上 下
44 / 203
本編

No.39~テイムイベント説明

しおりを挟む
 次に目覚めた時は見知らぬ暗闇の中、あるいは洞窟の奥深く……。
 微かに見える天井は俺の部屋のものとは明らかに違った。岩のようなゴツゴツとした肌が見える。

「――ここはどこだ?」


 何時間、いや、数日寝ていたかのような錯覚すら感じる深い眠りからの覚醒。
 内側から釘を刺されているかのような頭痛に、一定の不快音が絶えない耳鳴り。鼻には劈くような腐敗臭が流れ込んでくる。
 五感の全てを嫌悪感に襲われ、俺は目を覚ました。

 ベタベタした液体を掴む感触のする手を見ると。

「赤色? ……血か!?」

 すぐにそれの正体に気が付いた。


 目覚めとしてはまさしく最悪なものだった。

 いつもなら身体が沈むくらい柔らかなベッドに任せている背中も、鉄のように硬く冷えた上で骨の音を鳴らしている。

「俺の部屋ではないな……」

 ついさっきまで夢を見ていた気がする。
 よく分からないロボットの声が延々と話しかけてくる、そんな変な夢。

 鼻に腐敗臭が染みた空気が入らないように大きく息を吸って俺は重い上半身を持ち上げた。

「なんなんだ、これは……」

 気付けば耳鳴りも落ち着いている。


 周囲を見渡すと、その匂いの元凶がひと目でわかった。
 ――死体だった。それも少し体が大きい、明らかに人間ではない『何か』の死体。

 顔が潰れているせいでなんの動物かは分からないが、死体が複数あることから群れで行動するタイプの動物らしい。

 見るも無惨なその姿を見て、喉まで上がってきた吐き気をグッと抑えた。

「狼か? それにしては大きいよな……?」

 手足が太く、その先端からは恐竜の化石で見たことあるような立派な爪が生えている。地面に争った跡のようなものがいくつか見えるが、多分この爪によるものだと思う。

「血のここから……」

 俺は自分の寝ていたところに血溜まりが出来ていたことに気がついた。
 服を見ると、右胸の辺りに爪に引っかかれたような大きな傷と出血の跡があった。


 ――自分の体を見て、まさかとは思った。

 足を見ると見慣れたすね毛はなく、足自体も随分と細い。予想をするに、小学生から中学生くらいの足だろうか。
 伸ばした腕は短く、手も小さい。いつもボサボサだった髪も今は違う。

 ……この状況から推察するに、おそらくそのまさかが正解だろうな。

「俺は……異世界転生したのか!?」

 俺のイメージとはかけ離れた異世界転生。
 漫画でよく見る異世界転生はもっと派手だった。超美人の神様に最強スキルをもらったり、美男美女の両親の元におぎゃあって生まれ変わったり。

 それなのになんだこれは。

 洞窟で、よく分からない動物の死体に囲まれて、血溜まり中で子供として目を覚ます。

「地獄か!? 異世界転生に見せかけただけで、ここは地獄なのか!?」

 その問いかけに答えてくれる者なんているわけがなかった。
 俺の悲痛の声は数回洞窟に響いた後、奥へと消えていった。

「はぁ、まずはこの洞窟を出ないとな。こいつらの仲間もまだいるかもしれないし……」

 多分、俺が今動かしている身体の主は死んでいる。
 あのロボットが言っていた『アルト・エンリア』って言う人物に変わって、俺がこの世界に産まれたのだろう。

 まだ子供だと思う。
 なんでこんな洞窟に来たのかは分からないが、これがとても早い『死』だったのには違いないだろう。

「この子の代わりに俺か……」

 小さく呟いた後、俺はアルトの体で立ち上がった。
 体が軽い気がした。いや、実際に軽いんだろう。背丈も俺の元の身体の半分くらいしかない。

 そろそろ暗闇にも慣れてきた頃合いか。
 先程よりも洞窟の奥が見えるようになった。

 早いうちに脱出をしないと。

「――と、その前に」

 脱出を急ぐ体を、俺脳は静止させた。
 一つやり忘れたことを思い出した。


「あの声が言うには、俺は今《死霊術師ネクロマンサー》だったよな?」

 つまりはこの転がっている死体も操れるってことではなかろうか?

