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第1章 異世界でレベリング
第16話 デスリーパーより苦戦してる
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「さて、どうするか。」
前に佇む巨人を見やる。もう辺りは暗くなってきたので、ヤツの紅い眼光だけが異様に輝いていた。
もうすぐ〈暗視〉が必要だな。
「どうやって倒したっけ、あいつ。うなじでも切れば倒せるかな?」
はい、冗談はおいといて。
確か、どっかの核を潰した気がするんだが……あれ?こいつ核なくね?
〈原初の魔力〉でくまなく探すが、見当たらない。
探していると、不意にヘルジャイアントの右腕が動く。
「っつ、あっぶねぇな。」
巨人の重い一撃をバックステップで躱すと、再度相手を見やる。
コイツの怖いところは、何も声を発しないところだ。なぜなら、口がないから。
静かな攻撃だが、一度でも当たると全身の骨が粉砕する。腕だけに当たったとしても、その腕を伝って全身に衝撃が響くため、どちみち全身の骨が折れる。
つまり、全ての攻撃を避けなければいけない。1回なら当たっても大丈夫という考えは捨てた方がいい。
「やっぱ俺の人生ハードモードだな。」
自嘲気味にイロアスは笑うと、レールガンを取り出そうとして……
「……」
「あぁぁぁぁぁぁ!ない、ないじゃん。ないよ…剣ないよ…銃ないよ…」
そう、両方ともフィリナスに預けて来てしまったのだ。今残っている武器は、ファルシオンだけ。あとは自身の魔法で補うしかない。
「ハードモードどころじゃねえな。」
ドゴンッと音が響き、巨大な棍棒みたいな腕が降ってくる。
それを横に跳んでよけるが、衝撃によって飛んできた岩が頭をかすめる。
「クソッ」
火力のある炎系統は使えない。辺りが森だから大火事になって、俺が町を滅ぼしかねないから。雷も乱用は控えた方が良いか。
「〈トルネード〉×3!」
中級の風属性魔法を放つ。いくら中級といえども、3つも合わさると上級に勝るとも劣らない威力になり、木々を凪ぎ、地を抉る。しかし、巨人には微細なダメージしか入らない。
「〈ウインド〉!」
叩きつけられた巨大な腕を避けるために、自身に風魔法を放つ。
さっきとは違って、抉れた地面や岩石が飛んでくる範囲よりも遠く逃げられたが……
痛い。威力を少し間違えた。
『電雷よ、降雨と成りて敵を貫け。』
「〈スパーキングスコール〉!」
イロアスのオリジナル魔法、その名の通り雷の雨。
雷を纏った雨が敵に降り落ちる。イロアスはデスリーパーからゲットしたコートのおかげで自爆はまぬがれている。
「……」
ヘルジャイアントが少し呻いたように感じた。実際は何も発していないし、表情も変わらないのだが、それでもこの攻撃は効いている。
だが……
これは決定打にならない。本来なら炎属性魔法の高火力魔法でLAを決めるバトルスタイルなのだが、今はそれができない厳しい状況だった。
「っつ。」
横薙ぎに迫る右腕をバックステップで避けようとするが、ヘルジャイアントとの距離が近かったため上に跳躍して避ける。
イロアスが宙にいる瞬間を狙ってか、今度は左腕が振り下ろされた。
避けられっ
「ガァァァァ。」
バキバキと簡単に骨が折れる音が脳に響いた。
しかし、痛いと思う暇もなく、今度は地面に思いっきり叩きつけられる。
「ぅご…」
叩きつけられたイロアスは、見るも無残な状態だった。クレーターの中心には血の海ができていて、その中央に肉塊が落ちていた。衝撃のせいか、身体は複数個の肉塊へと化していた。
(ぅがぁ…〈超回復〉)
朦朧とする意識の中、生き延びるためのスキルを発動させる。ここまで死にかけたのは、久しぶりだった。しかし、走馬灯というのはやっぱり見えないらしい。俺が刺されたときも、今もだいぶ生死をさまよったはずなのに何も見ることはなかった。
「あー、血が足りない。」
〈超回復〉でも回復が追いつかなかったのか、損傷の激しかった左腕の肘から先は、まだ赤黒い棒のようになっている。しかも、〈超回復〉では血まで回復されないため、足元の血の海分の血はまだ治っていない。つまり、今は超貧血状態となっていた。
「状態異常の貧血が出てるし。」
めまいと立ちくらみが酷い。この状態異常は頭痛と気持ち悪さも合わせ持っている。他の状態異常とはまた違って、貧血に対応した耐性スキルがないのでだいぶ厄介だ。
「~~」
遠くで喧騒が聞こえる。どうやら、集まっていた魔物が暴れだしたらしい。
まずいな。集まっていた魔物の方もどうにかしないと。いや、そっちのほうが優先順位は高いか。
幸い、ヘルジャイアントは足が遅い。俺があっちに行ってすぐに殲滅してすぐ戻れば間に合うはず。多少開けた場所なら、炎属性魔法を使ってもいいだろう。
「〈アクセル〉〈ブースト〉×2〈アックス〉×2」
ヘルジャイアントに背を向けると、すぐに地面から跳びたった。
それを見たヘルジャイアントは標的の後を追うべく動きだした。いくら足が遅いと言っても、身長に比例して足が長いので、一般人のダッシュよりも早いスピードだ。
「〈シェイド〉!」
十分に高度が出たので、滑空用の翼を展開する。飛びながら風属性魔法で気流を生み出しているので、ヘルジャイアントの何倍ものスピードが出た。
(見えた!)
視界の先に魔物を捉える。だが、さっきの滑空とは違って高い場所からスタートしていなかったため、高度が足りなかった。
これじゃあ、届かないか。だったら……
「〈ウインド〉×3!」
自身に風魔法を放ち、追い風を自分で作りだす。
痛ってぇ。ほとんど自爆行為じゃねぇか。まぁ、その代償に目的地についたから良いか。
「辺りに人は……いないか?」
離れたところから弓や魔法で攻撃しているらしい。攻撃隊はバリケードの作成に尽力していた。
『煉獄の炎で焦土と化せ』
「〈ヘルフレアグラウンド〉!」
イロアスのオリジナル魔法、正式名称は闇炎複合属性広範囲域殲滅魔法 ヘルフレアグラウンド。闇の炎という闇属性と火属性が詰め込まれた、いかにもイロアスっぽい魔法である。
いきなり地面にヒビが入ったと思ったら、そこから黒い炎が湧き上がる。このイロアスの魔法で、魔物の90%以上が炭となった。
「な、なんだあれは!?」「誰がやったんだ?あんなの、災害級魔法じゃないか。」
「今だ!魔物たちが怯んだ今が好機!全員突撃!」
どっかの指揮官により、冒険者たちが魔物を倒していく。イロアスの魔法でほぼ事は終わっていたため、あとは彼らに任せても大丈夫だろう。
「俺は、あいつをやるか。」
〈クレヤボンス〉を使わなくてもぎりぎり見える位置まで来ているヘルジャイアントのところへすぐに戻った。
…
「〈暗視〉」
もう夜なので、便利なこのスキルを発動させた。常人と比べると、イロアスは夜目が効くほうだが、それでもこのスキルがあるのと無いのでは、だいぶ大きく変わってくる。
きちんと準備が整ったら、再度ヘルジャイアントの元に向かった。
「〈オメガスタン〉×5!」」
なかなか強い方の魔法だと思うんだが、あいつには通用しないな。さすがボスと言うべきか。
麻痺魔法〈スタン〉の広範囲に強力な麻痺効果を与えれられる〈オメガスタン〉は、たいていの敵なら麻痺となって数秒間動けなくなり、弱い魔物や一般人などは死んでしまうことが多い。
しかし、ヘルジャイアントには麻痺効果は付与されず、ダメージも微々たるものだ。これがLvの違いなのだろう。
「……」
鬱蒼とした森の中、両者は静かに距離をとり、お互いの出どころを掴もうと見つめ合っていた。
「あれを……やるか。」
だが、発動できるか分からないが、このままでは有効打が無い。
『黄道のように円を描くは、光輪の如く。』
『放たれるは宇宙からの熱光。』
早口に2節を唱えると、ヘルジャイアントからの攻撃を避けるべく、俊敏に動き出した。
対してヘルジャイアントは、相手が攻撃をしてこないのを好機とみて、連撃を繰り出す。
『紅き太陽が焼き焦がす。』
20基の魔法陣が完成し、全基がヘルジャイアントの方に向く。ヘルジャイアントの巨大な図体に対応して、〈ソーラーレイ〉の魔法陣も大量の魔力を消費して、直径3mくらいのものになっていた。
しかし、ヘルジャイアントもただ相手の魔法が完成するのを待っていたわけではない。相手が避けることしかできないのを察したため、執拗に攻撃を繰り返していた。あの巨人に魔法を阻止しようとする意思があったのかは分からないが、もしイロアスの詠唱が途中で中断したとなると、魔法が暴発して2人とも死ぬ運命にある。さらには、巻き添えで町が消し飛ぶかもしれない。
(〈ウインド〉!)
