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第11話 招待

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流理が指輪で出したお茶とケーキを振る舞うと、アベルはとんでもないアーティファクトを無造作に見せられたことから、目を瞬き、ポカンと口を開けたが、頭をふって気を取り直した。



いちいちこんなことで驚いていては身が持たないと思ったのだった。



なにせ、あり得ないほどの魔力量を流理から直接感じたこともあるのだ。背中越しに感じた魔力量を思い出す度に、戦慄を覚えないわけにはいかなかった。



救世主アレキサンダーにも大きな力を感じたが、それにもまして流理の力は大きく、偉大なものに思えた。



そう、背中のやわらかな感触を思い出す度に、とても偉大なものに思えるのだった……。



「ん?どうしたんだい?顔が真っ赤だけど…」



「わっ」



流理は身を乗り出してアベルのおでこに触れた。



「ん~?」



流理の今日の服装はゆったりとした部屋着で、ワンサイズ大きなスウェットだった。



「……!!!」



アベルは自然、目をそらした。



目をそらした先に、目と口を邪悪にニヤニヤ歪ませたアカーシャがいた。目が合う。



「わしはアベルきゅんのそういう紳士で誠実で、奥手なところ好きじゃよ?」



近所のガキ大将だと思っていたアカーシャちゃんが、伝説の竜の王アカーシャだったとはにわかには信じられなかったが、今のこの年増女じみた笑顔こそが年経た竜の王だとアベルに確信させた。



「…ありがとう」



とりあえずお礼を言っておいた。伝説通りならば、ちょっとした粗相で国が滅ぶこともあるのだ。



「ん~?なんか一瞬すごく熱くなった気がしたけど、今はそうでもないなあ。むしろ冷えてる?」



「だいじょうぶです」



「そうかい。調子悪かったらすぐに言うんだよ」



「はい」



アベルはホッとしたように息をついた。好きな人が近づくと、まるで空気がうすくなるように感じられるのだった。



「で、今日は遊びに来てくれたのかい?」



流理が笑顔を向ける。



「あ、いえ」



「なんだい。行ってもいいですか、なんて言うから一週間も待ってたんだよ」



「ごめんなさい、城中の仕事で忙しくて…」



流理の不満顔がうれしくて、アベルの頬はおのずからゆるんだ。



「まあ、仕方がないか~。国家転覆レベルの大変な目にあったんだもんね」



アレキサンダーこと転生者根岸浩介によって、アルドラド王国は一時亡国の瀬戸際に追い込まれたのだった。考えてみればたいへんな大事件である。まあ、国を滅ぼそうとした竜の王は、今現在となりでケーキをパクついているのだが。



「ええ…。実は、今日来たのも公務の一環でありまして、これを…」



「んん?これは?」



アベルは白い封筒を流理に差し出した。手触りからして上質な紙であり、蝋に国印を押して封がしてある。



「招待状です。やはりアレクサンダーからの支配から抜け出せたのはルリさんのおかげですし、ぜひ内々にでもお礼申し上げたいと。パーティというよりお食事会ですので、ぜひ」



流理は堅苦しいのや派手派手しいのが苦手なのだろうと思い、アベルはなるたけ調整したのだった。



しかし、それでも流理は浮かない顔であった。



「う~ん、お誘いはうれしいけどねえ。わたしはテーブルマナーも知らないしねえ…」



無理もない。流理は転生する前は平々凡々な庶民の暮らししかしたことがないトラック野郎だったので、ホームパーティすらしたことがなかった。あえていえば小学生のころの誕生日会くらいのものだが、それがいきなり王国とよばれるところでお食事会は、いくらパーティでないといわれたところでハードルが高い。



というか、流理の胸中を正直に言えば、気後れというよりも、気詰まりになる自分が容易に想像できて、なるべく行きたくいのだった。



誘われたからといって、行きたくもないところには行かないのが流理の主義だった。



「テーブルマナーなんて気にしませんよ。ダメですか…?」



「う~ん…!!」



常ならば、即座に断ってしまうのだが、めちゃくちゃかわいいアベルくんに上目遣いされては、主義もグラグラに揺れようというもの。



流理にとって『かわいいものの願いはなるべく叶える』というのは主義を超えた性質の域であった。



「わかっ…」



流理があっさり主義を曲げようとした時、横からもみじのような手がサッと入ってきた。ホイップクリームを口の周りに盛大につけたアカーシャである。



差し出した手には真っ黒なカードがにぎられていた。



「ワシの方が先約じゃな」



「え?」



流理とアベルが同時にアカーシャを見た。



「近隣に住まう各種族の王どもが面通しを希望しておるのじゃ。これは招待状じゃ。ちなみに拒否権はないぞ」



竜の王アカーシャはクリームを口の周りにつけていようが、傲岸不遜に笑うのだった。
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