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8章 神と巫女
暴走
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妹と出会ったのは俺が小学生の頃であった。
親がそれぞれ浮気し合って、互いにバレて、円満離婚した末に出会ったのが妹であった。妹は幼稚園児で詳しい事情を何も覚えておらず、知らされてもいないようだが、俺は全て覚えていた。父と本当の母が毎日夜遅くまで言い争っていたこと、両親それぞれの浮気相手を紹介されたうえで口封じされていたことなど。
出会った当初、いや兄妹になってから五年ほどの間、妹は人見知りの激しい性格であった。特に俺に対しては酷かった。兄として優しくしていたつもりであったが、荒れて自分の殻に閉じこもっていた俺は妹の目からすると非常に恐ろしいものに見えたのだろう。
それが変わったキッカケ――図々しい性格に変わったキッカケはおそらく妹の入院だったと思う。
中三の冬、汐見が有名になる宣言をした後日のことであった。
小学生な妹がどこかへ行きたいと両親に駄々をこねた。その日、両親はそれぞれ急な用事でそれどころではなく俺にどこかへ連れて行くように厳命される。妹は最初渋い顔をしたがこのまま休日を潰して一日暇するぐらいならばと渋々それを呑んだ。
とは言っても近くに遊園地などあるわけがなく連れて行った先は大型ショッピングモールのゲームセンターであった。娘に甘い両親から軍資金はたんまり頂いていたから時間は潰せるだろう。ゲームに飽きたら併設されている映画にでも行けばいいだろうという魂胆だった。
徒歩二十分ほどのそこで夕方まで遊んだ帰り道にそれは起きた。
当時話題になった原因不明の自動運転機能の暴走だ。
当初は事故車に問題があったかと思われたそれは、同様の事件が起こるにつれて車種、ソフト、オペレーティングシステムまで対象を広めたが全てが異なる車でも同様の事件が頻発した。そのうち事件が収束し、原因の特定ができないウイルスの仕業ということで決着した。
その事件の被害者に俺ら兄妹は含まれていた。
妹は帰り道、ご機嫌であった。
足取りは軽く、満足げな顔で俺の先をテンポよく歩いていく。
二人きりでその顔を見たのは初めてであり、多少は兄としての務めを果たせたような気がした。ただやはり目が合うと気まずそうに視線を外されてしまっていたが、今までの蛇に睨まれた蛙のような硬直ぶりからすると大きな進歩であった。
信号が青に変わり、妹が先に進んでいく。
俺もゆったりと歩き出した時に視界の端でおかしな挙動をする車に気付いた。静音で駆動するはずの現代のエンジンがけたたましく唸りをあげ、突っ込んでくる。その勢いはすさまじく、周囲の人全てがその車に視線を集めていた。
妹も同様であった。
何事かと思い、足を止めて音のする方向を見つめていた。
立ち止まったそこは暴走車の進行方向であった。
親がそれぞれ浮気し合って、互いにバレて、円満離婚した末に出会ったのが妹であった。妹は幼稚園児で詳しい事情を何も覚えておらず、知らされてもいないようだが、俺は全て覚えていた。父と本当の母が毎日夜遅くまで言い争っていたこと、両親それぞれの浮気相手を紹介されたうえで口封じされていたことなど。
出会った当初、いや兄妹になってから五年ほどの間、妹は人見知りの激しい性格であった。特に俺に対しては酷かった。兄として優しくしていたつもりであったが、荒れて自分の殻に閉じこもっていた俺は妹の目からすると非常に恐ろしいものに見えたのだろう。
それが変わったキッカケ――図々しい性格に変わったキッカケはおそらく妹の入院だったと思う。
中三の冬、汐見が有名になる宣言をした後日のことであった。
小学生な妹がどこかへ行きたいと両親に駄々をこねた。その日、両親はそれぞれ急な用事でそれどころではなく俺にどこかへ連れて行くように厳命される。妹は最初渋い顔をしたがこのまま休日を潰して一日暇するぐらいならばと渋々それを呑んだ。
とは言っても近くに遊園地などあるわけがなく連れて行った先は大型ショッピングモールのゲームセンターであった。娘に甘い両親から軍資金はたんまり頂いていたから時間は潰せるだろう。ゲームに飽きたら併設されている映画にでも行けばいいだろうという魂胆だった。
徒歩二十分ほどのそこで夕方まで遊んだ帰り道にそれは起きた。
当時話題になった原因不明の自動運転機能の暴走だ。
当初は事故車に問題があったかと思われたそれは、同様の事件が起こるにつれて車種、ソフト、オペレーティングシステムまで対象を広めたが全てが異なる車でも同様の事件が頻発した。そのうち事件が収束し、原因の特定ができないウイルスの仕業ということで決着した。
その事件の被害者に俺ら兄妹は含まれていた。
妹は帰り道、ご機嫌であった。
足取りは軽く、満足げな顔で俺の先をテンポよく歩いていく。
二人きりでその顔を見たのは初めてであり、多少は兄としての務めを果たせたような気がした。ただやはり目が合うと気まずそうに視線を外されてしまっていたが、今までの蛇に睨まれた蛙のような硬直ぶりからすると大きな進歩であった。
信号が青に変わり、妹が先に進んでいく。
俺もゆったりと歩き出した時に視界の端でおかしな挙動をする車に気付いた。静音で駆動するはずの現代のエンジンがけたたましく唸りをあげ、突っ込んでくる。その勢いはすさまじく、周囲の人全てがその車に視線を集めていた。
妹も同様であった。
何事かと思い、足を止めて音のする方向を見つめていた。
立ち止まったそこは暴走車の進行方向であった。
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