闇の者

広之新

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第1章 保護惑星地球

闇への依頼

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 一人の中年の紳士が車から降りた。そこは地球人の多く住む街だった。
「参事。ここでよろしいのでしょうか。」秘書であり運転手の梶山が尋ねた。
「ああ、ここでよい。」その紳士は答えた。彼は地球代表部の責任者の大山参事だった。最近、異星人の非道を止める謎の集団が現れたことを知った。彼はある目的でその人物に接触しようと考えていた。
「うわー!」街で悲鳴が上がった。大山参事は、
(彼らが現れるに違いない。)と確信してその場所に急いだ。
「貴様ら気に入らぬ。根性を入れ直してやるわ!」異星人の声が聞こえた。見ると足を痛めてたてぬ老人に棒を振り下ろそうとしていた。
「いかん!」大山参事は飛び出そうとした。しかしそれより前に異星人に向かって何かが飛んできた。
「グサ!」それは手裏剣だった。異星人の振り上げた棒に突き刺さった。
「すぐに立ち去れ!これ以上の無法は許さぬ。」低い声が響いてきた。
「あ、あいつらか!」異星人は震えていた。うわさで彼らのことを知っているようで、すぐに棒を下ろして逃げ去った。
 しかしその場には集まった群衆以外に、ジャコー取締官とバイオノイドも来ていた。
「取り逃がすな!」ジャコー取締官たちには、手裏剣を投げた人影が見えていたようだった。バイオノイドたちがある建物に殺到すると、そこから一つの影が屋根から地面に飛び降りた。それはうわさに聞く忍者だった。
「斬り殺しても構わん!行け!」ジャコー取締官が命じるとバイオノイドたちは剣を手にして向かって来た。忍者は懐から短刀をとり出し、振り下ろされてくる剣を受けたり避けたりしながらその包囲から逃げ出した。
「逃がすな!」ジャコー取締官が叫んだ。戦士たちは剣を振りかざして追っていった。
(このままではあの者は斬られる。)大山参事は思った。しかし忍者は懐から何かを取り出し、地面に叩きつけた。
「ボン!」鈍い音がして白い煙が辺りを覆った。バイオノイドたちは視界を奪われて右往左往していた。やがて煙が晴れた後にはその忍者の影はなかった。
「逃げられたか!」ジャコー取締官は地団太踏んで悔しがった。
 しかし大山参事の鋭い目は忍者を見逃さなかった。彼は人目をくらまして思いもよらぬ方向を走り去っていた。
「追わねば!」大山参事はその後を走って必死に追った。その忍者は誰も追ってこないのを確信したのか、スピードを緩め、忍びの衣装を脱ぎ、シャツとズボンの男の姿になった。そしてそのまま歩いていた。大山参事も走るのを止め、彼をつけることにした。
(忍者は彼一人ではない。きっと隠れ家があるはずだ。このままつけていけば、そこが突き止められるかもしれない。)と思っていた。だがその男は急に走り出した。
(気づかれたか!)大山参事は危険を顧みず、その後を追った。しかし角を曲がると行き止まりになっており、その先に人の姿はなかった。
「そのまま動かぬように願いたい。大山参事とお見受けした。私に何か用ですかな?」低い声が響いてきた。
「君たちに用がある。」大山参事が言った。
「マコウ人の手先が我らに何の用があるというのだ。」
「それは違う。マコウ人をはじめ異星人の非道には目に余るところがある。しかし地球自治を取り戻すためには頭を下げて行かねばならん。」大山参事は言った。
「だからと言って地球人がひどい目に合ういわれはない。我らは戦う。」
「わかっている。だから手を貸したいのだ。」大山参事が言った。
「信用できぬ。」
「わかってくれ、というしかない。今の私には君たちを信じさせるものはない。だが私の心は本当だ。」大山参事は言った。男が考えていたのだろうか、しばらく時間がたった後、
「考えておく。」その言葉を最後に声は聞こえなくなった。
「聞こえるか!返事をしてくれ!」大山参事が周囲を見渡して大声を出した。しかし返事はなかった。

