星をあなたに ～不思議ちゃん・伊予の正体は……男の娘！ それを知った上司の英治は……？～

5

　タクシーを降り、伊予は賃貸マンションへ帰った。
　ぽいぽいと服を脱ぎながらバスルームへ向かい、シャワーを浴びる。
　湯上りの肌をバスタオルで拭き、神を乾かす。
　とぼとぼと、うなだれたまま、クローゼットのあるフローリングへ進んだ。

「大沢さん、ごめんなさい」
　そして伊予は、引き出しを開けて下着を取り出した。

　肌触りの良い、やわらかい伸びにこだわった素材。
　透け感を生かして重ねた、チュールのグラデーション。
　リバーレースの、上品なデザイン。

　それらは全て、女性用のインナーだった。

　さらに、黒のストッキングを出して、穿く。
　アイボリーホワイトのニットに、タータンチェックの膝上丈スカート。
　最後に、サラサラの長い黒髪ウィッグを着けて、完成。

「大沢さんの想い人は、僕なんです！　でも、女装が趣味だなんて、知られたくないし！」
　うわぁん、とすっかり女性に変身した伊予は、手のひらで顔を覆った。
「どうしよう。どうしたら、いいんだろう！」

『何か心配事でも？　私でよければ力になるよ？』

　困った時には、いつも優しく掛けられる、落ち着いた声が伊予の脳裏に響いた。
「マスター！　マスターに、相談しよう！」
　時計は、10時を少し回ったところだ。
『カフェ・がらくた』は、0時までやっているので、まだ充分間に合う。
　伊予はその格好のまま、マンションを飛び出した。