星をあなたに ～不思議ちゃん・伊予の正体は……男の娘！ それを知った上司の英治は……？～

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　デスクの置時計は、まもなく定時を指し示す。
　伊予は、背筋を伸ばしてオフィスを見回した。
　その目に飛び込んできたのは、うつむき加減で目頭を押さえる、大沢 英治（おおさわ えいじ）の姿だった。

　伊予の上司、大沢 英治部長。
　彼と一回りも年上の、34歳。
　それでも、30代の若さで部長の役職に就いていることは、英治の有能さを物語る。
　もちろん、この会社が設立して間もない、ベンチャー企業だから、という見方もある。
　だが彼は、名実ともに社内でも人気の高い上役だった。

　一手先、二手先まで見通す、鋭い洞察力。
　部下の失敗を咎めない、懐の深さ。
　さらに、落ち着いた立ち居振る舞いに、低く甘いイケボ。
　背は高く、筋肉質の締まったボディに、彫りの深い端正な顔立ち。
　とどめに、まだ独身、とくれば、英治のパートナーになりたいと願う社員は大勢いた。

（その大沢さんが、目頭を押さえている……！）
　伊予はすぐに席を立ち、彼のデスクへと向かった。
　書類の山、分厚いフォルダー、数々の付箋。
　デスクトップ以外に、2台のノートパソコン。
　いつも清潔に整えられているはずのデスクが、過去最大の散らかりようだ。
　それらに囲まれた英治の姿は、一見して彼の多忙さを物語っていた。
「お疲れですか、大沢さん」
　伊予は、思わずそう声を掛けていた。