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異文化理解学習

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車が学校に到着する頃にはとっぷり日が暮れていた。

とんでもないゴールデンウィーク最終日になり、疲れ果てた皆はとぼとぼと寮の中へ入っていく。

私も重い体を引きずるように寮へ入ると、遅い時間にも関わらず大勢の生徒が玄関にいて騒がしかった。何事かとキョロキョロしながら靴を履き替えていると、奥で嘉正くんたちが話しているのを見つけた。


「あっ! 巫寿が帰ってきたぞ!」


慶賀くんがいち早く私を見つけて声を上げる。皆は大急ぎで駆け寄った来た。


「巫寿ちゃん、大丈夫だったの!?」

「大百足が出たって寮監から聞いたぞ!」


焦った表情の皆になるほどと心の中で呟く。皆も他の生徒も、車に乗っていた友達を心配してここで待っていたんだ。


「ありがとう、心配かけてごめんね。私は大丈夫だよ、あと恵衣くんも」


隣で靴を履き替えていた恵衣くんを振り返る。恵衣くはふん、と鼻を鳴らした。


「大百足はどうなったんだ?」

「あ、それがね。同い年くらいの知らない男の子が息吹法で修祓して……」

「息吹法で修祓!?」


そりゃ驚くよね、と苦笑いを浮べる。私だってこの目で見たことなのに未だ信じがたい。

ゾロゾロとみんなで広間へ向かって歩き出す。何人か見知らぬ顔とすれ違って首を傾げた。


「ねぇねぇ、寮内がいつもと違うような気がするんだけど……」


この時間にたくさんの生徒が起きているのもそうだけど、いつもよりも寮内が混みあっているというか賑やかというか。

やっぱり、と皆はため息をつく。



「巫寿も知らなかったのか?」

「えっ、何を?」


広間の中へ足を踏み入れる。丁度外へ出ようとしていた誰かとぶつかって、よろめいた所を咄嗟に支えられた。


「ごめんなさ────」

「巫寿」


知っている声に名前を呼ばれてハッと顔を上げた。

視線が合って目を丸くした。


鬼市きいちくん……?」


短い黒髪に考えが読み取れない淡々とした表情。

一年生の三学期に神社実習で出会った鬼の妖八瀬童子やせどうじ一族の鬼市くんだ。


「な。すぐに会えると思うって言ったろ」


無表情を若干崩して目を細めた鬼市くん。


「でも、どうして」

「異文化理解学習。三年に一度、そっちの神修とこっちの神修で、生徒をお互いの学校に派遣しあって交流するんだよ」


異文化理解学習、そんな行事があったんだ。でも薫先生、そんな話してたっけ?


「これから数週間、よろしくな」


差し出された手を握る。握ると同時に強く手を引かれて体がつんのめった。

鬼市くんの肩にとんとぶつかる。


「意識してもらえるように、頑張る」


私の耳元で囁くようにそう言った鬼市くん。三秒固まった後、意味を理解しておそらく首まで真っ赤になった。


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