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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
182. 新たなる脅威① side アイザック
しおりを挟む「やはり密売人がバレンシアと帝国を行き来してましたよ」
「これ、ジル先輩が作成した報告書です」
「──毎度毎度思うんだが……、君たちはいつもどうやって俺の執務室に侵入してるんだ? しかも側近がいない隙を正確に狙って……。それなりに王太子宮はセキュリティが高いはずなんだがな……」
「帝国魔法士団を舐めないでください」
ドヤ顔のジャンヌを見てアイザックは嘆息し、聞くだけ無駄だったと独り言を言いながら資料を手にする。
そして読み進めるうちに、表情が険しいものに変わった。
「やはり叔父上の影が検問所に出入りしているのか?」
「それはまだわかりませんが、認識阻害魔法を使用して姿を変えている役人が二名いました。その者たちの目を盗んで過去見の魔道具を使うのはかなり厳しい状況だったでしょうね。ジルが闇属性の魔法士でなければ無理だったと思います」
国境の検問所には、それぞれ応接室と客室を設けている。
身分証明を行う際、高位貴族は侍従や護衛を多く連れているために人数が多く、身元の照合に時間がかかる。
その際に検問所内に待機させ、照合の間にもてなすのが通例だ。ジルはバレンシアに入国する際に検問所に滞在し、ノアからの依頼により捜査を行った。
そして執務室の壁に、過去見の魔道具に記録された映像をマルクが再生する。
「先週から三ヶ月前までの期間を設定して調査した結果、帝国の犯罪者リストに載っている人物が二名紛れ込んでいました」
「犯罪者リストなら帝国からもらって目を通しているが、こいつらいたか?」
「います。ですが、高度な認識阻害魔法で外見を変えているので、見抜くのは難しいかと。今回は魔道具が優秀だったので見つけられたんだと思います」
詳しく聞けば、今回使用した過去見の魔道具は最新式で、登録された魔力のデータが一致した者は瞬時に個人情報が割り出されるらしい。
なんだその便利な恐ろしい魔道具は。
どういう仕組みなのかを聞けば機密情報だと言われ、知ろうとすれば自分は消されるのだろう──そう察して話題を元に戻した。
「外見を変えても魔力までは別人に変えられませんからね。犯罪者リスト入りの者と魔力がばっちり一致しましたよ」
「罪状は?」
「違法薬物の売人です。いつも寸前で逃げられているので、神器の使い手だと予測しています」
「邪神教か。やはり叔父上とも繋がっているか」
「それはまだ証拠がないのでなんとも。それを知るには更なる調査が必要でしょう。ですから殿下にはこの二人の足取りを調べて欲しいんですよ。神器使いなら最後まで追うことはできないと思いますが、一応証拠として残したいので。あ、敵に悟られないようカモフラージュも用意して調べてくださいね」
「わかった」
人使いが荒い──と喉まで出かかったが、なんとか飲み干した。彼らは自分を国王にするために動いてくれているのだ。感謝こそすれ、不満を言う立場にない。
傀儡の王となっている父の後ろにいる狸親父たちを黙らせるには、帝国ほどの権力を見せつけないと勝てないだろう。
父王と共に引きずり下ろすには、それなりの準備がいる。
その中にはもちろん弟の不祥事も含まれているが──
「ジャンヌ……ヴィオラ嬢はあれからどうだ……?」
彼女の話題に触れると、ジャンヌは瞬時に鬼神のごとく険しい顔つきになる。
「第二王子とクソルカディオのせいで、一時期はストレスで過呼吸を起こしていたようです。ほんと、よってたかってウチの大事なヴィオラ様に何してくれてんですか? 容疑者全員の頭に雷落として黒コゲにしていいですか?」
「ジャンヌ、私刑はダメだ」
「でも、マルク様だって怒ってたじゃないですか」
「こういうのはジワジワと、真綿で包むように追い詰めていった方がいいんだよ。一枚ずつ爪を剥がすようにね。一撃で楽に死なせるなんて、罰ではなく褒美になってしまうだろう」
色気を感じさせる微笑みで恐ろしいことを言うマルクに、ジャンヌは頬を染めて痺れた。そしてアイザックは、敵に回してはいけない男ランキングにマルクを登録した。
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