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1話 颯真という男

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 父の法要を終えた郁実は、ほどなくしてカフェを再開させた。
 店の存続を心配していた常連客たちは、とても喜んでくれた。
 若くして店長になった郁実を応援すべく、変わりなく訪れてくれた。
 店内を流れる音楽は、父の生前と変わらず、ジャズだ。
 だが、内装を思いきって変えた。
 お客さんが増えますように、と颯真がプロデュースしたのだ。
 テーブル、椅子などの家具から、観葉植物、壁の色調、窓辺の装飾まで一新させた。

「何だか、別の店になっちゃったみたいだねぇ」
「いいえ。父さんの店は、何にも変わりませんよ」
 常連に、郁実は笑顔で答える。
 颯真の気遣いを、彼は理解していた。

 店の模様替えは、僕がいつまでも父さんの死を悲しまないようにするため。
 父のぬくもりの残る店では、つい涙がこぼれてしまうのだ。
 それに、颯真はこんなことを言ってくれた。

『ここはもう、郁実の店なんだ。君の思うように、好きな色に変えていくんだ』

 そして、立派に独り立ちしてくれ。
 マスターを、越えて見せてくれ。

 はい、と郁実は深く頷いていた。
 父さんの残してくれた、この店。
 その名に恥じないような、美味しいコーヒーを淹れるんだ。
 郁実は、強く決意していた。

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