魔法を詠唱中に、無詠唱で他の魔法を発動させる。これはイロアスの脳に多大なダメージが入り、魔力も無駄に多く消費するので、詠唱中に命を守るためにしか使われない。つまり、今イロアスは命の危機に瀕しているということだ。そして、一度でも攻撃を喰らえば、今度こそ確実に死に至る。
極限の集中力でイロアスはヘルジャイアントの攻撃を避けていた。
穿て。
「〈ソーラーレイ〉!」
20基の魔法陣から太陽光線が発射される。魔法陣の大きさに比例して、光線の大きさも従来の〈ソーラーレイ〉では考えられないほど巨大だった。まぁ、〈ソーラーレイ〉自体がイロアスのオリジナル魔法なので、一般人が発動した場合はもっと小さくなるだろうが。
「…」
やはり膨大な魔力を消費するこの魔法は、ヘルジャイアントにも大ダメージを与えたようだ。
光線が通ったところはきれいな穴が空き、2本以上が重なったところは貫通している。赤黒い血が湧き出るように流れ、イロアスと同じように血の海を作り出した。
だが、核がないこいつに止めを刺せるだろうか。………まぁ、別に核が無かったって、肉体がなくなれば死ぬか。 それまで〈ソーラーレイ〉並の魔法を撃たなければいけなくなる。そうなると……デスリーパーとかゴーレム・デストロイヤーのときよりも苦戦するんじゃね?
「〈シェイド〉!」
傷ついた穴を狙おうと、闇が伸びていく。しかし、それが傷にたどり着く前にヘルジャイアントはその闇を掴むと、引きちぎった。
「なっ!」
魔力で出来た闇を掴んだだと!モンスターはとんでもないやつばかりだな。
しかし、魔力残量が心許ない。早めに畳み掛けないと。
「〈サイクロン〉×3!」
風属性魔法による擬似台風が、木々を薙ぎ倒して巨人を飲み込む。
2つの台風が歯車のように回っているため、お互いがお互いの威力を強化し合う形となっている。そのため、その2つに挟まれたヘルジャイアントは身動きが自由にとれずにいた。
今しかないっ!
『黄道のように円を描くは、光輪の如く。』
『放たれるは… 「危ないですっっ!」
聞いたことのある、高い声がした。その声で詠唱から少し意識を離したイロアスは……ふと顔を上げた。
気がつくと、目の前にヘルジャイアントの腕が伸びていた。
「っつ」
油断してた。サイクロンから抜け出すには時間がかかると思っていた。
今から完全には避けられない。
イロアスは冷たい汗が湧き出るのを感じていた。
「〈ウォール〉×20!!」
多重術式を限界近くまで発動させ、声のした方向に巨大な防御壁を作り出す。小高い丘となっていたその場に少女がいたのをイロアスは確認した。
「〈ウインド〉×4!」
そこで一度イロアスの意識は途切れた。ヘルジャイアントの攻撃がかすめて、骨が折れるあの感触がした気がするが定かではない。
「イロアス様ーーー!」
マーラの声が夜の森に木霊した。もうすぐ真夜中を迎える森から、月の光が消えた。厚い雲が覆い隠したのだ。
その直後、〈ソーラーレイ〉の発動途中だったイロアスの魔力が暴発した。
ドンッ!
暗くなった森が真昼のように輝いた。
爆風が木々を吹き飛ばし、イロアスの防御壁も破壊した。巨大な球と化した魔力が再度爆発し、光の粒子となって霧散した。
「うぅ、イロアスさま……」
奇跡的にも生き延びたマーラは石壁から身を出す。
そこから見えたのは、何もなくなった大地と、煙を上げる黒い物体だった。
爆心地の地面は深く抉れて土が無くなり、その下の石の地面もひび割れて熱のせいか仄かに赤くなっていた。
前に佇む巨人を見やる。もう辺りは暗くなってきたので、ヤツの紅い眼光だけが異様に輝いていた。
もうすぐ〈暗視〉が必要だな。
「どうやって倒したっけ、あいつ。うなじでも切れば倒せるかな?」
はい、冗談はおいといて。
確か、どっかの核を潰した気がするんだが……あれ?こいつ核なくね?
