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噂と視線
壱
しおりを挟む一学期が始まってあっという間にひと月が過ぎた。
2年生になったからといって何かが大きく変わるわけでもなく、いつも通り毎日の授業をこなしては放課後は部活に勤しみ、休みの日はクラスメイトたちと社の庭園の池で釣りをしたり誰かの部屋に集まってゲームをしたりして過ごした。
そういえば、変わったことというか増えたことがひとつある。金曜日の夜に女子会が開催されるようになったことだ。
新入生が増えたことで部屋の配置が少し変わって、高等部と中等部三年が同じ階になった。
神楽部で歳も近く仲が良かった盛福ちゃんと玉珠ちゃんはこれまで別の階だったから寮ですれ違う機会は少なかった。けれど今学期から同じ階になって、気軽に集まれるようになった。
だから私たち三人と瑞祥さんを交えた四人で、毎週金曜日の夜にお菓子と布団を持ち寄ってお泊まり会をしている。
「それで陶護先生がさぁ~」
今日の開催部屋は私の部屋だった。
ローテーブルにお菓子を広げて、ガールズトークに花を咲かせる。もちろん女子が集まるとなれば話す話題はもっぱらガールズトークだ。
メインは盛福ちゃんが片思い中の学校医である陶護先生と話で、それがひと段落落ち着くと誰が誰を好きなんて話で盛り上がる。
中学時代までは恵理ちゃんと毎日こんな話をして過ごしていたので、また高校でもそういう風に過ごせて、何よりクラスメイトがみんな男の子なので、女の子の友達とゆっくり話せるのがかなり嬉しい。
「ていうかー、いっっも私ばっかり喋ってますけど、皆は他にないんですか! 巫寿ちゃん以外で!」
盛福ちゃんが唇をとがらせてポテチをつまむ。
「なんで巫寿はいっつも除外されてんだよー、ずるいぞ!」
「私たちの巫寿ちゃんに好きな人なんていません! 巫寿ちゃんはいつまでもピュアピュアなんですぅ」
「ですです」
ピュアピュアって、と苦笑いを浮べる。
不服そうな瑞祥さんがむうっと唇を突き出す。そしてむくりと膝立ちになるとジリジリと私に迫ってきた。
え?と思った次の瞬間、突然飛びついてきた瑞祥さんと共に床に倒れ込む。
「吐け! どうせピュアピュアな巫寿にも好きな男の一人や二人いるんだろ!?」
「ちょっ、瑞祥さん……っ!?」
声にならない声を上げる。悲鳴というか笑い声だ。細い指を器用に動かした瑞祥さんが私の脇腹をくすぐる。
「ヤバい巫寿ちゃんが拷問にかけられてる!」
「いま助けます巫寿さん……!」
完全に瑞祥さんの悪ノリに乗っかった二人も飛び込んできた。きゃーっと誰かが楽しそうな悲鳴をあげる。もう揉みくちゃだ。
数分散々暴れて、瑞祥さんが「だーっ、疲れた!」と大の字になったことで終結を迎える。全員ぐったりと畳の上に転がった。
なんでこんなことに、と遠い目で天井を見つめる。
すると「……ふふふ」と玉珠ちゃんが小さく笑った。「ぷっ、くくく」つられるように盛福ちゃんも肩をふるわせる。
笑いは伝染していき、最後はみんなでお腹を抱えて転げ廻る。
もう本当に、何をしてるんだろう私たちは。
「来週もしましょーね、女子会!」
「おう! 勿論だ!」
「来週こそ巫寿さんに泰慶の魅力を……!」
勘弁してよ、と私が言えば皆がまた笑う。
けれどそんな時間ですらも今は堪らなく楽しかった。
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