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鞍馬の神修

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観月祭が終わってから、学校内はどことなくピンク色と紫色のオーラが漂っている。もちろんピンクは幸せオーラ、紫はその幸せを妬むオーラだ。

学内では観月祭の後カップルが急増した。例の伝説にあやかってたくさんの学生たちが好きな人に想いを告げたからだ。

そして噂好きの学生たちによって、観月祭の翌日には付き合ったカップルのほとんどが全学生に認知されることとなっお。

一番騒ぎになったのは聖仁さんと瑞祥さんのカップルだけれど、それ以上に私たちの間で盛り上がったカップルがひとつある。それは────。


「あれ? 泰紀、今日は寝坊してねぇじゃん! さては彼女のモーニングコールで起きたか!?」

「まだ付き合い始めて一週間だよ。熱々なんだからモーニングコールくらいするでしょ」

「青春だねぇ。眩しすぎて俺目開かないや」


泰紀くんが答えるよりも先に皆が一斉にからかう。


「うるせぇよ! そもそも恵理えりだって学校あんだから、そんなにしょっちゅう電話なんてしねぇし!」


あらやだ聞きました?聞きましたわよ、恵理ですって恵理。やぁね呼び捨てなんかにしちゃって。

井戸端会議しているおばさん達のように口元に手を当ててお互いの肩を叩き合う皆に、苦笑いをうかべた。

それやめろよ!と泰紀くんがみんなに飛び掛る。椅子や机がドンガラガッシャンと倒れてもう大騒ぎだ。

ポッケに入れていたスマホがブルブルと震えて、トークアプリにメッセージが届いた通知が来た。画面をたちあげると送り主は親友だった。

【朝から泰紀くんと電話しちゃった♡ 寝起きの声やばいぃぃ~。話聞いて欲しいから寝る前電話していい!? ていうか電話するから時間あけて! どうかこの私に惚気させてくれ~ッ!!】

ハイテンションなメッセージに、必死に隠そうとした泰紀くんの努力は水の泡となる。これ以上いじられるのは可哀想なので、このメッセージはクラスメイトの皆には秘密だ。


私の親友恵理ちゃんとクラスメイト泰紀くんも、観月祭の夜に付き合ったカップルのひと組だ。

学校が違うふたりは観月祭の日の夜、泰紀くんからの提案で電話をしていたらしい。泰紀くんの部屋はバルコニーから観月祭の会場が見えたそうで、ビデオ通話をしながら二人で奉納演舞を眺めたそうな。

そして最後に泰紀くんから「あの返事、今してもいい?」と突然話題を振られて「好きです。付き合ってください」という返事があり、お付き合いに至ったのだとか。

もちろん泰紀くんがここまで事細かに教えてくれる訳もなく、全て恵理ちゃんからの惚気メッセージで知った。

とにかく恵理ちゃんとお付き合いが始まった泰紀くんは、クラスメイトたちから格好の餌食にされている。公開告白だけでもあんなに大騒ぎになったんだから仕方ない。

けれど心の底ではちゃんと祝福しているようで、慶賀くんに至っては親友をとられてたまに少し寂しそうだった。


二学期と言えばあと二つほど大きなイベントが残っている。ひとつは学期末に行われる奉納祭だ。神楽部では去年できなかった八岐大蛇伝説の練習が再開している。

そしてもうひとつは。


「なぁなぁくゆるセンセー」


三時間目の詞表現演習の小テスト中、そうそうに解くことを諦めた慶賀くんが黒板にもたれる薫先生を呼んだ。

薫先生は「ん?」と顔を上げた。


「鞍馬の神修っていつ行くんだ? 観月祭が終わって結構経ったのに、なんの話も聞かねぇんだけど!」


薫先生は少し呆れたように息を吐く。


「慶賀、テスト解き終わったの?」

「まだ!」

「先にそっちやろうね」


慶賀くんはちぇー、と不満気な顔をして渋々シャーペンを持った。

確かに二学期が始まってからもうひと月以上経っているのに、異文化交流学習の話がどこからも聞こえてこないのは少し妙だ。

数年ぶりに開催となった異文化交流学習は、京都鞍馬にある神役修霊高等学校しんえきしゅうれいこうとうがっこうとお互いの学生をお互いの学校へ派遣して異なる文化を学ぶ目的で開催される。一学期は鞍馬の神修の中等部と高等部の学生が約二ヶ月間私たちの学校で一緒に勉強した。

二学期は私たちが鞍馬の神修へ行く番だと聞いていたが、私達も二ヶ月間滞在するならそろそろ話が出てきてもおかしくないんだけれど。


「はーい、テスト終わりね。日直さん回収して」


はい、と答えて立ち上がりみんなの答案用紙を集めて薫先生に差し出した。丁度授業の終わりを知らせる鐘が鳴り響く。


「じゃあ次は演習場だから、着替えて集合しといてね。ああそれと、さっきの質問についてだけど」


答案用紙をとんとんとまとめた薫先生は私たちの顔を見回した。


「残念ながら異文化交流学習は中止。鞍馬の神修には行かないことになったから」


皆理解するのにしばらく時間がかかったのか、目を瞬かせて薫先生を見上げる。

異文化交流学習は中止、鞍馬の神修には行かない……。


次の瞬間、皆の「ええーッ!」と嘆く声が教室中に響き渡った。



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