月明かりの下で 【どうしよう。妊娠したんだ、僕】

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　稀一はやはり、ミシュランホテルで、豪華なディナーをプレゼントしてきた。
　会話は、テニスや映画の話題。
　稀一がゼミで、教授を論破した自慢話も、時折混じった。

　蒼生は、いつものように、それらを大人しく聞いていた。
　いつもの蒼生を、演じていた。

　食事が終わり、誘われるままホテルの部屋へ。
　展望台のように大きなガラス窓の向こうには、月が昇っていた。

「月明かりの下だと、何だか素直になれるよな」

　稀一は、あえてその言葉を口にした。
　以前、蒼生に告白した時の言葉。
　あの頃に戻って、やり直す気でいた。

「もう一度、付き合わないか。俺と」

（そう来ると思ってましたよ、稀一さん）
　蒼生は、あまりに事が思い通りに運ぶので、可笑しくなった。
「捨てた玩具が、惜しくなりましたか？」
　挑むような蒼生の言葉に、稀一は少々面食らった。
　戸惑う彼に構わず、蒼生は続けた。

「よりを戻してもいいけど、条件があります」
「何だか今夜は、蒼生らしくないな」

　そうですか？　
　蒼生は、飄々と言ってのけた。

「これが、僕です。椿 蒼生と言う人間ですよ。それでも良ければ、またお付き合いしましょう」
「……条件、とは？」

　従順なオメガとばかり思っていた蒼生が、まるで高潔なアルファのように揺さぶってくる。
　稀一は、そんな彼に、改めて興味を持った。
　一層、蒼生のことをまた欲しくなった。