 ファンタジー世界に出てくる死霊術師って悪者ばかりな気がする。
 それもそうか。能力的に聞こえのいいものじゃないし、人によっては気持ち悪いって思うだろう。

 それに倫理的にもよくないと思う。けど、狩りをするのと結果的にはなんら変わらない。生きるためにできることをやる。ただそれだけだ。

「あいつなんて言ってたっけ。……確か――『目覚めろ』」

 どうやら正解だったのか。
 俺の呼び掛けに呼応するように、獣の死体から黒い煙のようなものが湧き水の如く吹き出した。

「こういうときなんか言った方がいいかな? 南無阿弥陀仏……」

 一応手を合わせておく。

 そんなことをしている間に、黒い煙は徐々に獣の本来の姿を象って、変化していた。

 気体だったそれは、気付けば今では毛並みまで綺麗に再現されていた。潰されていた顔も元通りになっており、異世界なだけあってか、あっちの世界じゃ見たことない姿をしていた。

「これが異世界のモンスター……」

 死体を操る、というより、死体の形をしたものを操ると言った感じだろうか。
 黒い獣が完成した今も、死体は床に寝ているのが俺の仮説を裏付ける証拠だろうな。

「よし、揃ったか?」

 頼もしい味方が手に入った。
 五匹の獣。それぞれ体はしっかり大きい。
 身長は俺の今の体の三倍くらいだろうか。獣の顔は見上げた場所にあった。
 これが生前の等身大だろうか。個体差があるのはそういうことか?

 名前も知らないので、とりあえず元いた世界で一番姿が似ているであろう生き物――狼(仮)と呼ぶとしよう。

「体が一番大きいお前。名前は……うん、狼一号。お前は何ができる?」

 ガォォォオオン――安直すぎる名前を気に入らなかったのか、狼一号は雄叫びを上げた。
 巨躯から放たれたその轟音に、大地は大きく揺れ、俺も思わず耳を塞いだ。

 たった数秒。
 たった数秒で床に転がっていた死体は壁側へと吹き飛び、周囲の地面が軽く抉れていた。


「なんだよ今の! 俺を殺す気か!? 他の奴らに居場所が気付かれたらどうすんだ!」

「わふん」

「なんだよ、名前が気に入らなかったのか?」

「わふん」

 狼一号は首を縦に振った。

「わかったよ、なら……」


 不服そうだから名前を決めてあげるとする。
 だが、残念なことに俺の頭では全く思い浮かばない。
 昔からペットなんて飼ったことがないし、名前をつけることなんてそもそもなかった。ゲームでも適当に『あああああ』とかにしてたし……


「――あ、お前の名前は『こむぎ』にしよう!」

 ふと浮かんだ、俺が人生で唯一可愛がっていた生き物の名前。
 小学二年生の時にクラスのみんなで育てていたうさぎの名前だ。

 それも安直すぎる、と言われればそうだろうが、まぁこいつ自身は喜んでるみたいだし。

「わふん!」

 名前をつけたことに意味があったかは分からないが、こむぎは満足そうにお座りした。
 心なしか尻尾も揺れている。体は大きいが、犬みたいな感じだ。

 それに毛はもふもふもしている。
 今でこそ味方ではあるが、これが一匹でも敵として出てきた時点で為す術なく、俺は転生早々に死んでいただろうな。

 視線を感じて振り返ると、ほかの四匹も期待するかのような視線を俺に向けていた。
 こむぎの名前だけでも考えるのに苦労した(※うさぎの名付け親ではない)っていうのに、四匹分の名前なんてすぐに思い浮かぶわけが無い。

「また考えとくよ」

 その言葉を理解したのか、少し悲しそうにして四匹は拗ねたようにそれぞれの方向へ離れていった。

 心強い仲間も出来たことだ。本来の目的でもある『この洞窟からの脱出』を始めるとしよう。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

スキルが芽生えたので復讐したいと思います~スライムにされてしまいました。意外と快適です~

北きつね
ファンタジー
 世界各国に突如現れた”魔物”。  魔物を倒すことで、”スキル”が得られる。  スキルを得たものは、アニメーションの産物だった、魔法を使うことができる。  高校に通う普通の学生だった者が、魔物を見つけ、スキルを得る為に、魔物を狩ることを決意する。  得たスキルを使って、自分をこんな目に合わせた者への復讐を誓う。  高校生だった者は、スキルの深淵を覗き見ることになる。芽生えたスキルは、強力な武器となる。 注)作者が楽しむ為に書いています。   復讐物です。いじめや過激な表現が含まれます。恋愛要素は皆無です。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。   誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ジャージ女子高生による異世界無双

れぷ
ファンタジー
異世界ワーランド、そこへ神からのお願いを叶えるために降り立った少女がいた。彼女の名前は山吹コトナ、コトナは貰ったチートスキル【魔改造】と【盗む】を使い神様のお願いをこなしつつ、ほぼ小豆色のジャージ上下でテンプレをこなしたり、悪党を改心させたり、女神になったりするお話です。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...