二つの顔を持つ二人 ～イケメン俳優×カフェの少年～ 彼の前でなら本当の自分を見せられる

1話 幸せのルフラン

「皆さん、ご心配おかけしました！」
　傷ましい事故から、3ヶ月。
　リハビリを終え、カフェに復帰した郁実を、スタッフたちが拍手で温かく迎えた。
「やっぱり店長がいると、店の雰囲気が良くなりますね」
「癒される～、って感じ！」
　違いない、と皆でうなずき合い、店長復活を喜んだ。

　復帰前に、久しぶりに店内に入った時は、ひどく驚いた郁実だ。
　記憶にあった父のカフェと、全く違う内装になっているのだから。

『ここ、父さんのカフェ、ですよね？』
『そうだよ。だけど今は、郁実のカフェだ。だから、内装も変わってるんだよ』

　まだ心身が完全に治っていない郁実のそばには、いつも颯真がいた。
　彼が、動揺しないように。
　深い悲しみに、暮れないように。
　颯真は郁実に寄り添い、支えたのだ。

　郁実は、颯真の説明やアドバイスを受けながら、少しずつ慣らしていった。
　父の死を受け止め、自分の店を動かす、心の準備を整えていった。
　スタッフの顔と名前も、改めて覚えなおした。

　明るい店内と、陽気なスタッフたちに囲まれて、郁実は満面の笑みだ。
　そこへドアベルが鳴り、背の高い男が現れた。
「現場復帰、おめでとう！」
「颯真さん！」
　颯真が、美しい蘭の鉢植えを持ってやって来たのだ。