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しおりを挟むスーツのジャケットを若い者に渡し、遠田はシャツの袖をまくった。
「遠田さん、私のタイを貸しましょう。拳に巻いてください」
「お前を殴って痛めるような、やわなゲンコツじゃねえよ」
覚悟はいいな、と遠田はまず思いきり真を一発殴った。
カッコよく一撃で沈めるつもりだったが、真は両足で立っている。
「ちッ!」
2発、3発、殴った。
だが、真は涼しい顔をして立っている。
「そのすかした面、グチャグチャにしてやるぜ!」
何度も顔を殴られ、真の口から血が流れる。
続けざまに殴られるので、足元がぶれる。
だが、その心は折れず、信念はぶれない。
とうとう遠田は、持ち玉の10発を使い果たしてしまった。
「しぶとい奴だ」
「遠田さん、息が上がってますよ」
では、と真は口元の血を手でぬぐった。
「今度は、こちらから」
「1発、だったな。俺が立ってたら、この店で好きにさせてもらうぜ?」
「どうぞ、ご自由に」
言葉の終わらぬうちに、真は素早く遠田の懐に潜り込んだ。
畳んだ腕を、低い位置から一気に突き上げる。
見事なアッパーは、遠田の顎をとらえて跳ね上げていた。
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