」


ちらりと視線を感じたけど、私は調査書に視線を落としたまま反応しなかった。もうこの件はどうにもならない。これ以上悔やんだ所で答えは変わらないのだから・・・。




「───しかし、愚弟のバカさ加減には呆れてものも言えないな。姉弟の中で唯一外見が母に似て美しいともてはやされた為に、自分に甘い男になってしまった。両親に甘やかされたわけでもないのに、何故こうなってしまったのかね」

「コンラッド王子はご姉弟を妬んでいるんですよ。貴族から絶大な支持を得る才色兼備の姉に、コルネリウス様の騎士道と武の才を受け継ぎ、その実力で王立騎士団の上層部を唸らせている第二王子のシリル様。この二人に挟まれた中間子はいくら美貌の王子といえど肩身が狭いでしょうね」



学力が秀でてるわけでもない。

武の才能もない。

持っているものは女王譲りの美貌だけ。
裏でそう言われているのは本人も知っているだろう。


でも私は同情しない。



「ふふっ、随分と手厳しいな」

「人を妬んでばかりで自分で変わろうと努力しない奴は嫌いなんです。そのせいでキャサリン様が尻拭いに駆り出され、厳しい妃教育に耐えているというのに、肝心の本人は不貞ですよ?そんな腐った性根だから野心のある臣下に利用されるんですよ」


遮音魔法をかけているのをいい事に言いたい放題だ。



「バロー男爵は娘を王子の愛妾にでもして後ろ盾が欲しいのだろう。経営しているホテルに愚弟を何度も呼んで尻軽娘との情事の場所を提供しているようだな。親子で浅はかなことだ。これで娘が弟の子を身籠ったと騒ぎでもしたらとんでもない事になるわけだが、あの父親は自覚があるのかね?」

「ないでしょうね。親子そろって目先の事にしか考えが及ばないおバカさんらしいです。既に取引相手に王族と付き合いがあることをほのめかして融資を何件か取り付けているみたいなので」

このままだと詐欺罪も追加になりそうな予感ね。


「宰相や王立騎士団の団長も、愚息の行いを知らないはずはないだろうに、婚約者の家を舐めているのかね。それとも結婚前の火遊びは若気の至りで無効だとでも言いたいのかな?」

「ご自分たちに愛人がいるから感覚が麻痺しちゃってるんじゃないですか?」


実は彼らの父親にも愛人がいたのだ。しかも夫人には秘密の恋人。

宰相は職場の女性補佐官で、騎士団長の愛人は息子と年齢があまり変わらない男性の新人騎士だ。これには驚いた。

調査結果を手に取って眺めながらマライア様はクスクスと声を上げて笑うも、その瞳は笑っていない。


「どちらも妻の実家の力で今の地位を得られたというのになあ。喉元過ぎれば恩を忘れてしまうのかな?そんな色欲に溺れて適正な判断も下せない無能は私はいらないんだよなぁ。でもまあ、一応チャンスは与えてあげないといけないよね。私の方から彼らに息子を教育し直すよう手紙を送っておくよ。ただしチャンスは一度だけだ」


そう言うとマライア様はデスクの上で両手を組み、その上に顎を乗せてにんまりと笑う。今度は本当に笑っている。



「父親達の実力を見せてもらおうか。今後も必要な人材か、否か」
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