104 / 228
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
98. 身近に潜む
しおりを挟む
「ほらヴィオラ、口を開けて」
「…………」
「……頑固だなヴィオラは。仕方ない。そっちがその気なら――」
途中で言葉を区切ると、ノアの体が光に包まれて容姿がゆっくりと変化していく。
少し線の細かった青年の体つきは、がっちりと鍛えられた精悍な大人の男性へ、そして茶色だった髪はグレンハーベル帝国の王族の証である白銀色に変化し、十六歳の青年から二十一歳の大人の男性へと変化した。
ヴィオラの前に神々しいほど美しい皇弟ノアが現れ、その眩しさに思わず瞳を閉じた。そして慌ててノアの膝の上から降りようとしたが、がっちりと腰を掴まれ、動きを封じられる。
「あ……あの、ノア様……下ろしてください」
「ヴィオラがちゃんと食べれば下ろしてあげるよ。さあ、口を開けて」
「…………あの、自分で」
「自分で食べないから俺が食べさせようとしてるんだろう?」
カットされた林檎を満面の笑みで口元に持ってくるノアの表情を見て、その笑顔の圧にヴィオラは諦めた。
皇族の膝の上で給餌されるという震える状況に、ヴィオラが逆らえるわけもなく、ノアのなすがままにフルーツとハチミツ入りミルクを平らげた。
「も……もう、お腹いっぱいです」
「よろしい」
「良かったです、ヴィオラ様。今湯あみの準備をしてきますね」
「うん。ありがとう、カリナ」
やっと解放されたヴィオラはノアの斜め向かいのソファに腰を下ろし、恭しく頭を下げた。
「ご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」
「ヴィオラ。そんなにかしこまるな。別に迷惑だなんて思っていない。ただ心配しただけだよ」
「ありがとう、ございます」
元気なくお礼を言うと、瞼にノアの指が触れた。
「っ」
「ああ、ごめん。赤く腫れてしまっているから視界が悪くなっているだろう。クリスに治してもらうといい」
ノアの言葉のすぐ後に、「呼んだ?」と言いながら兄のクリスフォードが部屋に入ってきた。
「うわ……ヴィオラ。瞼が腫れすぎて糸目になっているよ。僕が治してあげる」
ヴィオラの前に膝をつくと、クリスフォードは妹の目元に手をかざし、治癒魔法を施した。お腹も満たされ、治癒魔法で体の疲れも少し取れたことで、ようやく冷静さを取り戻し、先程までの子供じみた自分の行動がとても恥ずかしくなる。
「お兄様にも迷惑かけて……じゃなくて、心配かけてごめんなさい」
「ヴィオは何も悪くないよ。悪いのはあの脳筋バカなんだから。――ヴィオはあんな奴でもこのまま婚約を継続する気? 僕は正直、解消してもいいと思うよ。あんなこと言われてまで婚約関係を維持する必要なんかない」
「クリス、昨日も言っただろう。決めるのはヴィオラだ。お前の気持ちを押し付けるな」
「じゃあノア様はあのクソ野郎に、妹が傷つけられるのを黙って見てろって言うんですか!?」
「そうじゃない。とりあえずお前は落ち着け。また魔力が乱れてるぞ」
クリスフォードから闇属性の魔力が漏れているのに気づき、ヴィオラは慌てて兄の手を握って光属性の魔力を流し込んだ。温かいその魔力に中和され、クリスフォードの負の感情が沈められていく。
「まったく、二人ともまだまだ修行不足だな。ここが結界が張られているオルディアン伯爵家だからいいものの、学園でそんな頻繁に魔力を放出されたら速攻でお前たちが邪神に目をつけられるんだぞ。ただでさえ偽聖女が現れてピリピリしてるんだ。お前たちには今以上に気をつけてもらわねばならない」
「偽聖女……?」
「もしかして、光と闇の精霊が言ってたやつ? 見つかったんですか!?」
「そうだ……しかも、俺たちと同じ学園の生徒で、同学年だ」
「は!?」
(そんな身近にいたの……?)
