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10章 巻き込まれた兄の話

生きてて良かった

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 再びの天井。

 先程と違うのは周囲に人の気配があって、額に冷たさがあったことだった。顔だけ気配の方に向けると妹を始めとした面々が揃っていた。

 妹に工藤さん、樹神さんに北御門、堂島さんと西野さん。あとはポンポコリン。タブレット端末には我が女神である汐見が映っていた。妹はすっぽんぽんではなく有名スポーツブランドのジャージを着ていた。銀髪赤目なコスプレ紛いの姿にジャージは違和感があった。

 勢揃いである。

「お、ようやっと起きたな。この寝坊助さんめ」

 一番最初にこちらに気付いたのは樹神さんで、白い歯を見せて出迎えた。

 痛む身体を言い聞かせて上体を起こす。保冷剤を包んでいた濡れタオルが落ちる。

 おはようございます、とでも言おうとした瞬間。

 前方からの衝撃によって上体は再び枕へ舞い戻った。おそらく首も痛めた。

 衝撃の原因は妹であった。飛び付くように抱き着いてきたせいだ。妹は泣きじゃくって酷い顔をしていた。瞼を腫らし、鼻水を垂らし、頬は真っ赤。三歳児が感情を爆発させているのとなんら変わらない。

「生ぎてでよがったぁ!」

 鼻水を俺の服に押しつけてくる。

「それはあの戦いで目が覚めなかったことか? それとも瓶をぶつけたことに対してか?」

「どっちもぉ!」

 人目を憚らず泣きじゃくる妹の頭を撫でる。そのまま迎え入れ、顔は他の人に向ける。

「ご迷惑おかけしました」

 そう告げた。

「かまへん。むしろ、こっちの手落ちで攫われる羽目になったんや。こっちが謝るべきや」

「工藤さんらはあのあと無事回収されたようで良かったです」

「いや、ほんと大変やったんやで」

 俺が洋館で過していた頃の話や決戦後から今に至るまでの経緯の説明があった。

 俺が洋館に攫われた後、迎え入れるはずの自衛隊からなかなか現れないという連絡が西野さんの元へ入る。既に出立していてもう到着していてもおかしくなかった時間に入った連絡に現場は大慌て。まず疑われたのは堂島さんの裏切り。すぐさま包囲網を敷き、捜索が始まった。堂島さんと工藤さんが木に縛られた姿で見つかり、疑いは晴れたものの俺が攫われたことが周知になり、森の中に外国勢力のロボットがいたものだから政府は大混乱。その後はケイオスがメディアジャックしてぶちまけた内容と一致した。

 決戦後、とある筋から俺の居場所がリークされた。その筋とは工藤さんであった。正確には工藤さんを窓口とした桜庭からのものであった。

 なんでもライブ後、ケイオスが投げやりになったのを知った桜庭はそれぞれの落とし所を見つけるために動き回っていたようであった。ケイオスを殺し、神の力で俺との他戦いに臨んだ際に誰も邪魔をするなと根回ししていたらしい。

 リークは自動メッセージによるものだったらしく、メッセージに従って洋館に樹神さんらが向かい気を失った俺らを保護したらしい。俺はその名の通り、保護であったが桜庭には様々な嫌疑が掛けられているので堂島さんら公安が引き取ることになった。意識が戻るまでの入院措置。しばらくの監視も付くという。

「色々あったんですね。……ところでこれの説明はまだ受けていませんがどういうことでしょうか?」

 少しばかり落ち着いたものの俺の膝に顔を埋めて腰に抱き着いて離れない妹の銀髪を摘まみ上げた。
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