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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

124. ブラックリスト② side ノア

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「あれ? そういや今日はどうしたんだクリス、随分とめかしこんでるな。これからパーティでもあるのか?」

「いや、今度の舞踏会用の衣装を試着してたんだよ」

「ああ、そういえば俺の衣装も部屋に届いてた気がする。まだ見てないな」

「そうか、じゃあ今すぐ家に帰ってお前も試着した方がいいぞ。お互い忙しくなるな。じゃあまたいつか」

「ちょ、ちょっと押すなよ! 来たばっかりで帰るわけないだろ! ヴィオラ嬢! このシスコン野郎を止め……て———」


クリスフォードがセナの背中をぐいぐい押して退場させようとするが、抵抗するセナはヴィオラに助けを求めた。そして次の瞬間固まる。


「え……なに、ヴィオラ嬢めっちゃ可愛いんですけど」


ヴィオラのドレス姿を見てセナが頬を染めた。

キーンと凍り付くような空気がサロン内を包む。そしてセナの視界からヴィオラを隠すようにクリスフォードとノアが立ちふさがり、無表情でセナを見据えた。


「ちょっと、なんで隠すんだよ」

「うるさい。帰れチャラ男。ヴィオを見るな。ヴィオが減る」

「うわー……出たよシスコン拗らせ兄さん」

「帰れ、チャラ男。ヴィオラが汚れる」

「ノアまで!? 何目線なのそれは!? ていうか俺、これでも侯爵令息なんですけど? 扱い酷くない?」

「何言ってんだ。侯爵令息モードは学園内のみだから、砕けた口調でいいって言ったのはお前じゃないか」

「扱いまで粗雑にしろとは言ってないだろ!」


言い合いしながら何とかヴィオラを見ようと抵抗するセナを抑えていると、背後からエイダンが笑顔で近づき、セナの前に立った。

「お初にお目にかかります。オルディアン伯爵家当主、エイダン・オルディアンです。貴方とは今日が初対面のはずだ。なのに先触れもなく我がもの顔で勝手に我が邸に入るとはどういう了見でしょうか? このことをシーケンス侯爵はご存知で?」

「は……はじめまして。セナ・シーケンスと申します。ご子息とノアとは仲良くさせていただいて、何度かこの邸にも来たことがありまして————」

「ですが、この邸は当主の私のものです。訪れるのであればまずは私の承諾を得るべきでは? それともシーケンス侯爵家は先触れがなくても、誰でも邸に招き放題なんですか? では後ほど王宮に戻った時に、直接侯爵に方針をお伺いしてみましょう」

「も、申し訳ありませんでした! 今日は出直して次回から先触れを出させていただきます!」


笑顔で怒気を放つエイダンに恐れおののき、セナは逃げるように伯爵邸を出て行った。


「今後は爵位が上の者だろうと、私かクリスの許可なしに中に入れるな。皆に周知するように」

「かしこまりました。旦那様、申し訳ありませんでした」


まだ冷めぬエイダンの怒気に、家令も顔を青くしながら何度も頭を下げている。

エイダンも中性的な顔立ちと線の細さからは似つかないほどの高魔力保持者だ。発せられる威圧はかなりのものだろう。

医者という職業についていなければ、セナの父親である魔法士団長のシーケンス侯爵と引けを取らない。

学生のセナとは魔法士としても格が違う。だからこそエイダンの怒気に当てられてそそくさと逃げたのだろう。


「——やっぱり親子だな。怒り方がそっくりだ」


エイダンとセナの一連のやり取りを見て感想を述べると、クリスフォードがあからさまに嫌そうに顔を歪めた。


「そっくりとかやめてくれる? それ僕にとっては悪口だから」

「クリス……」


クリスフォードの返しが聞こえたらしく、再び落ち込むエイダン。


「セナに舐められた態度を取られたのは、父上が長期で王宮に引きこもり、社交をおざなりにしていた結果ですよ。社交界では貴方と僕らは不仲だという噂が出回っているんです。身から出た錆ですね。全て事実なので否定しようがありませんけど」

「……重ね重ねすまない」

「クリス、それ以上責めてやるな。エイダン殿がどんどん小さくなっていく……」






ひと段落して女性陣は部屋に戻り、使用人も退室してサロンにはノア、クリスフォード、エイダンの三人だけになった。内密な話をするため、部屋全体に遮音魔法をかける。


「———ほんと、何なんだろうねアイツ。何が目的なのかな。最初は僕らに全然興味なさそうだったのに、よほどテストで負けたのが悔しかったのかね? ノアが帝国魔法士団の見習いだって言ったら、急にキャラが変わって付き纏いだしたし」

「一緒に魔法訓練したいとか、自分も帝国魔法士団に入りたいとか無茶ぶりばかりでしつこいしな。あんな鬱陶しい奴だったとは思わなかった」


セナはノアと双子兄妹をライバル視している。

こちらは眼中にないどころか、付き合いを避けたいくらいだというのに、どんなに遠ざけようがめげずに寄ってくるのでタチが悪い。


「今のところ鬱陶しいだけで大きな被害はないけど、あの偽聖女の茶番に付き合うような奴だから、いつヴィオラにイチャモンつけるかわからないよね」

「偽聖女は学園ではそんなに酷いのか?」


エイダンの問いにクリスフォードとノアは頷く。

休暇に入る前の偽聖女は、虐められて可哀そうな女を演出して第二王子たちに泣きつき、虐めの犯人捜しに躍起になっていた。その中にはルカディオも含まれている。


その事実に、エイダンは眉間にしわを寄せた。


「虐められているといっても、同性に無視されたり、貴族マナーを注意されるくらいで大したことじゃない。ていうかそれも自業自得なのに、悲劇のヒロイン気取りで第二王子たちを煽ってる。さすが邪神が選んだ人間だね。性根が腐ってる」

クリスフォードが心底嫌そうに言葉を吐き出す。



最初の接触以降、偽聖女とルカディオの監視をしているマルクから情報を得て、彼らを徹底的に避けている。

それでも学園内にいる以上、完全に回避するのは無理で、共通スペースで出くわした時はヴィオラを背に隠し、突き刺さる視線からヴィオラを守った。


こちらのブラックリストには偽聖女の他に、第二王子たちや、エリアナが名を連ねている。


「舞踏会で何もなければいいが……本音を言えばクリスもヴィオラも参加させたくないんだがな」

「貴族なんだから無理でしょ。それにヴィオラのデビュタントだよ? 不参加なんてあり得ない」

「舞踏会の前に、要注意人物を記したブラックリストを王太子に渡すつもりでいる。王家の方でも二人に害がないように取り計らってもらうつもりだ」

「そうしてもらえると有り難い」


「ああ。だからルカディオにはヴィオラのエスコート役を降りてもらう。アイツは最もヴィオラに害をなす男だからな──」




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