180 / 228
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
173. 聖女イベント
しおりを挟む「ちょっと、ヴィオラを守るのは僕の役目でもあるんだけど? 一人でいいところ全部持っていこうとしないでよ」
「……応援してくれるんじゃなかったのか」
「それとこれとは別。手柄の独り占めはよくない」
「そうですよ! 私だってヴィオラ様の味方です!」
ノアを引き剥がしてヴィオラを抱きしめてくるジャンヌと、文句を言い合う兄とノア。
張り詰めた空気が一気に離散し、和やかな雰囲気にヴィオラは思わず笑みをこぼした。
「ね、言ったでしょ。ヴィオは一人じゃないよって。皆が側にいるよ。怖くなったら僕らを頼ればいい。助けてって言えばいい。大抵のことはノアが何とかしてくれるから」
「他力本願か!」
「ヴィオを守るためなら何でもしてくれるんでしょ?」
「当たり前だ」
「良かったね、ヴィオ」
「うん。ありがとうございます」
「ヴィ、ヴィオラ……俺も不甲斐ない父親だが、お前を守ると誓おう」
「はい。ありがとうございます。お父様」
正直、まだ恐怖は消えない。
まだあの悪夢に引きずられている。
それでも、自分が負の感情に支配されるたびに、こうして彼らが引き上げてくれる。
一人じゃない。
この世界はゲームなんかじゃないのだと、何度も彼らが教えてくれる。
弱くて情けない自分でも、助けを求めていいのだと、ありままの自分を受け入れてくれる。
彼らが味方でいてくれるなら、何度踏みつけられても、心が壊れそうになっても、何度でも立ちあがろう。
生き延びるために、今の自分はゲームの中のヴィオラではないのだと、周りに行動で示すしかない。
あの偽聖女がいる限り、
イザベラと邪神がいる限り、
ヴィオラがゲームシナリオから逃げるには、本当の聖女は自分だと証明するしかないのだから──
ヴィオラの夕食後、改めて皆が集まり、状況を整理する。
「──つまり、あの偽聖女もそのゲームとやらの知識があるってことか?」
「うん。だから初対面の時、僕に何で生きてるんだ?って言ってきたらしいよ。ゲーム内の僕は幼少期にあのクソババアに殺されてるらしいから」
「な……っ」
クリスフォードの言葉にエイダンが驚愕する。
そして、そうなっても仕方なかった過去の自分の過ちに顔を歪め、何も言えずにそのまま俯いた。
「でも、ヴィオラとクリスが聖女と聖人に選ばれてる時点で、ゲームの内容とは違ってるんだよな?」
ノアに尋ねられ、ヴィオラは頷く。
「本来ミオの魂は、リリティアの体で転生するはずだったと女神と精霊が言っていました。彼女は全属性の魔力に適応する器の持ち主だから──」
「それが邪神に邪魔されて、急遽ヴィオが選ばれた。でもヴィオの体は全属性の魔力に適していない。だから負担を軽減するために、双子の僕にも加護を与えた」
光と闇の魔力、そして精霊の加護が女神の与えた聖女の力。神聖魔法を継承するための素質となるもの。
その力をヴィオラとクリスフォードが受け継いでいる。
「偽聖女の魔力が弱いのは、精霊と契約していないからかもな」
「でしょうね。精霊魔法を使うには、子供の頃に契約して成長と共に彼らと精神を繋げる必要がある。今の年齢から精霊と契約するのは無理でしょうね」
「ああ、ノアとジャンヌは精霊付きの魔法士なんだっけ?」
「ノア様はそうですが、残念ながら私は違います」
「ノアの精霊はどんなの?」
「俺は火の精霊イグニスと契約している。バレンシアに来てから召喚したことはないから、もう随分会っていないな」
「へえ! カッコいいね!」
「お前の契約精霊の方が上位の精霊だぞ?」
「そうなんだ? でも僕らは幼い頃に数回会っただけだから、あまり実感ないんだよね」
精霊──
そうだ。ゲーム内のリリティアは子供の頃に光と闇の精霊と契約して、魔力が増加する。
そして少年のルカディオと出会い、彼の命を救うために聖女の力が目覚め、魔物を浄化するイベントがあった。
その出会いがきっかけで、ルカディオを通して攻略対象者たちと交流を深めるのだ。今の彼女を取り巻く環境を見れば、リリティアが忠実にゲームイベントをこなしてきたことがわかる。
でも進んでいるのは恋愛パートだけで、肝心の聖女の力を手に入れられていない。そして今後もその力が開花することはない。
だから多少強引にでもヴィオラを悪役令嬢に仕立て上げようとしているのだろうか。
(あんなに私を睨んでいたのは、私が悪役令嬢として機能していなかったから?)
だがヴィオラが婚約解消した今、リリティアとルカディオの仲を遮るものはない。もしあるとしたなら、彼女に懸想している攻略対象者たちだろう。
ヴィオラが学園から去ったあとは、誰がルカディオルートの悪役になるのだろうか?
それに、ヴィオラの断罪までに聖女の力が強まる修行イベントがいくつかあったはず。浄化魔法を使えないままで、リリティアはそのイベントをどう乗り切るつもりなのだろう。
そこでふと気づく。
「あ……」
「どうしたの? ヴィオ」
「お、お兄様……どうしよう」
「また何か思い出したの?」
頷きながら現状の危うさに身震いした。
修行イベントで、これから王都近郊に魔物の氾濫が起きるのだ。ヒロインは攻略対象者たちと討伐に行き、魔物が生み出される黒魔石の存在を突きとめる。
その魔石がある限り、魔物が無尽蔵に湧き出て瘴気を吐き散らすため、ヒロインは聖女の力で黒魔石を浄化する。
その浄化された魔石はアーティファクトの姿を取り戻し、ラストで邪神を封じるために必要なキーアイテムとなる。
だが、それはゲームの中の話。
現実は、この世界に浄化魔法を使える人間がいない。
ヴィオラとクリスフォードは行動制限により、光と闇の魔法を熟していないのだ。
そのため、誰も黒魔石を浄化できない。
それはつまり、このままいけば確実に、
王都にスタンピードが起こるということだ。
1,320
お気に入りに追加
7,350
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる