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第2話 リン・ハガクレ、”獅子の翼”をクビになる

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「聞こえなかったのか?お前はクビだ!」




ラッツ・スターは繰り返した。細面で美形と言っていい顔付きは、今は怒気を含んでいた。



しかし、リン・ハガクレはさらなる怒気で迎え打つ。




「あぁん?ンで、私がクビなんだよ!理由を言えよタコ助!」




ラッツは一瞬怒りで顔が真っ赤になったが、後ろに控えている黒魔術師のソフィー・ランドが咳払いをし、平静を取り戻した。



ソフィーの隣にはシーフのルア・トクトーもいた。彼女は腕を組んでリンを睨みつけていた。



三対一の様相であった。



四人は同じパーティであるはずなのに。



「…いいだろう。説明してやろう」ラッツは大仰に言ったものだ。「俺たち“獅子の翼”もついにAランクパーティに昇進した。わずか四人の小規模パーティでこれは快挙だ。だが、まだまだ満足する気はない。“覇道の車輪”のようなSランクパーティになるのが目標だ」




「あっそ」



「そんな俺の夢のパーティに“治癒補助師”なんて使えねぇ不遇レア職は要らねえ」




リンはすぐさま反論した。




「はぁ!?自己治癒力高めたり、疲れとかめちゃくちゃ取れるだろうが!」




ラッツは立ち上がり、机を叩いた。




「マッサージ師で十分なんだよ!それにもう代わりはいるんだ」




横の扉からダークエルフの女性が入ってきた。



金色の瞳は達観したようにパーティのいざこざを見下していた。



ラッツはそれには気づかず、リンに指を差し向けた。



無礼な、とリンは思う。




「彼女は“治癒術師”のエルザだ。お前と違って受けた傷を女神の加護で瞬時に癒してくれる。わかるな?徐々に治すなんてトロトロした“治癒補助師”は要らねえんだよ!」



「……てめぇ、それが創立メンバーへの言い様か?」




リンは度重なる暴言に体が熱くなるよりも、逆に冷えていくのを感じた。




「ああ、そうだよ。冒険者に泣き言は要らねえ。それに他のメンバーも全員さんせ」




リンはラッツをぶん殴った。




体が冷えたのは一瞬で、すぐさま体に熱が入り、熱風の如き拳をラッツの顔面に叩きつけた。



ラッツは吹っ飛び、ルアとソフィーが慌てて助け起こした。



エルザは口元をおさえ、小さく「まあ」と驚いているフリをした。隠れた口元には笑みが浮かんでいた。




「バーカバーカ!死ね!お前らが“覇道の車輪”になれるわけねーだろ!うんこ!」




リンは走って部屋から出て行った。



もう顔面の腫れてきていたラッツが「モンクにでもなりやがれこのトロール女!」と叫んだ。



リン・ハガクレは本日を以って若手ナンバーワンパーティと名高い“獅子の翼”をクビになった。



そして、“獅子の翼”はこの日から凋落していくのであるが、それはまた別の話である。
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