上 下
21 / 228
第二章 〜点と線 / 隠された力〜

17. 涙

しおりを挟む


4人で話し合ったあの日から、一ヵ月後に父と会う事が決まった。

先触れを出してきたので、その間母がクリスフォードとヴィオラに手を出す事はなかった。父に虐待を知られたくないのが丸わかりだ。


(ロイドが全部報告しちゃってるけどね)


おかげで怪我をしたり体調を崩すことも無く穏やかな日々を過ごすことが出来た。

逆にそれで、クリスフォードに毒を盛っていたという疑惑がますます深まる事となった。


そして母はいつになくソワソワしており、父の訪れを意識しているのが明白で、侍女に命じて外見を磨き上げるのに忙しそうだった。

それはまるで好きな人を待つ恋する乙女のようで、普通なら微笑ましいのだろうがヴィオラはゾッとしてしまう。


目つきがまるで獲物を狙う女郎蜘蛛のように見えた。
クリスフォードにそう呟いたら「激しく同意」と気持ち悪がっていた。毛嫌いが過ぎる。



そしてヴィオラの手元には今、ルカディオからの手紙があった。

思わず顔が綻ぶ。母親の前でこんな顔は晒せないのでもちろん夜にこっそり読んでいる。

最近は騎士団の練習に参加させてもらっているようで、順調に騎士への道を歩んでいるようだ。


『会いたい。好きだ』の文字に胸が締め付けられ、涙が溢れそうになる。


(私も会いたいよルカ・・・大好き)


愛しい人からの手紙を抱きしめ、瞳を閉じる。ルカの明るい笑顔が瞼の奥に見えた。


一日も早く親からの呪縛から逃れたい。
自分の意思で外に出たい。



そしたら迷わず、1番にルカに会いに行くのに。



「今日はルカの夢が見れますように」



今はまだ、夢でしか会えない──。





*****




「いよいよお父様が帰ってくるの来週だね。こんなに早く会えるなんて思わなかった。お兄様、なんて手紙出したの?」



深夜に再びクリスフォードの部屋を訪れ、今後の対応について小声で話し合う。


「うーん。最初は今までの恨み辛みを時系列に記して送りつけてやろうかと思ってたんだけど、すごい枚数になりそうだったから面倒になってやめたんだ。だからシンプルに、僕達に魔力がある可能性あり。早く何とかしないと王家にバレて一族皆死ぬかもよ?って2行にまとめて送った。」

「それ、手紙じゃなくて脅迫状・・・・・・」

「大丈夫。手紙はケンウッドに届けてもらったから上手くフォローしてくれるはずだよ。大体それくらい強く出ないとあの人は王宮から出てこないよ。いい加減当主の仕事してもらわないと、僕の成人待たずに潰す事を本気で考えなくちゃいけないし」

「お兄様、本当にお父様のこと嫌いよね・・・」

「うん。大嫌い」
 

ものすごくいい笑顔で答えるクリスフォードを見て、「これ生理的に無理な粋に入ったな・・・」とヴィオラは少しばかり父を憐れんだ。


「お父様は力になってくれるかな」

「ならざる得ないでしょ。僕の体調不良が魔力酔いによるものなら、魔力制御を一切習ってない僕らはいずれ魔力暴走を起こす可能性がある。そうなったら隠した所でどのみち世間にバレるんだから、父上は動かざる得ない。だから焦ってこっち来るんでしょ」


なるほど。と納得しながらこの間から気になっていた事をクリスフォードに尋ねる。

「もし私にも魔力があるなら、何で私には何の症状もないんだろう?お兄様みたいに発作も起こした事ないわ」

「そうなんだよね。ヴィオラは平気なんだもんね。まあ、それも含めて調べてもらおう。それに、判定で魔力がある事が証明されれば、僕の病弱はヴィオラのせいではないって母上に事実を突き付けることができるよ」

「っ!」



(そうだ。私はずっと母に、お腹にいた時に兄から健康な体を奪って生まれてきた疫病神だと言われて育ってきた)


クリスフォードもそれを知っていて、時には言い返してくれたり、自分も一緒に傷ついたりして、クリスフォードにとっても母の罵りは心に深く傷を残した。


「僕は、母上を絶対許さないよ。どんな手を使ってでも破滅させる。ヴィオを傷つけ続けた分だけ、きっちり返してやるから」

「お兄様。私は大丈夫だから、危ないことしないで」

「わかってるよ」


目を細めて優しい微笑みで頭を撫でてくれるクリスフォードが危うく見えて、思わず兄の服の裾を掴んだ。

どんなに優秀だと言われようが、当主然としていようが、ヴィオラ達はまだ10歳の子供で、大人の庇護のもとで守られるべき存在なのだ。

親代わりのように振る舞う兄の優しさに、ヴィオラの胸が苦しくなる。クリスフォードは一体誰に甘えればいいのか。頼むから1人で何でも背負わないで欲しいと思う。


「お兄様も、私も、まだ子供なのよ。急いで大人になろうとしないで。私の事も頼って。私もお兄様を守るわ」


クリスフォードは真剣なヴィオラの言葉に、キョトンとした顔で数秒固まった後、またフワリと柔らかい笑みを浮かべる。


「またヴィオラが大人みたいに見える」

「前世のおかげでお兄様より精神年齢上だって言ったでしょ」

「そっか。それは頼もしいね」


2人でふふっと笑い合って、それぞれ眠りについた。







そして、久しぶりの父親との面会の日。




「そんな・・・、嘘だろ・・・・・・っ」




ヴィオラ達の顔を見て驚愕の声を溢したあと、




父は突然泣き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

愛は見えないものだから

豆狸
恋愛
愛は見えないものです。本当のことはだれにもわかりません。 わかりませんが……私が殿下に愛されていないのは確かだと思うのです。

処理中です...