「取り逃がしたのか!」サンキン局長は言った。
「申し訳ありません。しかし見回りを強化すれば捕まえることができましょう。奴らは手裏剣と分銅鎖、短刀しかもっていないようですから。煙玉も子供だまし。バイオノイドにセンサーを強化させましたのでもう逃がすことはありません。」ジャコー取締官が言った。
「うむ。それならばよい。」サンキン局長が言った。
「それより気がかりなことがあります。」ジャコー取締官が言った。
「何だ?」
「地球人の行方不明者が多数出ております。もしかしたらガンマ人の貿易商が地球人を奴隷にして運び出したのかもしれません。彼らはまたやるかもしれません。」ジャコー取締官が言った。
「それは銀河条約違反の行為だ。止めねばならん。下等な地球人でも。」サンキン局長が言った。
「それがなかなか踏み込めません。そのガンマ人は総督府と強いパイプがあるらしく、許可が出ません。何か突発的な事件があれば別ですが・・・」ジャコー取締官が言った。
「そうか。それは上の方と相談する。それまで待て。」サンキン局長は言った。

 地球代表部の執務室で大山参事はじっと待っていた。彼はあの忍者の男が来ることを信じていた。時間はもう日が変わろうとしていた。
(来ないのか・・・)大山参事は席を立とうとした。その時、何かの気配を感じた。
「どこに行かれる?」その声はあの男の声だった。
「来たか。姿を現したまえ。君は何者だ?」大山参事が言った。
「いいだろう。だが顔は見せられぬ。」部屋の隅から忍びの衣装を着た男が現れた。目元を残して顔は隠されていた。
「名前を聞こう。」
「半蔵。」
「忍者か?」大山参事が尋ねた。
「我らは闇だ。」半蔵は答えた。
「そうか。聞いたことがある。時代を問わず、表には出ず、陰から非道を正す集団があると。その者か?」大山参事は言った。
「さあ、それはどうかな。」半蔵は言った。
「いいだろう。用件を言おう。手を貸してほしい。ガンマ人の貿易商が地球人を拉致して宇宙船で運び出し、別の惑星で奴隷として売りさばいている。それを阻止して欲しい。」大山参事が言った。
「そのようなことは地球代表部で対処できるのではないか。どうして我らに頼むのか?」半蔵は訊いた。
「そのガンマ人は総督府に太いパイプを持つ。地球代表部どころか取締局でさえ手が出せないだろう。しかし君たちならできる。」大山参事は言った。
「ふふふ。成功しようが失敗しようが我関せずを貫くつもりか。我らは捨て石か。」半蔵が静かに笑いながら言った。
「捨て石は嫌か?」大山参事が言った。
「いや、よかろう。所詮、われらは闇。引き受けよう。」半蔵は言った。
「ではこれを持っていけ。」大山参事は金庫を開けた。そこから大きなカバンを取り出した。半蔵はそれを受け取って開けた。中にはペンやボタンやバッジ、ガムなどが入っていた。
「君たちの武器では到底、彼らにはが立たないだろう。レーザー刀、電子手裏剣、防御装具、煙玉などの装備だ。超小型化し、身の回りの物と同じ形にした。武器探査装置にも引っ掛からない。起動すればその物の大きさと形になる。これなら怪しまれず持ち歩けるだろう。地球に残されたテクノロジーを結集して開発した。君たちの力を十分発揮できるはずだ。」大山参事は言った。
「確かに受け取った。」半蔵はカバンを閉めた。
「家族を拉致され、多くの人が嘆き悲しんでいる。頼むぞ。だが誰にも知られぬように密かにことを行ってくれ。」大山参事が言った。
「うむ。承知した。」そう言うと半蔵は部屋の隅から姿を消していった。
(今、私にできるのはこれぐらいしかない。頼むぞ。半蔵。)大山参事は心の中で思っていた。窓の外は深い夜の闇が広がっていた。
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