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 藤原家に仕える使用人の婚姻は、許されている。
 いや、むしろ推奨されている。
 優秀な血統が未来に続く事を期待され、またその子孫が藤原家に仕える事を期待されるのだ。
 だから適齢期になると、当主が結婚を勧めてくることが常だった。
 暁斗も例外ではなく、これまで何度か結婚話を持ちかけられたが、そのたびに受け流してきた。

『私には、この藤原家より他に大切なものは必要ございません』

 そう言って、断ってきた。
 そして、昴もそれを知っていた。
 暁斗が縁談を断るのは僕の為だ、と、嬉しく思っていたものだ。
「……暁斗」
 昴が口を開いたので、暁斗は自分の頬に当てた彼の手を握った。
「僕は、何のために生まれてきたんだろう」
 返事を求めている口調ではなかったので、暁斗は沈黙でそれに答えた。
「藤原家の人間として、未来を築くため、だよね」
 ぽつり、ぽつりと呟くように話す昴だ。
「家、ってなんだろう。どうして、好きな人と一緒になることが許されないんだろう」
 それを思うと、自分はどうして藤原家に生まれてきたのかと、呪いたくなる。
 どうして僕は、暁斗を好きになっちゃったんだろう。
(せめて暁斗の子を、この世に残せたらいいのに)
 そうすれば、愛する人の血脈をこの世に残せた、と思えるのに。
 子どもには、僕の分まで幸せに生きて欲しい、と思えるのに。
 だが、それもかなわぬ話だ。
 オメガの昴が、執事の暁斗との間に子どもを設けたとなると、藤原家は隠ぺいするだろう。
 暁斗は、厳重な処罰を受ける。
 そして昴は、大急ぎで中絶させられ、しかるべき名家に婿入りだ。
 昴は、途方もない絶望感にさいなまれていた。

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