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「ねえ。本当に、この格好でなきゃダメなのかな?」
 一方千尋は、少しぶかぶかのメイド服を身につけ、裾を握り締めていた。
「当たり前だろ。俺だって着るんだから」
 そう言う、クラスメイト・佐藤は、魔法少女のコスプレだ。
 こちらはぴちぴちに小さく、裾から覗いたムダ毛の多い生足が痛々しい。

 ただの迷路では、面白くない。
 行き止まりに罰ゲームを用意しよう、とのアイデアは、いったい誰が言い出したのか。
 そこには女装した男子生徒が待ち構えており、無理やりキスを迫ってくるという演出が加えられることとなったのだ。

「てか、河島。お前、普通に可愛いんだけど!」
 男子も女子も、メイド姿の千尋を撮影して喜んでいる。
「これって、罰ゲームっていうより大当たりなんじゃない?」
「ちゃんと迫れよ? キスしろよ!?」

 あぁ、と千尋は手で額を押さえた。
 こんなコスプレ、弦先輩には見せられない! 
 男らしい弦先輩は、女装男子なんか嫌いに違いないんだから!
 最悪、相部屋を追い出されるかもしれない、と千尋は恐れていた。
(でも、絶対来ちゃダメって、言っておいたし)
 こんなチャラチャラした催しは、先輩は嫌いだと言っていた。
 きっと、サボってくれるに違いない。
 明日一日だけの辛抱、と千尋は大きくため息をついた。

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