聖女の器に、邪神が召喚した魂を埋め込まれた偽物の聖女。
本来ならヴィオラの前世であるミオの魂が聖女の体に入るはずだったが、復活を目論んだ邪神が聖女を誕生させないために干渉し、偽物に作り変えた。
偽聖女の能力は未知数で、邪神との関係性も全くわかっていない。敵なのか味方なのかもわからないのだ。
そんな要注意人物が思ったよりも身近にいたことに、ヴィオラもクリスフォードも驚愕した。
「それってつまり、邪神が学園に潜んでいるかもしれないってことですか?」
「…………」
「……頑固だなヴィオラは。仕方ない。そっちがその気なら――」
途中で言葉を区切ると、ノアの体が光に包まれて容姿がゆっくりと変化していく。
少し線の細かった青年の体つきは、がっちりと鍛えられた精悍な大人の男性へ、そして茶色だった髪はグレンハーベル帝国の王族の証である白銀色に変化し、十六歳の青年から二十一歳の大人の男性へと変化した。
ヴィオラの前に神々しいほど美しい皇弟ノアが現れ、その眩しさに思わず瞳を閉じた。そして慌ててノアの膝の上から降りようとしたが、がっちりと腰を掴まれ、動きを封じられる。
「あ……あの、ノア様……下ろしてください」
「ヴィオラがちゃんと食べれば下ろしてあげるよ。さあ、口を開けて」
「…………あの、自分で」
「自分で食べないから俺が食べさせようとしてるんだろう?」
カットされた林檎を満面の笑みで口元に持ってくるノアの表情を見て、その笑顔の圧にヴィオラは諦めた。
皇族の膝の上で給餌されるという震える状況に、ヴィオラが逆らえるわけもなく、ノアのなすがままにフルーツとハチミツ入りミルクを平らげた。
「も……もう、お腹いっぱいです」
「よろしい」
「良かったです、ヴィオラ様。今湯あみの準備をしてきますね」
「うん。ありがとう、カリナ」
やっと解放されたヴィオラはノアの斜め向かいのソファに腰を下ろし、恭しく頭を下げた。
「ご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」
「ヴィオラ。そんなにかしこまるな。別に迷惑だなんて思っていない。ただ心配しただけだよ」
「ありがとう、ございます」
元気なくお礼を言うと、瞼にノアの指が触れた。
「っ」
「ああ、ごめん。赤く腫れてしまっているから視界が悪くなっているだろう。クリスに治してもらうといい」
ノアの言葉のすぐ後に、「呼んだ?」と言いながら兄のクリスフォードが部屋に入ってきた。
「うわ……ヴィオラ。瞼が腫れすぎて糸目になっているよ。僕が治してあげる」
ヴィオラの前に膝をつくと、クリスフォードは妹の目元に手をかざし、治癒魔法を施した。お腹も満たされ、治癒魔法で体の疲れも少し取れたことで、ようやく冷静さを取り戻し、先程までの子供じみた自分の行動がとても恥ずかしくなる。
「お兄様にも迷惑かけて……じゃなくて、心配かけてごめんなさい」
「ヴィオは何も悪くないよ。悪いのはあの脳筋バカなんだから。――ヴィオはあんな奴でもこのまま婚約を継続する気? 僕は正直、解消してもいいと思うよ。あんなこと言われてまで婚約関係を維持する必要なんかない」
「クリス、昨日も言っただろう。決めるのはヴィオラだ。お前の気持ちを押し付けるな」
「じゃあノア様はあのクソ野郎に、妹が傷つけられるのを黙って見てろって言うんですか!?」
「そうじゃない。とりあえずお前は落ち着け。また魔力が乱れてるぞ」
クリスフォードから闇属性の魔力が漏れているのに気づき、ヴィオラは慌てて兄の手を握って光属性の魔力を流し込んだ。温かいその魔力に中和され、クリスフォードの負の感情が沈められていく。
「まったく、二人ともまだまだ修行不足だな。ここが結界が張られているオルディアン伯爵家だからいいものの、学園でそんな頻繁に魔力を放出されたら速攻でお前たちが邪神に目をつけられるんだぞ。ただでさえ偽聖女が現れてピリピリしてるんだ。お前たちには今以上に気をつけてもらわねばならない」
「偽聖女……?」
「もしかして、光と闇の精霊が言ってたやつ? 見つかったんですか!?」
「そうだ……しかも、俺たちと同じ学園の生徒で、同学年だ」
「は!?」
(そんな身近にいたの……?)
聖女の器に、邪神が召喚した魂を埋め込まれた偽物の聖女。
本来ならヴィオラの前世であるミオの魂が聖女の体に入るはずだったが、復活を目論んだ邪神が聖女を誕生させないために干渉し、偽物に作り変えた。
偽聖女の能力は未知数で、邪神との関係性も全くわかっていない。敵なのか味方なのかもわからないのだ。
そんな要注意人物が思ったよりも身近にいたことに、ヴィオラもクリスフォードも驚愕した。
「それってつまり、邪神が学園に潜んでいるかもしれないってことですか?」
129
お気に入りに追加
7,350
あなたにおすすめの小説
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる