159 / 237
異文化理解学習
肆
しおりを挟む「────うん、分かった。部活のことは気にせず、しっかり研鑽しておいで」
「にしても巫寿が授力持ちだったなんてなぁ」
その日の放課後、神楽部の練習が始まる少し前に聖仁さんと瑞祥さんに声をかけた。
誉さんとの授力の練習が始まると部活にもあまり顔を出せなくなるので先に二人には伝えておくことにしたのだ。
「今までお伝えせずすみません」
「いやいや、授力の話は結構タブーだからね。気にしないで。でもそうか、なるほど」
顎に手を当てた聖仁さんがそう呟く。
なるほど……?
「聖仁? なるほどって何だよ」
「ん、いや何でもないよ、こっちの話。さ、そろそろ戻ろうか。練習始めよう」
「だな! 今日から新メンバーも加わるし!」
新メンバー?
首を傾げながら練習室の中へ入る二人に続いた。
練習が始まって一時間くらい過ぎた頃、神楽部顧問の富宇先生と一緒に数人の女の子が練習室へやってきた。
見慣れない顔だった。
「皆さん、ちょっと集まってちょうだい」
富宇先生のそんな声に聖仁さんが「集合!」と声をかける。先生の周りに集まった皆は興味津々に来訪者を見た。
「もうご存知かとは思うけれど、鞍馬の神修から中等部と高等部の学生さんが来てくれているわよね。交流期間中は部活動にも自由参加できるから、向こうの神楽部の部員に練習に参加してもらうことにしました」
わぁ、と拍手があがる。
富宇先生の隣に並んだ数人の女の子たちが頭を下げた。
「それじゃあ一言ずつ簡単に挨拶してくれる?」という富宇先生の提案で、自己紹介が始まる。
鞍馬の神修にも神楽部があるんだなぁなんて思いながら聞いていると、やけに視線を感じる気がして首をめぐらせる。
前に並ぶ女の子たちの一番端に立っていた女の子とばっちり目が合った。長い黒髪が綺麗な、少し勝気な端正な顔立ちをした女の子だ。
視線が絡んでも目をそらすことなくじっと私を見ている。というか睨んでいるようにさえ思えてきた。
気まずくて私が目をそらす。
どうしてあんなに私のことをガン見してるんだろ……。
自己紹介の順番がその女の子に回ってきた。
一歩前に出て綺麗な所作で頭を下げた女の子に、何人かの男子がぽっと頬を赤くする。そんな男子たちに部員女子が冷たい視線を送った。
「初めまして。八瀬童子一族の鬼子と申します。中等部三年です。よろしくお願いいたします」
八瀬童子一族!
そうか、鬼市くんが話していた女鬼って彼女のことだったんだ。
自己紹介が終わるとまた皆が拍手を送る。
「当分の間はこのメンバーで練習することになると思うから、お互いにいい所は盗みあって研鑽してちょうだいね」
はーい、と皆が声を揃えた。
「じゃあ部長さん、あとはよろしくね」
「はい富宇先生。……じゃあ皆はさっきの所から続きを! あと30分で部活終わっちゃうし、鞍馬の神修の皆は今日は見学でいいかな?」
こくりと頷いた皆が鏡前に並んで座る。鬼子ちゃんもだ。その間もじっと私を見ていて、見定めるかのような視線が痛い。
「巫寿ちゃん、集中して!」
聖仁さんにそう注意されて、慌てて背筋を伸ばす。
そうだよね、人の事よりまずは自分のこと。目の前のことに集中しなきゃ。
ぺしぺしと頬を叩き鏡の中の自分を見つめた。
結局刺さるような視線を最後まで感じながら練習は終了した。
皆はすぐさま鞍馬の神修の部員たちに話しかけに行く。私もその輪に交じって話を聞きたかったけれど、ゴールデンウィーク前の雰囲気を思い出し気が重くなる。
またタイミングを見計らって、鬼子ちゃんに声をかけてみよう。
そう思って練習室から出ようとしたその時。
「椎名巫寿さんってあなた?」
突然後ろから名前を呼ばれた。
振り向くと鬼子ちゃんが真っ直ぐと私を見据えて立っている。あまりの眼力に一瞬たじろぐ。
「あ、えっと……私が椎名巫寿です」
「そうですか」
鬼子ちゃんが分かりやすく私を上から下まで見た。
そして無表情から眉間に皺をぎゅっと寄せて私を睨む。
「私、あなたのこと受け入れられません」
一瞬何を言われたのか分からず「へ?」と間抜けな声が出た。それが余計に鬼子ちゃんの癇に障ったらしく眉尻がピクリと動く。
