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第3章

㉞ 囚われのいづな

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「おらあ!」

「死ね!」

「どうだ!」

 ファリドゥーンは抵抗できなくなった私たちのアジ・ダハーカをボコボコに殴った。

「ぎゃはははははは! どうだ、勇者アスラン! 母上を唆した報いだ!」

 その母上もこの中にいるのに、このアジ・ダハーカを私と見たり、ファラナークと見たりと都合のいいものだ。

「うぅぅぅ……ごめんなさい、アスラン。あの子を見捨てることができなかった妾の間違いだったわ……」

 このままではまずい。

 やられっぱなしでは勝てる理由なんてない。

 なんとかシンクロ率を上げようとかくかくと腰を動かしてみるのだが、母親モードに戻ってしまったファラナークは少々のピストンでは感じなくなってしまったらしい。



「うへへへへ! お前を殺した後に、たっぷりとあの女を犯してやるぜ!!」

 なんだと、そんなのは許せない!!

「消えろ!!」

 リヴァイアサンは高く舞い上がると、口からこれまでにないほどの強烈な光線を放った。

「ファリドゥーン!!」

 バカな!

 これを喰らっても私は死なない。だけど、きみの母上は確実に死んでしまうぞ!!

 だけどやはりアジ・ダハーカは動かなかった。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 もうこれしかない!!

「≪ゴールドフィンガー・デトックス≫!!!!!」

「はうあ!!?」

 私はファラナークにマッサージを仕掛けた。

 もみもみもみもみもみ!

「あふぁ!! ファ、ファリドゥーン!!」

 もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ!

 息子のことなんか忘れさせてやるぜ!!

「あはぁん! アスランってば!」

 よし、効いてきたぞ!

「ファ、ファリド……あん、あん、あん♡」

 ここだ!

 ずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこん!!!

 駅弁で激しく腰を打ちつける。

「ア……アスラン、いけないわ……だけど……」

『シンクロ率69%』

 そうしている間も光線は近づいてきている!

 だが、みーはんも近くにいるんだ。避けるだけじゃ彼女が巻き込まれてしまう。

 吸収するしかない!!

「あああ、もっとよ! もっともっと激しく突いて! アスラン、突きまくって!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 ずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこんずっこんばっこん!!!

『シンクロ率100%』

「あっはあああああああん!!」

 ファラナークは絶頂した。



「今だ! ≪魔封斬・エナジードレイン・ドライブモード≫!!」

 私は勇者の剣を光線に打ちつけた。

 ずっぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううん!!!!!!



 その破壊力は私のエネルギーとなった。

「な、なんだと?」

 ファリドゥーンは驚いていた。

 だが、私も驚きを隠せなかった。

 なんと、勇者の剣が砕け散ってしまったのだ。

 まさか、いづなが!?



「くくくく……女が何か言いたそうだな。聞かせてやろうじゃないか」

 どうやら向こうにもマイクらしきものがあるあらしい。

『せ……仙崎様……』

「いづな! 私の声が聞こえるか!」

『はい……申し訳ございません、仙崎様。一度ならず二度までも人質に取られようとは。感情に支配され、戦況全体を見渡すことができておりませんでした……』

 それは、これまでにないほどに感情的ないづなの声だった。

 何かが砕けてしまったような声で、今までの凛とした姿しか知らないからこそ、それはあまりに悲しく、聞いているこちらのほうが泣いてしまいたくなるほどだった。

『仙崎様、こんな足手まといにしかならない私など斬り捨ててしまってくださいませ』

 砕けた剣が、弱々しくも再び姿を現した。

「バカな! きみがいなくなってしまえば私はどうすればいいというんだ。私はきみがいなければ勇者として何もできなくなってしまうじゃないか」



『ご安心ください……私が死んでも、おそらくは女神様が新たな従者をご用意くださいますでしょう。今は戦いに勝つことこそが最優先事項なのです。私もろともお斬りください』



 はかない。

 いづなの声はあまりにはかなかった。

「くくくくくく……女は斬ってくれと懇願しておるぞ。望み通り斬ってやればよいではないか。さあ、やってみろ。勇者アスラン」

 ファリドゥーンは私がそんなことなどできないことをわかった上で言ってきた。



 そしてそれはその通りだった。



 私にいづなを斬れるわけなどないじゃないか。

「そぉら! 攻撃してこいよ。おら、おら! ぎゃははははは!!!」

 ファリドゥーンの攻撃でボコボコにやられてしまう。

『仙崎様! 早く反撃を!!』

「そんなの、できっこないよ!」

 精神的に動揺してしまった私のせいでシンクロ率は10%代にまで落ち込み、アジ・ダハーカはほとんどいうことを聞かなくなったせいもある。

「アスラン、このままでは危険よ!」

「わかってる、わかってるさ!」

 だけど、どうすればいいかわからない。



『仙崎様。あなたが私のせいでここで敗れ、結果としてこの下衆に犯されるようなことになれば、やはり私はもう生きていくことなどできないでしょう』

「いづな!?」

『私の運命はここまでだったのです。後顧の憂いを絶ち、この蛆虫にも劣る下劣な輩を灰燼に帰してやってくださいませ』

「嫌だ……! 私はきみを失うなんて絶対に嫌だ!」

『私の代わりなどすぐに現れましょう』

「きみじゃないと嫌なんだ! きみの代わりなんているわけないだろう!!」

『仙崎様!』

 リヴァイアサンの攻撃は止まることがなく、アジ・ダハーカももはや崩れかけていた。



「だめよ、アスラン!」

「わかってる。戦わなきゃどちらにしてもいづなは助けられないんだ!」

 ファラナークは少し沈黙してから言い直した。

「そうじゃないわ、アスラン」

 そう言って、おっぱいで私の顔をより強く挟み込み、私の腰に絡めていた足をこれまでになく強く締め付けより腰を密着させてきた。そして、ゆっくりとだがはっきりと感じられるように腰をぐりぐりと動かして刺激してきた。



「女の子には、もっとはっきりとした言葉でないと伝わらないのよ」



「え?」

「今、口にしたのはあなたの本心よ。だけど、きっといづなちゃんには伝わってないわ」

「伝わってない?」

「もっと単純明快な……ちょっと脚色して大げさすぎるくらいの表現でないと、きっとあなたの言葉は伝わらない」

「だ、だけど……」

 何て言えばいいんだ?

 私はこの局面で混乱してしまっていた。

「じゃあ、言葉にできるだけの勇気を上げるわ」

 そう言ってファラナークがぐっと身体を沈みこませると、おっぱいは私の顔から離れ、代わりに彼女の顔が正面にきた。

 そして、ぐっと唇に唇を押し当ててきた。

「はっきりと言ってあげなさい。あなたならできるでしょう、アスラン」



 ああ、言える。

 言えてしまえる。

 こんなおじさんが、若い女性に言うなんて絶対に許されないような言葉が!

 でも、ここで言わないでいつ言うというんだ!



「私はきみを愛しているんだ!」



『仙崎様!?』

「愛するきみを失って、私はどうすればいいというんだ。私はきみを失うことだけは絶対に嫌なんだ!」

 そしてはっと気づく。

 それを言って何になるというんだ。

 言ったところでこのまずい状況が解決されるわけではない。

 言うべきタイミングとしては今しかなかったかもしれないけど!

 勢いで、全然関係ないことを言ってしまった!!

 恥ずかしい!!



「ひゅー。おじさんこんな場面でなんかすごいこと言っちゃったわね」

 遠くからドラゴンに乗って見ていたみーはんにもそれは聞こえていた。

「あれ?」

 アジ・ダハーカの様子が変わっていく。

 いや、正確にはアジ・ダハーカがもっている勇者の剣が変わっていくのが見えた。

 勇者の剣はいづなの精神をそのまま表す。

 そして今、勇者の剣はまさにそれを表していた。



 刃がハート型になっていた。
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