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第一章 〜初恋 / 運命が動き出す音〜
8. 良妻賢母を演じる女 sideクリスフォード
しおりを挟む「───は?・・・今なんて言いました?」
母イザベラの発言に、クリスフォードは固まった。
就寝前、母親が慈悲に満ちた微笑みを浮かべ、ベッドに横たわるクリスフォードの手を握っている。
これはいつもの儀式のようなもの。
息子を溺愛している。看病している。
献身的な良妻賢母。
社交界でそう言われる為の、見せかけの儀式。
現実は、自分しか愛していない強欲な女。
そんな性根の腐った女がとんでもない事を言い出した為、クリスフォードは瞬時に母親の思惑を探り出す。
「ですから、私とクリスとヴィオラは、来週から領地で静養する事になりました。この前クリスが酷い発作を起こして数日寝込んだでしょう?侍医と相談して自然豊かな土地で療養した方が良いだろうっていう話になったのよ」
「何で急にそんな話に・・・」
「急ではないわ。以前から話は出ていました。今回領地で新しい薬草の栽培に成功したので、新たな薬物療法を取り入れてみる事になったのよ。クリスは伯爵家を継ぐために、15才になったら王立魔法学園に入学しなければならないの。その為にも、より良い環境で治療する事が大事なのよ」
嘘だ。
それは表向きの理由だろう事は子供のクリスフォードでもわかった。この女が息子の病を治したいなんてこれっぽっちも思ってないのは知っている。
溺愛されているはずのクリスフォードは、実際は『息子の看病をする愛情深い賢母』の立場を得る為の道具に過ぎない。
じゃなければ、とっくの昔に領地に戻って治療しているはずだ。
「ですが、ヴィオラはつい先日ルカディオと婚約したばかりなんですよ?これから侯爵家で花嫁修行を始めるんじゃないんですか?」
「それに関しては、領地で家庭教師に花嫁修行してもらうから大丈夫よ。侯爵家とも話はついてるし」
ニッコリと、満面の笑みで嬉しそうに答える母親に自分の見解が正解だと脳が訴える。
目的はヴィオラだ。
領地に篭って、父上の目が届かない場所で虐げるつもりなのだ。この女は。
ヴィオラとルカディオが関わるようになってから、表立って体罰を行う事が出来なくなった。
ヴィオラに傷をつけて侯爵家に情報が回ってしまうのを恐れたのだろう。それから3年間ヴィオラは目立った怪我をする事はなかった。
ルカディオに恋をして交流を深める事で、以前は悲壮感が常に漂っていたヴィオラだったが、今は幸せオーラを漂わせており、その姿がこの女を3年もの間苛立たせてきたのだろう。
最近のヴィオラを見る目が殺気立っているのがいい証拠だ。
(────このまま領地なんかに行ったらこの女にヴィオラが殺されるかもしれないじゃないかっ)
出発までに味方を増やさなくてはならない。
大人で、父上寄りの奴がいい。
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