「どうしてあなたみたいな人を鬼市さんは……理解に苦しみますわ」
「えっと、あの……?」
全く話が見えてこない。鬼子ちゃんは何の話をしているんだろう。
「椎名さん」
周りで興味津々にこちらを見ていた皆が、驚愕の表情で息を飲んだ。
神修で苗字を呼ばれることが久しぶりで、一瞬反応に遅れた。「は、はい」と恐る恐る鬼子ちゃんを見る。
「鬼市さんが私との婚約を断ってまで選んだ方だと聞いて、それはそれは優秀な神職候補なんだろうと思っていましたが……こんなに貧相でちんちくりんな人間だったなんてがっかりです。これならそちらの副部長さんの方がまだマシです」
ビシッと瑞祥さんを指さした鬼子ちゃん。水筒を煽っていた瑞祥さんが咳き込みながら「わたしィ!?」と素っ頓狂な声を上げる。
ふん、と鼻を鳴らした鬼子ちゃんにぽかんと口を開けた。
もしかして私、怒涛の勢いで貶されてる……?
「鬼市さんはあなたには相応しくありません。身の程をわきまえてください」
シーン、と静まり返った練習室。驚愕の表情を浮かべる皆と呆気に取られた私。
最終下校を知らせる鐘がゴーンと鳴り響いた。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
あやかし神社へようお参りです。
三坂しほ
キャラ文芸
「もしかしたら、何か力になれるかも知れません」。
遠縁の松野三門からそう書かれた手紙が届き、とある理由でふさぎ込んでいた中学三年生の中堂麻は冬休みを彼の元で過ごすことに決める。
三門は「結守さん」と慕われている結守神社の神主で、麻は巫女として神社を手伝うことに。
しかしそこは、月が昇る時刻からは「裏のお社」と呼ばれ、妖たちが参拝に来る神社で……?
妖と人が繰り広げる、心温まる和風ファンタジー。
《他サイトにも掲載しております》
神さまのお家 廃神社の神さまと神使になった俺の復興計画
りんくま
キャラ文芸
家に帰ると、自分の部屋が火事で無くなった。身寄りもなく、一人暮らしをしていた木花 佐久夜(このはな さくや) は、大家に突然の退去を言い渡される。
同情した消防士におにぎり二個渡され、当てもなく彷徨っていると、招き猫の面を被った小さな神さまが現れた。
小さな神さまは、廃神社の神様で、名もなく人々に忘れられた存在だった。
衣食住の住だけは保証してくれると言われ、取り敢えず落ちこぼれの神さまの神使となった佐久夜。
受けた御恩?に報いる為、神さまと一緒に、神社復興を目指します。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
冷たい舌
菱沼あゆ
キャラ文芸
青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。
だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。
潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。
その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。
透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。
それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。
それいけ!クダンちゃん
月芝
キャラ文芸
みんなとはちょっぴり容姿がちがうけど、中身はふつうの女の子。
……な、クダンちゃんの日常は、ちょっと変?
自分も変わってるけど、周囲も微妙にズレており、
そこかしこに不思議が転がっている。
幾多の大戦を経て、滅びと再生をくり返し、さすがに懲りた。
ゆえに一番平和だった時代を模倣して再構築された社会。
そこはユートピアか、はたまたディストピアか。
どこか懐かしい街並み、ゆったりと優しい時間が流れる新世界で暮らす
クダンちゃんの摩訶不思議な日常を描いた、ほんわかコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる