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第四章 〜乙女ゲーム開始直前 / 盲目〜
63. 母の姿 挿絵付き
しおりを挟む「明日、イザベラが逮捕される」
朝食後、エイダンは執務室にヴィオラとクリスフォードを呼び、唐突にそれを告げた。
いつかは。と思ってはいたが、こんなに早く罰せられるとは思っていなかった。
それは兄のクリスフォードも同じだったようで、目を見開いて固まっている。
「お父様、証拠が集まったのですか?」
「ああ、ジルが帝国から持ってきた魔道具で過去の映像を記録する事が出来た。──そこでお前達に見せたいものがあるんだ」
そう言うと、父は執務机の引き出しから水晶玉を取り出し、そこに魔力を乗せると何もない空間に、映画のような映像が流れ出した。
「「・・・・・・っ」」
ヴィオラとクリスフォードは、そこに映る2人の赤ん坊に釘付けになる。
(これ・・・もしかして私達なの?)
『見て、エイダン様。2人とも貴方に似てとても可愛いわ』
『そうだな。でも俺から見るとマリーベルに似てると思うけどな』
『いいえ、顔のパーツがエイダン様と同じです』
『そうか?』
それは、どう見ても幸せそうな若い夫婦の映像で、どう見ても赤子のヴィオラ達を愛しんでいる姿で、
そして、そこに写っているとても美しい女性が、
「俺の隣に写ってるのがマリーベル。お前達の生みの母親だ」
ヴィオラと同じプラチナブロンドの髪色。ヴィオラのカールしたくせ毛は父譲りなのだとわかる。
そして父と同じ色の兄。
ヴィオラ達は間違いなく2人の子供だと・・・、愛し合っている両親から生まれたのだとわかる映像に、いつのまにか涙を流していた。
「ヴィオ・・・」
クリスフォードが慰めるかのようにヴィオラの手を優しく握りしめる。
「お兄様・・・。私達、お母様に愛されていたのね。だってお母様、私達の顔見て優しい顔で笑ってる」
「・・・・・・そうだね」
兄の声が微かに震えていた。
『名前は決めてくれましたか?』
『ああ。候補がありすぎて悩んだからお陰様で寝不足だよ。でもオルディアンに相応しい名前を考えた。───兄の名前はクリスフォード、妹の名前はヴィオラだ』
『クリスフォードとヴィオラ。とても素敵な名前ですね。ありがとうございます、エイダン様』
嬉しそうに微笑む母の肩を抱き寄せ、父がこめかめにキスをした。
そして2人は生まれたばかりの我が子を愛しい目で見つめる。
『クリスフォード、ヴィオラ。愛しい子供達。これからよろしくね』
そう言ってマリーベルは、
赤ん坊の双子の額にキスを贈った。
それは誰が見ても幸せな家族の光景なのに、どうして今のヴィオラ達の現状はかけ離れたものになってしまったのか。
この時までは、父も自分達を愛してくれてるのだと見ればわかるのに、何故長い間ヴィオラ達を放置したのか。
そんな簡単に、子供への愛情が消えてしまうものなのか。
義母のイザベラの事があったとしても、父が自分達にした仕打ちは簡単に水に流せない。
全ての事情を知った時に、この歪な親子関係はどうなるのだろうか。
ずっと、このままなのだろうか。
それとも、やり直せるのだろうか。
(今の段階ではとても父を受け入れられそうにないけれど────)
「お前達に、マリーベルを会わせる事ができて良かった」
父が切ない表情で映像の中の母を見つめている。
朝食で顔を合わせた時から目が充血していたから、ずっとこの映像を見ていたのだろうか。
母を見て、────泣いていたのだろうか。
「前から伝えてある通り、お前達はノア様達と共に今日これから領地に向かえ。イザベラの逮捕後、公爵家や邪神教の奴らがどう動くか分からない。ノア様達は強いが、一応オルディアン家の護衛もつける。全てが片付くまで領地に避難していてほしい」
「父上は危険じゃないのですか?」
珍しく兄が父の身の安全を気にしている。それに驚いたのはヴィオラだけでなく父も同じだったようで、目を見開いて固まっていた。
「・・・2人ともその顔は何ですか?僕はただ次期当主として父親のしようとしている事を把握しようとしているだけです。領地だって100%安全とは言いきれないんですから、用心するには情報が必要でしょ」
「・・・そうか。俺は大丈夫だ。ケンウッドもいるし、他にも協力者がいるからな。今はまだ全てを話せないが、決着がついたら隠さず事実を伝えるから、もう少し待ってくれ」
「───わかりました」
父は気づいていないが、ヴィオラは兄の変化に気づいた。兄が父を見る時に常に纏っていた黒いオーラが鳴りを潜めていることを。
でも、ヴィオラと同じく兄も消化できない蟠りを抱えている事が、繋いだ手から伝わってくる。
そう簡単にはいかない。
それくらい、親子の距離はまだ遠い。
───────────────────
こちらもたまに挿絵挟んでいこうと思います。
よろしくお願いします(^ ^)
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