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 茶亭で抹茶と和菓子をいただきながら、颯真はさりげなく郁実に話を振った。
「そういえば、郁実くんの誕生日って、いつだっけ」
「今日です」
 郁実はさらりと答えたが、颯真はむせるところだった。
「き、今日!?」
「はい」
 郁実は郁実で、きょとんとしている。
「だから、お花見に誘ってくれたんだと思ってました」
「いや、あぁ、ごめん。それは、知らなかったな……」

 だったら、もっと豪華なデートコースにすればよかった、と颯真は頭をかいた。
 しかし郁実は、朗らかな笑顔を見せた。
「いいえ。最高の誕生日ですよ」
 学校の、校庭に植えてある桜並木。
 それ以外の桜を見たことなんか、これまでなかったから。
 カフェが年中無休で、お花見に行く暇なんてなかったから。
 そう、答えた。

「颯真さん、今日はお休みなんですか?」
「うん。明日の10時まで、オフだよ」
「じゃあ、お願いがあるんですけど」
「何かな?」

 郁実は、わずかにためらう仕草を見せた後、颯真にねだった。
「マンションで、僕とのんびり過ごして欲しいんです」
「せっかくの誕生日だから、高級ディナーでも、と思ってたんだけど」
「颯真さんと一緒なら、どこで何を食べても御馳走ですよ」
(ああ! 何て嬉しいことを言ってくれるんだ!)
 
『颯真さんと一緒なら、どこで何を食べても御馳走ですよ』

 郁実の性格からして、これは狙って言ったのではないだろう。
 心から素直に、そう思ってくれているに違いない。
 しかし、破壊力抜群の殺し文句だった。


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