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 ドアのノックで、藍は目を覚ました。
「渡辺さんかな」
 ベッドから半身を起こし、寝室に入って来る人を待ち受けた。
「具合は、どうだ」
「平さん」
 そこには、スーツ姿のままの雅貴が。
 仕事帰りで、そのまま直行してくれたに違いない。

「はい。あの……」
 お帰りなさい。
 藍はまず、雅貴に優しい言葉をかけた。
 その言葉に、少々驚いた顔の雅貴がいる。
「いや。その」
 ただいま。
 返って来たのは、優しい言葉。
 こんなにありふれた普段使いの言葉が、二人にはひどく嬉しかった。

「強いストレスを受けた、と医者に聞いた」
「はい」
「辛かったな」
 その言葉に、藍の瞳から涙がこぼれた。
 こんなにも温かな声をかけてくれた人は、初めて。
 次から次へと湧いて出る涙が、止まらない。
 雅貴はハンカチを出して、その涙をぬぐってくれた。

「あ、ありが、とう。ございま……、うぅっ」
「好きなだけ、泣くといい」
 傍に、居てあげるから。
 藍は、泣いた。
 雅貴の腕にしがみつき、涙が枯れるまで泣いた。


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