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王家の意向

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「これが小型録画装置のピアス。学園で目立たない様に透明色で作っている。魔力を流せば起動し、流した魔力量によって録画時間が異なる。多く流せばそれだけ長く録画ができる仕様だ」


エゼルが彼女達に魔道具の使い方を説明している。


浮気野郎撲滅の会発足から数日後、再び彼女達をカーライル邸に呼び寄せた。今日は約束していた記録用の魔道具を渡すことになっている。



「まさかカーライル侯爵家が王家の影だったなんて・・・」

「王弟であるマクガイア公爵はご存知ですよ。あの日お話した通り、王家の影は女王が許可した者しか知り得ない極秘事項です」


「ええ、あの後父からも話を聞いたわ。コンラッド様と婚姻して王宮に入ったらワタクシにも知らされる予定だったみたいね。」

「はい。基本的に魔法契約を結んでいる同士なら話されても構いませんが、時と場所は厳選していただく事になるかと。この部屋も遮音と認識阻害の魔法がかけられているので部外者は入れない状態になっていますから」


それを聞いてキャサリン様以外の3人も表情を引き締める。


「ドレイク公爵令息も影の一員なのか?」


アデライド様がエゼルに質問すると、エゼルは首を横に振った。


「いや、俺は王家の影とカーライル商会に魔道具を卸してるだけだ」

「エゼルは私の再従兄弟でカーライル家専属の魔道具師なのよ」


「凄いわね。こんな小型の録画装置は初めて見たわ」

「ええ。私も他国での買い付けに同行する事が良くありますが、こんな魔道具見たことありません」



アリアとモニカ様もまじまじと魔道具を見つめながら装着していく。そしてキャサリン様とアデライド様も装着し、皆で録画操作を一通り覚えたところでエゼルに声をかける。


「エゼル、アレをお願いしていい?」

「ああ。了解」

「では皆さん、もう一つご覧いただきたいものがありますの」


エゼルに視線で促すと、彼が魔法を詠唱し、魔法陣を浮かび上がらせた。

そして私は彼女達に伝えたい事を念じる。すると私とエゼルの前に空間掲示板が表示され、私が念じた言葉が掲示板に文字として表示された。




◇◇◇◇


1. 浮気なマザコン男の婚約者 2021/09/22 17:32


これはエゼルが開発した新しい魔法『伝達魔法スレッド』です。これは魔法陣に登録した魔力の持ち主のみで連絡が取れる念話型の掲示板です。今は説明の為に見える仕様にしていますが、本来は登録者しか閲覧する事ができないので皆様とはこの伝達魔法で情報交換できればと思っています。




2. 名無しの魔術師 2021/09/22 17:33


ちなみに静止画であれば視界に映ったものを表示させる事ができる。それもただ魔力に乗せて絵を念じるだけでいい。




私とエゼルが一言も発していないのに、次々と空間に文字が表示され、再び4人が驚愕する。


「何ですの?どうなってますの!?」

「新しい魔法を開発だって?そんな事できるのか!?」

「さっきから驚いてばかりだわ・・・」

「す・・・凄いです。───ていうかイアン様ってマザコンなんだ・・・」

「ええ。子供の頃から母子でハグして頬をスリスリする習慣があるんですけれど、成人しても次男のイアン様だけは未だに甘えた顔してママにスリスリしてますわよ」


「「「「・・・・・・・・・」」」」


4人がドン引きしている。

そうよね。イアンて背は高めな方でわりと筋肉質な体躯をしてるのだけど、ハネス伯爵夫人の前では子供に戻って甘えまくりだし、私に対してもスキンシップが多かったように思う。

基本的に女性に甘えたいタイプの男なのだろう。

気持ちが冷めた今となっては気持ち悪いとしか思えないし、その上浮気とか目も当てられないわ。


気の毒な者を見る視線を受け、皆とそんな愚痴を挟みつつ、伝達魔法の使い方もレクチャーしながら、着々と準備が進められていった。









◇◇◇◇
  





「先日父に、女王から直々に謝罪があったみたい。王家の影が動いているということは、女王様もマライア様もコンラッド様達の事はご存知みたいね」

「ええ。最初はイアン様に不審な点があって始まった調査だったのだけど、そこから芋づる式に彼らの不貞が発覚したんです。ただの火遊びと言われればそれまでなのだけど、今回は王族含めた高位貴族、しかも貴族の中で強力な権力を持つ可能性の高い息子達が、1人の下位貴族の令嬢にまとめて落とされた。影からの報告で女王とマライア様は他国の工作員の可能性も考慮して彼らを監視対象にしたんです」


「デイジー様が工作員の可能性があると?」

「あくまで可能性の話です。でも私はその線は薄いと思っています」

「なぜ?」



アリアに聞かれて、私は今まで監視してきた彼女の印象を皆に告げる。深いため息を乗せて。



「彼女──────・・・馬鹿なんですよね」

「「「「・・・は?」」」」


私の見解にエゼル以外が目を見開いて驚く。


「同業者の匂いが全くしないんですよ。あまりにも稚拙で愚かで、計画性がなくて・・・。学業の成績だって下から数えた方が早いんです。私はデイジー・バローは本当にただの色欲に溺れた男好きな女性だと思ってます」

「───つまり、国をどうにかしようというわけではなく、ただ体目的で爛れた関係を続けていると・・・?」


「まあ高位貴族と結婚して裕福な暮らしがしたい!くらいは考えてそうですけど」


そして多分、彼女も私と同じ転生者───。




「彼らはそんな程度の低い女性を囲って寵愛しているのですか」


調査の途中経過を聞いて、皆の表情が歪む。

これ以上の屈辱はないというように、皆それぞれ険しい表情を見せた。


「彼らも程度が低かったという事です。だから王家は彼らを意向です。擁護しない中に第一王子も含まれています」

「ええ。父から聞きました。マクガイア公爵家には何の咎も与えないと」


「女王もマライア様も、キャサリン様の努力を評価されているんですよ。それから皆さんの事も、女性の社会進出を後押しするその行動力を評価されておりました。なので彼らと婚約破棄を望むなら、王家は承認する心づもりでいるとおっしゃられていましたよ」

「本当か!一番の心配だった王家がこちらについてくれるなら百人力だな!これならお父様達もきっと婚約破棄を了承してくれるだろう」


アデライド様が嬉しそうに言うと、皆の表情も和らいだ。


「早速明日から魔道具を使って証拠集めね!私も俄然やる気が出てきたわ」

「私もです。今まで彼のせいで辛く重苦しい毎日でしたけど、もうすぐ解放されるかもしれないと思うとワクワクしてきましたわ!エルナンド様の家との業務提携がなくとも、私も会社で働いて、私の力で貢献してみせます!」

「2人とも気合い入ってるな!」



3人が淑女らしからぬガッツポーズで闘志に燃えている。その姿をキャサリン様と眺め、顔を見合わせると笑顔が溢れた。



「───皆、逞しいわね。だから女王やマライア様は彼らではなく、ワタクシ達についてくれたのね」

「どちらが国とって必要な人材か、ちゃんと理解されているのですよ。為政者として敬服致しますわね」

「そうね。ワタクシ、改めて女王とマライア様に忠誠を誓うわ。2人の治世を乱しかねない不穏な種は、マクガイア公爵家の者として見過ごすわけにはいきません」


「ええ。徹底的に刈り取りましょう」

「俺も手伝うよ」

「お願いね」




こうして、私達は徐々に外堀を埋めていった。

そんな私達の動きに何も気づいてない彼らは、デイジーとの爛れた情事に耽る日々を送り、その間私達の事は顧みなかった。


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