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第一部 戸惑う時期は誰にでもある

一章 みっちゃんが教えてくれたのは

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「幽霊?」
華美は眉を潜ませる。
「そう、幽霊。」
みっちゃんは五歳くらいの外見なのに、大人びていた。
何でも、二十年くらい前に交通事故で死んじゃったらしい。
「貴女は居眠り運転?私は信号無視よ。あそこ、治安悪いわね。この間も男の子がひかれそうになってたわ」
みっちゃんは色んなことを教えてくれた。
①まず、私たちは幽霊と言うこと。
②今は葬式から一ヶ月ほど経っていると言うこと
③幽霊になったのは何かこの世に心残りがあると言うこと
大体、このことが大事だった。
みっちゃんは幽霊になったけれど、何十年も前の話だから心残りなんて忘れちゃったらしい。
「良いの?天国に行かなくて」
「別に、行ったって良いことないでしょ?まだ死んでる人なんて周りにいないし。お祖父ちゃんとかならいるかもだけど、持病とかだったかな?死んじゃってたから会ったことないのよ」
「ふ~ん」
「貴女も早く済ませた方が良いんじゃない?じゃないと、私みたいに忘れちゃうわよ」
ケラケラと笑いながらみっちゃんは言った。
「心残りかぁ…何があるかな」
「喧嘩とかは?」
「別にしてない。朝、お母さんとしたかもだけどあれはいつも通りだし」
ちょっと考えて、答える。
あれは喧嘩とはいわないし、大体それまででもしていない。
「じゃあ、謝りたいことは?」
「ないなぁ…」
「恋?」
「鯉?生き物?」
「そっちじゃない方の恋!」
みっちゃんは五歳児らしく声を荒げた。
「ああ……あるかも!」
「ホント!何々?」
やはり女と言うものは恋バナが好きらしい。寄ってきた。
「初恋の相手で、ずっと想ってたの」
「ふんふん!それで?名前は?どんな人?関係は?」
興奮しているのか、さっきは白かった頬が赤い。
「えーっと、斎藤夏樹って言って、勉強は普通だけどスポーツマン、かな。幼馴染みなの」
「え?ってことは、貴女と走ってたあの人?」
「え、見てたの。多分、その人」
「じゃあ、青いジャージ着てる?」
「そのときは着てなかったな~」
「えーっ!じゃあ、サッカーのマークの帽子!」
「あ、それ!多分それ!」
いつも被っている帽子の柄。
それだ。
「肌は小麦色よね?」
「うん、そう!足の筋肉、スッゴく硬くって!」
「触ったの?」
「うん。大会でこの間二位になったから」
「スゴいじゃない!あ、でも死んじゃったしねぇ」
ちょっとすまなそうにみっちゃんは眉を下げた。
「良いって、別に!ところで、私たちの他にいないの?幽霊」
「いるけど、ここら辺はいないわよ。心残りって最期にふっと消えたりするもの」
「へえ。じゃあ、みっちゃんはずっと一人?」
「前まで一人いたけど、心残りを果たすまでって手伝ってて、もう逝っちゃった」
「寂しくないの?」
華美は聞いてみた。
五歳の頃からなら寂しくないかもしれないが、みっちゃんの瞳には寂しさが写っている。
みんないる。
でも、話せないし目を合わせれないし。
「寂しかった頃もあったけどね、今はたまに。でも、華美が来てくれて楽になったわ」
「…ありがと!」
「何が?」
「そう言ってくれたのが、嬉しいの」
「…何だか、くすぐったいわね」
「照れるって感覚でしょ」
「知ってるわよ!」
みっちゃんの頬は少し赤かった。
「じゃあ、何したら良いのかなぁ」
「どうして?」
「この状態で、愛を伝えるとか…映画みたいだけど、どうやってやるの?物とか触れないでしょ」
「大丈夫」
みっちゃんは何かを企むような微笑みを浮かべた。
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