上 下
6 / 20

第6話 デイジー、美少年に遭う

しおりを挟む
美少女改め、美少年の名前を聞いて、わたしは驚愕したわ。クロでさえ目をまるくしてたもの。



「る、る、る」

「?」

ルーファスはわたしの挙動不審な様子に小首をかしげたわ。

小首をかしげた時にサラサラって髪の毛が流れるのさえ美しいと思ったわ。

…いけない!



「ル…、ルーファスくんっていうのか~!かっこいい名前だね~!」

わたしは全力で面の皮を厚くしたわ。



ルーファス・カレイドス。大賢者。氷帝。エンドタイム(終わりの時間)。氷の悪魔。怪物。二つ名は数あれど、とにもかくにもわたしを5000回は殺している人物だ。



恨みがないといえばウソになる。痛かったし。

絶対勝ってやると闘志を燃やしたこともあったわ。

その憎き相手の子供時代が、今目の前にいるこの美少年だっていうの!?



…言われてみれば、ルーファスって美形だったかも。もうそんなことは超越していたから気にしていなかったけど。

いや、まだそうと決まったわけじゃない!たまたま名前がおなじ可能性だって捨てきれない!

わたしは一縷の望みをかけて聞いたわ。



「…もしかしてだけど、魔法学園とか通ってる?」

「あ、はい。ユグドラシルに通ってます」

「う、そうか…。おなじ名前の人とかいる?」

「どうでしょう?ルーファスくらいならいるかも。人数多いからわからないけど」

「フルネームで一緒の人は?」

「う~ん、たぶんいないんじゃないでしょうか。なんでですか?」

「い、いや、聞いただけだよ。ちなみに何歳?」

「10歳です!デイジーさんはおいくつですか?」

「じゅ、10歳…」

「へぇ!おない年なんですね!すごいなあ、10歳で店を構えているだなんて!」

「あ、ありがとう…」

確定だわ…。



兄のジェイソンとおなじユグドラシル魔法学園に通っている10歳のルーファス・カレイドス君は、のちの大賢者ルーファス・カレイドスしかいない。

クロが心中お察しするというかのように、頭に肉球を置いてくれたわ。



「あの…」

ルーファスがモジモジとしている。よく見ると頬もほんのりと紅い。なんか甘そうだ。食べちゃいたくなる。



「いやぁ、ルーファス君はホントに美少年だねぇ…」

思わず心の声が漏れていたわ。



美少年の力はとてつもない。自分を5000回殺した男になるとわかっていても、抗いがたい美を感じてしまうものね。なんというか、青い果実ほど美味しく見えてしまうというやつだわ。



「え、あ、ありがとうございますぅ…」

ルーファス君はなぜか頭から湯気でもでそうな勢いで真っ赤になったの。

「100点!!」

わたしもつい勢いで100点をあげてしまったわ。



「ばかじゃないの?」

クロが冷ややかに頭に置いた肉球から爪をだしたわ。血抜きでもして落ち着けということかもしれないわね。



「はは、さっきから肩に乗っているのは精霊ですか?」

「え?」

「すごいですね。魔法使いには精霊がつく稀有な例があると聞いたことがありますが、実物を見たのは初めてです」

「えっ!?クロのこと見えるの!?」

「クロさんっていうんですか?たしかに黒いですよね。まるくて、おでこに宝石がついてて。ぼんやりと見えたり見えなかったりなんですけど、見えますよ。あと、たまにしゃべりますよね。それも聞こえたり、聞こえなかったりですけど…」



わたしは驚愕してクロと目を見合わせたわ。

「おいおい、こいつマジか」とクロ。

「こんなのはじめてじゃない?」

「おう」

「前から見えてたのかな?」

「そんな素振りはなかったがな」

「てゆーか、クロって精霊だったの?」

「オレも初めて知った」



「あの…そろそろ」

「え?」

ルーファスは手を見ていたの。

つながれた手を。

わたしとルーファスはずっと握手していたのね。



「あ、ごめ~ん」

「いいえ…」

ルーファスは緊張から解放されたかのようにホッと息をついたわ。



…なんだろう、はっきり言って、このルーファスチョロそう。

わたしはゴクリと生唾を飲んだの。

今なら、今回ならルーファスに勝てるかもしれない。

5000回も殺され、一度も勝てなかった相手に。

5000回も殺されているのなら、1回くらい殺してもいいはずよね?

わたしはまるで自動的に前かがみになったわ。臨戦態勢よ。

“理合”はなにもカウンターだけではないの。

つま先に体重が乗る―。



「あはは、家族以外の女の子と手をつないだの初めてだから、緊張しちゃいました」

ルーファスは照れ笑いを浮かべてそんなことを言ったわ。

「え?初めてなの?」

意外な言葉にわたしはつい聞いちゃった。いくら子供とはいえ、絶対モテるだろうに。



「はい。汗とかかいてなかったらいいんですけど…」

ルーファスは白手袋が汚れていないか心配してたみたい

わたしはあくまでも、そうあくまでも何の他意もないことを強調しておくけれど、気にする必要はないというメッセージを伝えるために白手袋を嗅いだわ。

「うん、いい匂い」



「え」

「ヘンタイ」

ルーファスには絶句され、クロには罵られたわ。

人間関係ってむずかしいと思ったわ。

善かれとおもってやったことなのに…。



「…あ、ボク、そろそろ帰りますね。お代はおいくらですか?」

「あ、そう?えーと、そうだな~。う~ん、ごめん、まだ決めてなかったや。だから、お客様第一号ってことでタダでいいよ」

「えっ!そんな、わるいですよ」

「いいの、いいの。ポーちゃん治ってよかったね」

「…はい!ありがとうございます!」

ルーファスはキラキラした瞳で帰っていったわ。



「…殺るかと思ったよ」

ルーファスに手を振っていると、クロはそんなことを言ってきたの。

「う~ん、毒気抜かれちゃったよ。それに、この生でのルーファスはわたしに何もしてないもんね」

「フッ」クロは口の端をあげて笑ったわ。そして「100点だな」と褒めてくれた。

「えへへ」

クロに頭をよせて、コツンとよっかかったの。クロの頭って、なんかいいのよね。小さいのに落ち着くわ。



「ポーちゃん可愛かったね~」

「なんだ?嫉妬か?」

「バッカじゃないの」

わたしはつい噴き出しちゃった。

「それを言うなら、お前はルーファスにデレデレだったな」

「いやぁ、あれはヤバい…」

「まあ、気持ちはわからんでもない」

「ね」



今生でのルーファスはまだまだ可愛い、いや、とても可愛い美少年だったわ。

美少女だと思っていた時は友達になりたいと思ったけど、ルーファスだと知ってから驚きで吹っ飛んじゃった。

「またポーちゃんの口が不調になったらくるかな?」

「来るんじゃね?ずいぶん感動してたし」

「そうね」

わたしはあのキラキラした目を思い出していたわ。きっと何度でも思い出す。だって、ものすごくいい思い出だもの。



「ねえ、クロ」

「なんじゃ」

「もしかしたら、今生では、ルーファスと友達になれるかもしれないわ」

「…フフッ、それはなかなか愉快な考えだな」

「うん!」

ルーファスの小さくなった背中を見送りながら、わたしは明るい未来に思いを馳せることができたの。

ありがとうルーファス。

今生ではよろしくね。

またのご来店お待ちしてるわ!

けど、ポーちゃんが苦しむのはイヤだから、それ以外で来てくれても歓迎するわ!





次の日、思いが通じたのかルーファスがまたやってきたの。

「あれぇ?どうしたの?」

手にはカゴも持っていない。服装も昨日とは違い魔法学園の制服を着ている。ベレー帽がこんなに似合う子もめずらしいってことだけは、特に言っておくわ。



まあ、正装という感じだったわ。

「あの、お願いがあります」

「え?なにかしら?」

ずいぶんあらたまった感じに、わたしもつい身構えたわ。



ルーファスは一歩踏み出してきて、思い切った様子でこう言ったのよ。

「弟子にしてください!」

「はあ!?」



ルーファスはまっすぐに曇りのないキラキラした目を向けてきたわ。



…困ったわね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

妹はわたくしの物を何でも欲しがる。何でも、わたくしの全てを……そうして妹の元に残るモノはさて、なんでしょう?

ラララキヲ
ファンタジー
 姉と下に2歳離れた妹が居る侯爵家。  両親は可愛く生まれた妹だけを愛し、可愛い妹の為に何でもした。  妹が嫌がることを排除し、妹の好きなものだけを周りに置いた。  その為に『お城のような別邸』を作り、妹はその中でお姫様となった。  姉はそのお城には入れない。  本邸で使用人たちに育てられた姉は『次期侯爵家当主』として恥ずかしくないように育った。  しかしそれをお城の窓から妹は見ていて不満を抱く。  妹は騒いだ。 「お姉さまズルい!!」  そう言って姉の着ていたドレスや宝石を奪う。  しかし…………  末娘のお願いがこのままでは叶えられないと気付いた母親はやっと重い腰を上げた。愛する末娘の為に母親は無い頭を振り絞って素晴らしい方法を見つけた。  それは『悪魔召喚』  悪魔に願い、  妹は『姉の全てを手に入れる』……── ※作中は[姉視点]です。 ※一話が短くブツブツ進みます ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

処理中です...