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1章 主人への愛が重い侍女は執着系厩番にロックオンされる

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 あら、もしかして総受けであることを馬にも知られてしまったのかしら?
 今日はゼスト様の馬がやけに彼のお尻を嗅いで、鼻先を擦りつけているわ…お馬さんプレイはちょっと邪道…

 …全然いけるわ!
 そうだった、そうだった。私BLならオールジャンルオッケーでした。人外もバッチコーイ。まぁ、リョナとか食べるスカ入ると…違うジャンルじゃない?それはね。
 獣人ケンタウルスに変身したお馬さんに押さえつけられてゼスト様の菊門が無残な形になるぐらい蹂躙されちゃうのも良いわね…

 う、ゼスト様がこっち見たっ…
 妄想に使うのは良いけど、実際はなんか嫌なのよねーあの人…なんていうか凄い私の目を見てくるし…



 今日もお嬢様はマリア様のような微笑みを崩して、屋敷の門の辺りで馬に下半身を嗅がれているゼスト様から目線を離した。
 おいたわしいわ……早くあの痴漢騎士が屋敷から出て行ってくれないかしら…
 あの騎士服の肛門辺りに数滴牝馬の尿をかけてるから、ゼスト様の相棒の牡馬が匂いを確認してるわ。ぷぷぷ。ゼスト様は腰辺りにある馬の頭を撫でて不思議そうにしているけど。それは他の馬でも今日一日中続くわよ。
 ジュノの提案のお陰で私の溜飲も少し下がった。

 ラウラはお嬢様の後ろで少しだけほくそ笑んでいた。



 ゼスト様がトーン家に滞在されるようになって1週間が経ち、屋敷の使用人達もゼスト様の滞在に慣れ始めた。
 ゼスト様は騎士団からお父様と共に家に帰ってきて、たまにトーン子爵が気を利かせてエヴァお嬢様と共に晩餐をする。いつもは不規則な時間に帰ってくることもあって親子でも食事を一緒の時間に取ることもないのに、お客様待遇で子爵はエヴァお嬢様を呼んでくるのだ。
 使用人としては襟を正してお客様のおもてなしをすることに異論はないが、お嬢様はやっぱりあのゼストという騎士にいい感情は持っていないと思う。

 お嬢様がゼスト様に揶揄われて、目を潤ませて赤面している事があり、未婚の淑女がいる屋敷にいくら同僚でもあんな騎士を連れ帰ってきたトーン子爵に対してもラウラは憤っていた。
 あの騎士がこの間お嬢様に「俺の部屋に遊びに来ない?」と言っているのを聞いてラウラは失神するかと思った。
 お嬢様の玉のお肌を触ってくるし、本当に信じられない。

 そんな愚痴を色々知っているジュノに牝馬の尿採取のため厩舎に訪れるたびにラウラは愚痴っていた。

「お嬢様はあの方をどう思っていらっしゃるんだい?」
「ええっ…?」
 聞き上手なジュノがふと、そんなことを聞いてきた。
 思ってもいなかった事を聞かれて、ラウラの少し潔癖気味な性格が災いしてジュノに苛立ちを感じてしまう。

「お、…お嬢様が嫌がっていないんじゃないかって事?そんなの…」
 ラウラは何も答えられない。お嬢様の頭の中は彼女にしか分からない。聞いてみてもいないのに使用人である自分が一人で怒りを持つことは確かに早とちりである。
「戸惑ってはいるだろうけど…」言っていて、尻つぼみになった。

「婚約破棄の事も、ラウラさんは一人で怒っているけど、お嬢様は何か言っていたの?」

「いえ、…でもっ…婚約破棄された時は、悲しそうにしていらして…」

「その後は?」

「何も…いつも通りです」

「そうかぁ…」
 ジュノは腕を組んで、考えているようだ。

 もしかしたら、お嬢様はあの騎士を嫌がっていない?婚約破棄もあまり気にしていらっしゃらない?
 私ったらもしかして一人で暴走していたのかしら?

 うんうん唸って頭を抱えていると、ジュノが私の硬い髪の毛をポンポンと慰めるように撫でた。

 じわり。とラウラは頬が赤くなるのを感じた。

 ジュノの大きな手が私の頭を撫でた。私の硬い毛を…
 自分の嫌いな髪の毛をジュノに触られたことに動揺したのか、それとも何か他の事で心が揺さぶられたのか自分でも分からないが、心の臓がバクバクと早く鼓動するのを感じた。ラウラは初めて感じる感情に焦って、ジュノの顔を見れないまま早口で言葉を発した。

「わっ私、そろそろお嬢様の所に帰らなくちゃ。じゃあね」

「あ…」

 ジュノの名残惜しそうな声がしたが、振り返らずラウラは屋敷へと走った。


 走りながら、今までジュノの前で自分がした事を考えて、ラウラは穴に埋まりたくなった。

 森の中でトリカブトを探して躍起になっているところを見つけられて、代わりにマッシュルームを抱えながら号泣した事。ジュノに告白されたのに断った事。それなのに事情を知っているからと彼に騎士の事を相談したり、色々な事を聞いてもらった事。

 彼はまだ私の事を思ってくれているのだろうか?
 告白を断ったのだから、そんな訳ないじゃない。と思うのに、ジュノが自分にくれる優しい眼差しを思い出すと、胸がキュッとする。あの少し細い目が優しく弧を描いている様を。
 自分の手で頭を触ってみる。
 なにか奇跡が起きて、お嬢様のように触ると気持ちよくなるような触り心地になっていないかしら?
 ゴワリと硬い感触に自分でも笑ってしまう。

 ラウラは虚しい笑みを作りながら、その場に突っ立った。

 私の事をまだ思ってくれているなんて、そんなわけないじゃない。

 馬鹿なラウラ。愛嬌のない眼鏡がついた顔に、硬い茶色の髪、背も低くて、胸もない。

 可愛げもなくジュノの告白を断った女に、誰がまだ好きでいてくれる?

 今頃気付いた鈍い恋心に、ラウラはバカな自分を絞め殺したくなる。


 その後また晩餐の後にエヴァお嬢様に接近する痴漢騎士を止めるのが遅くなり、二人が接触してしまい、ラウラは自室に帰った後、自分で背中に鞭打ちをした。


 ラウラの母は元男爵家の令嬢で、公爵家で侍女として雇われ公爵令嬢のお世話をしていた。母は平民の男性との間に子供を作った。それがラウラだ。両親はあっという間に離婚して、厳しい母の元で侍女としての知識を叩きこまれた。
 母の知識の深さと、センスの良さは今でも破れない壁だが、母は女にしては気が強すぎた。ラウラに鞭打つことも多かった。
 ラウラは母からもらった自分を戒めるための鞭で背中を打った。
 服越しでもピリリと肌が悲鳴を上げる。
 肩から背中へとバシバシと自分の背中を打ち、泣きそうになるまでそれを続けた。
 きっと背中は真っ赤になっているだろう。

 こんな自分は痛みを与えるのがいい。

 グダグダといまさらジュノへ恋慕を寄せて、お嬢様を守ることもできない自分にはなんの価値もないのだから。
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