〈原初の魔力〉でくまなく探すが、見当たらない。
探していると、不意にヘルジャイアントの右腕が動く。
「っつ、あっぶねぇな。」
巨人の重い一撃をバックステップで躱すと、再度相手を見やる。
コイツの怖いところは、何も声を発しないところだ。なぜなら、口がないから。
静かな攻撃だが、一度でも当たると全身の骨が粉砕する。腕だけに当たったとしても、その腕を伝って全身に衝撃が響くため、どちみち全身の骨が折れる。
つまり、全ての攻撃を避けなければいけない。1回なら当たっても大丈夫という考えは捨てた方がいい。
「やっぱ俺の人生ハードモードだな。」
自嘲気味にイロアスは笑うと、レールガンを取り出そうとして……
「……」
「あぁぁぁぁぁぁ!ない、ないじゃん。ないよ…剣ないよ…銃ないよ…」
そう、両方ともフィリナスに預けて来てしまったのだ。今残っている武器は、ファルシオンだけ。あとは自身の魔法で補うしかない。
「ハードモードどころじゃねえな。」
ドゴンッと音が響き、巨大な棍棒みたいな腕が降ってくる。
それを横に跳んでよけるが、衝撃によって飛んできた岩が頭をかすめる。
「クソッ」
火力のある炎系統は使えない。辺りが森だから大火事になって、俺が町を滅ぼしかねないから。雷も乱用は控えた方が良いか。
「〈トルネード〉×3!」
中級の風属性魔法を放つ。いくら中級といえども、3つも合わさると上級に勝るとも劣らない威力になり、木々を凪ぎ、地を抉る。しかし、巨人には微細なダメージしか入らない。
「〈ウインド〉!」
叩きつけられた巨大な腕を避けるために、自身に風魔法を放つ。
さっきとは違って、抉れた地面や岩石が飛んでくる範囲よりも遠く逃げられたが……
痛い。威力を少し間違えた。
『電雷よ、降雨と成りて敵を貫け。』
「〈スパーキングスコール〉!」
イロアスのオリジナル魔法、その名の通り雷の雨。
雷を纏った雨が敵に降り落ちる。イロアスはデスリーパーからゲットしたコートのおかげで自爆はまぬがれている。
「……」
ヘルジャイアントが少し呻いたように感じた。実際は何も発していないし、表情も変わらないのだが、それでもこの攻撃は効いている。
だが……
これは決定打にならない。本来なら炎属性魔法の高火力魔法でLAを決めるバトルスタイルなのだが、今はそれができない厳しい状況だった。
「っつ。」
横薙ぎに迫る右腕をバックステップで避けようとするが、ヘルジャイアントとの距離が近かったため上に跳躍して避ける。
イロアスが宙にいる瞬間を狙ってか、今度は左腕が振り下ろされた。
避けられっ
「ガァァァァ。」
バキバキと簡単に骨が折れる音が脳に響いた。
しかし、痛いと思う暇もなく、今度は地面に思いっきり叩きつけられる。
「ぅご…」
叩きつけられたイロアスは、見るも無残な状態だった。クレーターの中心には血の海ができていて、その中央に肉塊が落ちていた。衝撃のせいか、身体は複数個の肉塊へと化していた。
(ぅがぁ…〈超回復〉)
朦朧とする意識の中、生き延びるためのスキルを発動させる。ここまで死にかけたのは、久しぶりだった。しかし、走馬灯というのはやっぱり見えないらしい。俺が刺されたときも、今もだいぶ生死をさまよったはずなのに何も見ることはなかった。
「あー、血が足りない。」
〈超回復〉でも回復が追いつかなかったのか、損傷の激しかった左腕の肘から先は、まだ赤黒い棒のようになっている。しかも、〈超回復〉では血まで回復されないため、足元の血の海分の血はまだ治っていない。つまり、今は超貧血状態となっていた。
「状態異常の貧血が出てるし。」
めまいと立ちくらみが酷い。この状態異常は頭痛と気持ち悪さも合わせ持っている。他の状態異常とはまた違って、貧血に対応した耐性スキルがないのでだいぶ厄介だ。
「~~」
遠くで喧騒が聞こえる。どうやら、集まっていた魔物が暴れだしたらしい。
まずいな。集まっていた魔物の方もどうにかしないと。いや、そっちのほうが優先順位は高いか。
幸い、ヘルジャイアントは足が遅い。俺があっちに行ってすぐに殲滅してすぐ戻れば間に合うはず。多少開けた場所なら、炎属性魔法を使ってもいいだろう。
「〈アクセル〉〈ブースト〉×2〈アックス〉×2」
ヘルジャイアントに背を向けると、すぐに地面から跳びたった。
それを見たヘルジャイアントは標的の後を追うべく動きだした。いくら足が遅いと言っても、身長に比例して足が長いので、一般人のダッシュよりも早いスピードだ。
「〈シェイド〉!」
十分に高度が出たので、滑空用の翼を展開する。飛びながら風属性魔法で気流を生み出しているので、ヘルジャイアントの何倍ものスピードが出た。
(見えた!)
