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しおりを挟む「やけに真剣な顔をして食べるなぁ。口に合わなかったか?」
「いえ。この味、どうやったら盗めるかなぁ、って」
真は、杏の言葉に苦笑した。
「デート中に仕事の話は、無しだぞ」
「すみません!」
でも、どれも本当に美味しくて。
「僕なんか、まだまだだなあ、って思います」
「そんなことはない。君の作る料理は、最高だ」
杏の料理は、二度と同じものが出ないのだ。
「例えば、茶わん蒸しを作ってくれたとする。そして次の茶わん蒸しは、前の茶わん蒸しより確実に美味くなってるんだ」
「わ、解ってくださってたんですか?」
反省を踏まえて、次回は出汁に工夫をしてみたり。
有名料亭のレシピを、真似してみたり。
そんな風に、杏はいつも精進を欠かさなかった。
「いつも、美味しい料理をありがとう。本当に感謝してるよ」
「そんな。僕の味なんか、まだまだです。でも……、ありがとうございます」
「感謝の気持ちを表そうと思ってね。今夜は、このホテルにお泊りすることになってる」
「え!?」
「掃除も洗濯も、明日の朝食も何も考えないでいいんだ。あとは、寝るだけだ」
複雑な表情の杏を見て、真はただ微笑むにとどまった。
確かに今夜、このホテルで初夜を迎えられればどんなにいいだろう。
(だが、ただぐうぐう眠ってしまってもいいんだよ、杏)
真は、穏やかな気持ちに落ち着いていた。
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