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異文化理解学習

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「────うん、分かった。部活のことは気にせず、しっかり研鑽しておいで」

「にしても巫寿が授力持ちだったなんてなぁ」


その日の放課後、神楽部の練習が始まる少し前に聖仁さんと瑞祥さんに声をかけた。

誉さんとの授力の練習が始まると部活にもあまり顔を出せなくなるので先に二人には伝えておくことにしたのだ。


「今までお伝えせずすみません」

「いやいや、授力の話は結構タブーだからね。気にしないで。でもそうか、なるほど」


顎に手を当てた聖仁さんがそう呟く。

なるほど……?


「聖仁? なるほどって何だよ」

「ん、いや何でもないよ、こっちの話。さ、そろそろ戻ろうか。練習始めよう」

「だな! 今日から新メンバーも加わるし!」


新メンバー?

首を傾げながら練習室の中へ入る二人に続いた。


練習が始まって一時間くらい過ぎた頃、神楽部顧問の富宇ふう先生と一緒に数人の女の子が練習室へやってきた。

見慣れない顔だった。


「皆さん、ちょっと集まってちょうだい」


富宇先生のそんな声に聖仁さんが「集合!」と声をかける。先生の周りに集まった皆は興味津々に来訪者を見た。


「もうご存知かとは思うけれど、鞍馬の神修から中等部と高等部の学生さんが来てくれているわよね。交流期間中は部活動にも自由参加できるから、向こうの神楽部の部員に練習に参加してもらうことにしました」


わぁ、と拍手があがる。

富宇先生の隣に並んだ数人の女の子たちが頭を下げた。

「それじゃあ一言ずつ簡単に挨拶してくれる?」という富宇先生の提案で、自己紹介が始まる。

鞍馬の神修にも神楽部があるんだなぁなんて思いながら聞いていると、やけに視線を感じる気がして首をめぐらせる。

前に並ぶ女の子たちの一番端に立っていた女の子とばっちり目が合った。長い黒髪が綺麗な、少し勝気な端正な顔立ちをした女の子だ。

視線が絡んでも目をそらすことなくじっと私を見ている。というか睨んでいるようにさえ思えてきた。

気まずくて私が目をそらす。


どうしてあんなに私のことをガン見してるんだろ……。



自己紹介の順番がその女の子に回ってきた。

一歩前に出て綺麗な所作で頭を下げた女の子に、何人かの男子がぽっと頬を赤くする。そんな男子たちに部員女子が冷たい視線を送った。


「初めまして。八瀬童子一族の鬼子きこと申します。中等部三年です。よろしくお願いいたします」


八瀬童子一族!

そうか、鬼市くんが話していた女鬼って彼女のことだったんだ。

自己紹介が終わるとまた皆が拍手を送る。


「当分の間はこのメンバーで練習することになると思うから、お互いにいい所は盗みあって研鑽してちょうだいね」


はーい、と皆が声を揃えた。


「じゃあ部長さん、あとはよろしくね」

「はい富宇先生。……じゃあ皆はさっきの所から続きを! あと30分で部活終わっちゃうし、鞍馬の神修の皆は今日は見学でいいかな?」


こくりと頷いた皆が鏡前に並んで座る。鬼子ちゃんもだ。その間もじっと私を見ていて、見定めるかのような視線が痛い。


「巫寿ちゃん、集中して!」


聖仁さんにそう注意されて、慌てて背筋を伸ばす。

そうだよね、人の事よりまずは自分のこと。目の前のことに集中しなきゃ。

ぺしぺしと頬を叩き鏡の中の自分を見つめた。



結局刺さるような視線を最後まで感じながら練習は終了した。

皆はすぐさま鞍馬の神修の部員たちに話しかけに行く。私もその輪に交じって話を聞きたかったけれど、ゴールデンウィーク前の雰囲気を思い出し気が重くなる。

またタイミングを見計らって、鬼子ちゃんに声をかけてみよう。

そう思って練習室から出ようとしたその時。


「椎名巫寿さんってあなた?」


突然後ろから名前を呼ばれた。

振り向くと鬼子ちゃんが真っ直ぐと私を見据えて立っている。あまりの眼力に一瞬たじろぐ。


「あ、えっと……私が椎名巫寿です」

「そうですか」


鬼子ちゃんが分かりやすく私を上から下まで見た。

そして無表情から眉間に皺をぎゅっと寄せて私を睨む。


「私、あなたのこと受け入れられません」


一瞬何を言われたのか分からず「へ?」と間抜けな声が出た。それが余計に鬼子ちゃんの癇に障ったらしく眉尻がピクリと動く。


「どうしてあなたみたいな人を鬼市さんは……理解に苦しみますわ」

「えっと、あの……?」


全く話が見えてこない。鬼子ちゃんは何の話をしているんだろう。


椎名しいなさん」


周りで興味津々にこちらを見ていた皆が、驚愕の表情で息を飲んだ。

神修で苗字を呼ばれることが久しぶりで、一瞬反応に遅れた。「は、はい」と恐る恐る鬼子ちゃんを見る。


「鬼市さんが私との婚約を断ってまで選んだ方だと聞いて、それはそれは優秀な神職候補なんだろうと思っていましたが……こんなに貧相でちんちくりんな人間だったなんてがっかりです。これならそちらの副部長さんの方がまだマシです」


ビシッと瑞祥さんを指さした鬼子ちゃん。水筒を煽っていた瑞祥さんが咳き込みながら「わたしィ!?」と素っ頓狂な声を上げる。

ふん、と鼻を鳴らした鬼子ちゃんにぽかんと口を開けた。

もしかして私、怒涛の勢いで貶されてる……?


「鬼市さんはあなたには相応しくありません。身の程をわきまえてください」


シーン、と静まり返った練習室。驚愕の表情を浮かべる皆と呆気に取られた私。

最終下校を知らせる鐘がゴーンと鳴り響いた。



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