視界の先に魔物を捉える。だが、さっきの滑空とは違って高い場所からスタートしていなかったため、高度が足りなかった。
これじゃあ、届かないか。だったら……
「〈ウインド〉×3!」
自身に風魔法を放ち、追い風を自分で作りだす。
痛ってぇ。ほとんど自爆行為じゃねぇか。まぁ、その代償に目的地についたから良いか。
「辺りに人は……いないか?」
離れたところから弓や魔法で攻撃しているらしい。攻撃隊はバリケードの作成に尽力していた。
『煉獄の炎で焦土と化せ』
「〈ヘルフレアグラウンド〉!」
イロアスのオリジナル魔法、正式名称は闇炎複合属性広範囲域殲滅魔法 ヘルフレアグラウンド。闇の炎という闇属性と火属性が詰め込まれた、いかにもイロアスっぽい魔法である。
いきなり地面にヒビが入ったと思ったら、そこから黒い炎が湧き上がる。このイロアスの魔法で、魔物の90%以上が炭となった。
「な、なんだあれは!?」「誰がやったんだ?あんなの、災害級魔法じゃないか。」
「今だ!魔物たちが怯んだ今が好機!全員突撃!」
どっかの指揮官により、冒険者たちが魔物を倒していく。イロアスの魔法でほぼ事は終わっていたため、あとは彼らに任せても大丈夫だろう。
「俺は、あいつをやるか。」
〈クレヤボンス〉を使わなくてもぎりぎり見える位置まで来ているヘルジャイアントのところへすぐに戻った。
…
「〈暗視〉」
もう夜なので、便利なこのスキルを発動させた。常人と比べると、イロアスは夜目が効くほうだが、それでもこのスキルがあるのと無いのでは、だいぶ大きく変わってくる。
きちんと準備が整ったら、再度ヘルジャイアントの元に向かった。
「〈オメガスタン〉×5!」」
なかなか強い方の魔法だと思うんだが、あいつには通用しないな。さすがボスと言うべきか。
麻痺魔法〈スタン〉の広範囲に強力な麻痺効果を与えれられる〈オメガスタン〉は、たいていの敵なら麻痺となって数秒間動けなくなり、弱い魔物や一般人などは死んでしまうことが多い。
しかし、ヘルジャイアントには麻痺効果は付与されず、ダメージも微々たるものだ。これがLvの違いなのだろう。
「……」
鬱蒼とした森の中、両者は静かに距離をとり、お互いの出どころを掴もうと見つめ合っていた。
「あれを……やるか。」
だが、発動できるか分からないが、このままでは有効打が無い。
『黄道のように円を描くは、光輪の如く。』
『放たれるは宇宙からの熱光。』
早口に2節を唱えると、ヘルジャイアントからの攻撃を避けるべく、俊敏に動き出した。
対してヘルジャイアントは、相手が攻撃をしてこないのを好機とみて、連撃を繰り出す。
『紅き太陽が焼き焦がす。』
20基の魔法陣が完成し、全基がヘルジャイアントの方に向く。ヘルジャイアントの巨大な図体に対応して、〈ソーラーレイ〉の魔法陣も大量の魔力を消費して、直径3mくらいのものになっていた。
しかし、ヘルジャイアントもただ相手の魔法が完成するのを待っていたわけではない。相手が避けることしかできないのを察したため、執拗に攻撃を繰り返していた。あの巨人に魔法を阻止しようとする意思があったのかは分からないが、もしイロアスの詠唱が途中で中断したとなると、魔法が暴発して2人とも死ぬ運命にある。さらには、巻き添えで町が消し飛ぶかもしれない。
(〈ウインド〉!)
魔法を詠唱中に、無詠唱で他の魔法を発動させる。これはイロアスの脳に多大なダメージが入り、魔力も無駄に多く消費するので、詠唱中に命を守るためにしか使われない。つまり、今イロアスは命の危機に瀕しているということだ。そして、一度でも攻撃を喰らえば、今度こそ確実に死に至る。
極限の集中力でイロアスはヘルジャイアントの攻撃を避けていた。
穿て。
「〈ソーラーレイ〉!」
20基の魔法陣から太陽光線が発射される。魔法陣の大きさに比例して、光線の大きさも従来の〈ソーラーレイ〉では考えられないほど巨大だった。まぁ、〈ソーラーレイ〉自体がイロアスのオリジナル魔法なので、一般人が発動した場合はもっと小さくなるだろうが。
「…」
やはり膨大な魔力を消費するこの魔法は、ヘルジャイアントにも大ダメージを与えたようだ。
光線が通ったところはきれいな穴が空き、2本以上が重なったところは貫通している。赤黒い血が湧き出るように流れ、イロアスと同じように血の海を作り出した。
だが、核がないこいつに止めを刺せるだろうか。………まぁ、別に核が無かったって、肉体がなくなれば死ぬか。 それまで〈ソーラーレイ〉並の魔法を撃たなければいけなくなる。そうなると……デスリーパーとかゴーレム・デストロイヤーのときよりも苦戦するんじゃね?
「〈シェイド〉!」
傷ついた穴を狙おうと、闇が伸びていく。しかし、それが傷にたどり着く前にヘルジャイアントはその闇を掴むと、引きちぎった。
「なっ!」
魔力で出来た闇を掴んだだと!モンスターはとんでもないやつばかりだな。
しかし、魔力残量が心許ない。早めに畳み掛けないと。
「〈サイクロン〉×3!」
風属性魔法による擬似台風が、木々を薙ぎ倒して巨人を飲み込む。
2つの台風が歯車のように回っているため、お互いがお互いの威力を強化し合う形となっている。そのため、その2つに挟まれたヘルジャイアントは身動きが自由にとれずにいた。
今しかないっ!
『黄道のように円を描くは、光輪の如く。』
『放たれるは… 「危ないですっっ!」
聞いたことのある、高い声がした。その声で詠唱から少し意識を離したイロアスは……ふと顔を上げた。
気がつくと、目の前にヘルジャイアントの腕が伸びていた。
「っつ」
油断してた。サイクロンから抜け出すには時間がかかると思っていた。
今から完全には避けられない。
イロアスは冷たい汗が湧き出るのを感じていた。
「〈ウォール〉×20!!」
多重術式を限界近くまで発動させ、声のした方向に巨大な防御壁を作り出す。小高い丘となっていたその場に少女がいたのをイロアスは確認した。
「〈ウインド〉×4!」
そこで一度イロアスの意識は途切れた。ヘルジャイアントの攻撃がかすめて、骨が折れるあの感触がした気がするが定かではない。
「イロアス様ーーー!」
マーラの声が夜の森に木霊した。もうすぐ真夜中を迎える森から、月の光が消えた。厚い雲が覆い隠したのだ。
その直後、〈ソーラーレイ〉の発動途中だったイロアスの魔力が暴発した。
ドンッ!
暗くなった森が真昼のように輝いた。
爆風が木々を吹き飛ばし、イロアスの防御壁も破壊した。巨大な球と化した魔力が再度爆発し、光の粒子となって霧散した。
「うぅ、イロアスさま……」
奇跡的にも生き延びたマーラは石壁から身を出す。
そこから見えたのは、何もなくなった大地と、煙を上げる黒い物体だった。
爆心地の地面は深く抉れて土が無くなり、その下の石の地面もひび割れて熱のせいか仄かに赤くなっていた。
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