上 下
6 / 32

第5話 ヤナギの木の下に大人がいた

しおりを挟む
赤カブトの腹は虫らしくグネグネ動いていた。他の虫たちはわらわらと動き、ノコギリクワガタが下じきになっていた。



おれはおそるおそるビニールぶくろの中に手をつっこみ、赤カブトを取り出した。



赤カブトは根っこだけの足や角をしきりに動かしておれを攻げきしようとしていた。

強いやつだけにかわいそうだった。



おれは近くにあったクヌギの木に放してやろうとした。



だけど、かぎづめのような手はもう一本もなくて、無理だった。



おれは木の枝のところにおいたけど、赤カブトは歩こうとして動くから落ちてしまう。



そうだ!木の根っこのところにうめてやればいいんだ!



メスカブトが出てきたように、カブトムシは地面にもぐってねむる。



ねかせてやればいいんだ!



おれは木の根っこに赤カブトをおいて、地面を手で掘って、そこに赤カブトをおいて、土をかぶせた。



赤カブトは土が動いていたから、土の中でうねうね動いてるみたいだった。



おれはしばらく見ていた。土は動かなくなった。ねむったのかもしれない。



カが耳元をぷぅ~んと飛んでいた。うでに止まっているやつもいる。



おれはそいつをたたいて殺した。さされたところをつめで十字の形におす。



カを殺したのだから、赤カブトを重傷にしたことは大したことじゃないように思えてきた。



心が軽くなった。しょせんこの世は弱肉強食なんだから。



おれは立ち上がった。行こうと思ったけど、赤カブトのいる土の上にはアリが歩いていた。赤カブトがアリに食われるのはかわいそうだから、そのアリをつまんで草むらのなかに投げておいた。



これで助けた気分になるのはおかしいのはわかっているけど、なんか助けた気分になれて、おれは第五ポイントに進むことにした。



はあ、それにしてもおしいことをした。あんなツヤツヤした赤カブトはめったにいないのに。やっぱり今からでも掘りかえしてこようかな。足がなくてもいいんじゃないか?小さいカゴで、一匹だけ別で育てれば。



だけど、あのうねうね腹ばいで動いている赤カブトを見ているのはいやな気がした。かわいそうになってくるし、気持ち悪くなってくる。



さっき、赤カブトの腹を見た時、一しゅん、ゴキブリと同じじゃね?と思った。

一しゅんだけど。



ずっと見てたら、ずっとそう思ってしまうかもしれない。



思い込みで、カブトムシやクワガタがゴキブリと同じ価値になってしまうのはイヤだ。



おれは赤カブトはそっとしておくことにした。



それにしても、よけいな時間を食ってしまった。



暗かった空が、うす暗くなってきている。



もうこれでは大人に先回りして、第五ポイントに行こうとしたのはムダだったかもしれない。



大人はふつうの道順で第二、第三、第四をめぐって、第五ポイントでもカブトムシやクワガタをとってしまっているかもしれない。



あとは、ヘタクソでシロウトなのをいのるしかない。



そうすれば、第一ポイントと同じように残っているかもしれない。



それと、おれのテンションは下がっていた。



赤カブトにはかわいそうなことをした。



だから、もう急がないでゆっくり歩いていた。



かい中電灯も電池がもったいないから消した。このくらいのうす暗さなら、おれは目が良いから平気だ。



第五ポイントに着いた。そこはなぜかひらけていて、ポツンとヤナギっぽい木が立っている。



草むらから出る前に、ヤナギの下に大人がいるのが見えた。


んだよ!やっぱりかよ!と思ったけど、様子が変だ。


その大人はスーツを着ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

貧困家庭であり、学校でも虐められている少年が、将来有望なアリスお嬢様と脳移植で入れ替わるお話

ユキリス
ホラー
国により実施される政策に、少年は果たして─

【本当にあった怖い話】

ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、 取材や実体験を元に構成されております。 【ご朗読について】 申請などは特に必要ありませんが、 引用元への記載をお願い致します。

処理中です...