上 下
18 / 20

第18話 デイジー、弟子を奪い返しにいく①

しおりを挟む
「アレキサンダー!お願い乗せて!」

わたしが声をかけるとアレキサンダーは待ってましたといわんばかりに大木から勢いよく飛び出してきたわ。



「あれ?お姉ちゃんどこ行くの?」

そこへちょうどシャロワとベニマルがやってきたの。手にはアレキサンダーの食事と本日のおやつを持っている。

「あ、今日お客さんいないですね。ひさしぶりにみんなでお茶しませんか?」とベニマルがほがらかにほほ笑む。



「すまん!ふたりとも、ルーファスを奪い返しに行ってくる!今日のところは帰ってくれ!行け!アレキサンダー!」

だけど、わたしの号令はむなしく空に響くだけだったわ。



アレキサンダーはシャロワの手にある食事に吸い寄せられていったから。

「あ、ちょっ!ルーファスが心配じゃないのかっ!?」

「アギャ?」

「ここぞという時にわからないふりするんじゃない!」



「ねえ!お姉ちゃん、どういうこと?」

シャロワが聞く。ベニマルもとなりで心配げな顔をしている。

アレキサンダーはもう完全に羽をたたんでお食事モードだ。

「アレキサンダー!お座り!」シャロワが言うと、アレキサンダーはお行儀よくちょこんと座っちゃったわ。



「お姉ちゃん、話してくれないとアレキサンダーは貸さないよ」

わたしはアレキサンダーの背中からしぶしぶ降りるほかなかったの。





「ルーファスお兄ちゃんがさらわれたってこと!?あの“凶兆のセイフリッド・アームストロング”に!?」

話を聞いたシャロワが驚愕してた。ちなみにこれまでの交流のなかでルーファスが男の子であることを二人は知っていたわ。その時も驚愕していたけど、今回もおなじくらい驚愕してた。



「いや、さらわれたかっていうと微妙なんだけど…」

「でも、脅されてたんでしょ!?」

「まあ、そうね」



「なあ、シャロワ」とベニマル。「凶兆のセイフリッド・アームストロングってなんだ?」

「そんなことも知らないの!?このゼファニヤで暮らすなら、関わりを持っちゃいけない人間の一人よ」



「知らないなあ」牧歌的にベニマルが言う。この子のこういうところ好き。

「有名な話があるわ。社交界でバカな貴族が絡んだのよ。最古の魔法使いのお手並みを拝見したいものですなあって。そしたら、庭を指さして『木の葉でカエルを潰して見せましょう』って言うのよ。でも季節は冬が始まろうとしていてカエルなんているわけないの」

「う、うん」

途端に怪談じみた雰囲気を感じるわ…。わたし、怖いの苦手なのよね。



「貴族が『いもしないカエルを潰して見せるとは、さすがは最古の魔法使い。禅問答ですかな?』と言って笑いものにしたの。それがその貴族の最後の言葉よ。セイフリッドは貴族をカエルにしてしまったの。カエルになった貴族は必死に逃げたわ。それを楽しそうに木の葉をゆらめかせて追い回して、結局潰してしまったの」

「…貴族はどうなったの?」

「当然死んだわ。しかも死んでもカエルのままという不名誉な形でね」

「そんなの周りが黙ってないんじゃないか?」

シャロワはベニマルの問いに首を振った。



「最古の魔法使いの一人よ。結局その貴族の死体自体は出ていないし、だれも罪には問えなかったわ」

「…なるほど。それは関わっちゃいけないね」

「そうよ!なんせちょっと魔法を見せてくれっていうだけで無惨に殺されちゃうんだから!この話で一番恐ろしいのはそこよ!わたしたちとは倫理観ずいぶんちがうのよ!」



わたしは客の貴婦人が『“凶兆のセイフリッド・アームストロング”を見ちゃった。今日は速く帰らなきゃ!』と言っていた理由がよくわかったわ。



「よし!じゃあ、はやくルーファスお兄ちゃんを助けに行きましょ!アレキサンダー!いつまで食べてるの!はやく飲みなさい!」

「ちょ!?ちょちょちょちょっと待ったー!」

「え?なに?」

わたしの叫びにシャロワは怪訝な顔をする。ベニマルもだったわ。



「いやいや、話の流れおかしいでしょ!?関わっちゃいけないんでしょ?帰りなさいよ」

「やだ」

「やだって…」

「わたしは貴族よ。友人が関わっちゃいけない人に関わろうとしているなら、身を挺してでも助けるものよ。そのくらいの矜持、幼くても持っています」



毅然として言われてしまったの。そしてさっさとアレキサンダーの背中に乗り込んでしまう。

ポカンとしているわたしにベニマルが言ったものよ。

「まあ、いざとなったらボクが守りますから」



「…なんかずいぶんうれしそうじゃん」とわたしが言うと「はは、やっぱボクのご主人様はカッコいいなって思いまして。惚れ直しました」とベニマルはのろけた。

「は、はあ!?なにバカなこと言ってるの!?」とシャロワが慌てる。「しかも、お姉ちゃんに向かって…!」

「直接言ったほうが良かったか?」とベニマルは余裕の笑みでシャロワの隣に乗り込んだの。

「は、はあ!?バッカじゃないの!?」



「あー、ハイハイ」

このままでは痴話げんかに見せかけたイチャイチャが始まってしまうわ。いや、もう始まってるか。いつもならじっくり鑑賞させてもらうのだけど、今日は時間がないの。



わたしはアレキサンダーの背中に飛び乗った。肩にはもちろんクロをのせている。クロの瞳は心なしかいつもより好奇心に満ちていたわ。本当にコイツはこういうところあるわね…。まったく、しょうがないやつ。



「じゃあ、一緒にルーファスを奪い返しに行きましょう!」

わたしの口元にも知らず、昂揚した笑みがこぼれていたわ。だって、討ち入り前はドキドキするものでしょ?



行き先は魔法学園〈ユグドラシル〉。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります

ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□ すみません…風邪ひきました… 無理です… お休みさせてください… 異世界大好きおばあちゃん。 死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。 すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。 転生者は全部で10人。 異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。 神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー! ※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。  実在するものをちょっと変えてるだけです。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

婚約していないのに婚約破棄された私のその後

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「アドリエンヌ・カントルーブ伯爵令嬢! 突然ですまないが、婚約を解消していただきたい! 何故なら俺は……男が好きなんだぁああああああ‼」  ルヴェシウス侯爵家のパーティーで、アドリーヌ・カンブリーヴ伯爵令嬢は、突然別人の名前で婚約破棄を宣言され、とんでもないカミングアウトをされた。  勘違いで婚約破棄を宣言してきたのは、ルヴェシウス侯爵家の嫡男フェヴァン。  そのあと、フェヴァンとルヴェシウス侯爵夫妻から丁重に詫びを受けてその日は家に帰ったものの、どうやら、パーティーでの婚約破棄騒動は瞬く間に社交界の噂になってしまったらしい。  一夜明けて、アドリーヌには「男に負けた伯爵令嬢」というとんでもない異名がくっついていた。  頭を抱えるものの、平平凡凡な伯爵家の次女に良縁が来るはずもなく……。  このままだったら嫁かず後家か修道女か、はたまた年の離れた男寡の後妻に収まるのが関の山だろうと諦めていたので、噂が鎮まるまで領地でのんびりと暮らそうかと荷物をまとめていたら、数日後、婚約破棄宣言をしてくれた元凶フェヴァンがやった来た。  そして「結婚してください」とプロポーズ。どうやら彼は、アドリーヌにおかしな噂が経ってしまったことへの責任を感じており、本当の婚約者との婚約破棄がまとまった直後にアドリーヌの元にやって来たらしい。 「わたし、責任と結婚はしません」  アドリーヌはきっぱりと断るも、フェヴァンは諦めてくれなくて……。  

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

薪割りむすめと氷霜の狩人~夫婦で最強の魔法具職人目指します~

寺音
ファンタジー
狐系クール女子×くまさん系おおらか男子。 「旦那が狩って嫁が割る」 これは二人が最高の温かさを作る物語。 分厚い雪と氷に閉ざされた都市国家シャトゥカナル。極寒の地で人々の生活を支えているのが、魔物と呼ばれる異形たちの毛皮や牙、爪などから作られる魔法具である。魔物を狩り、魔法具を作るものたちは「職人」と呼ばれ、都市の外で村を作り生活していた。 シャトゥカナルに住む女性ライサは、体の弱い従妹の身代わりに職人たちが住む村スノダールへ嫁ぐよう命じられる。野蛮な人々の住む村として知られていたスノダール。決死の覚悟で嫁いだ彼女を待っていたのは……思わぬ歓待とのほほん素朴な旦那様だった。 こちらはカクヨムでも公開しております。 表紙イラストは、羽鳥さま(@Hatori_kakuyomu)に描いていただきました。

処理中です...